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2012年02月12日

「秘められた映像」の封印を解く ~運命の第2ヒート・再び③~

「秘められた映像」の封印を解く ~運命の第2ヒート・再び③~ 「12分08秒」のところで一時封印しておいた「映像」を、もう一度「11分50秒」まで戻して、改めて再生ボタンを捺す。
 ひと塊りとなって最終コーナーを立ち上がる17台のマシン。先導していたペースカーが右のウインカーを点滅させ、ピットロードへと逸れる。大写しされる安友義浩競技長の端正な面立ちに、一瞬、祈るような表情が加わる。背後から、グリーンの旗をひねり出した。その時、ぼくのiPadのカウントは11分54秒を表示している。
 磯部アナウンサーの実況する声が、1オクターブ、上ずった。
「安友競技長のイエローフラッグが、いま、グリーンに変わりました! 第2ヒート、一斉にスタートです」


*第2ヒート、スタート!

 そこからは、鎖から解き放たれたGCマシンのストレートを疾走するエンジン音が、支配する。レースが始まった時に聴く胸をかきむしるようなあのサウンドが、画面の左から右奥へと移動した、と思ったら、カメラがパッと入れ替わって、第1コーナー奥からのアングルとなった。望遠レンズが精一杯の機能を発揮して、グランドスタンド前から、こちらを目指すトップ集団をとらえる。赤いマシンが、トップをキープした高橋国光選手に違いない。背後に張り付いている同じ赤いカラーのマシンが黒沢元治選手だろう。その向って右に白いマシンが並走している。これが北野元選手。この段階で各車の車間距離は全く分からない。が、北野選手のマシンからグリーンゾーンまで、2車身ほどの余裕があるのは確認できた。のちに、このレースに出場しマシンを失った漆原徳光選手が中部博さんに語っていたのは、この瞬間のことだったろう。このとき漆原選手のポジションは10番手で、5列目のイン側であった。

「ローリングのスピードが速かった。そうして団子状態になってマシンの間隔が詰まってきた。感情が昂っているから追いついてきたのですね。それでスタートすれば、一斉に横に広がり、バンクの手前数百メートルになればラインは1本しかないのだから、このままいけばどんな事故が起こるか分からないと思いました」(『レーシングオン』2008年11月号「まだ振られていないチェッカーフラッグ」より)
その時の漆原選手の脳裏にふたりの先輩の助言がよぎったという。「抑えなさい。レースは貸し借りの世界だよ」「あなたはレーサーじゃないでしょう。ほかの人生が用意されているでしょう」と。で、スタート直後に、全開にしていたアクセルペダルを半分もどした。それでも彼はクラッシュに巻き込まれてしまう。

*映像カウント:12分04秒


*12分04秒、北野車の右前カウルは持ち上がった瞬間


*北野車の向きが変わる。ここで接触か。

 白煙のようなタイヤスモークに包まれながら、正面から各車が団子状態で現れるのをとらえたのが「12分01秒」。右手に黒いシグナルポストが見える。そしてペースカーらしき白いマシンが向かって左方向に逸れていく。塊があっという間に割れて、左右に広がった。間違いなく、先頭の高橋国光車が背後の黒沢車を自分のスリップに入れまいとして、向かって右へ針路をかえたのが、見てとれた。だから、白い北野車の姿はむかって左半分が隠れて見える。それが「12分03秒」だった。
 12分04秒――国光のマシンのフロントノーズが、ややアウト側に向く。向かって左に黄色いマシン。高原車だ。この時黒沢車は神隠しにあったように画面から姿を消している。翼を広げたように横いっぱいに膨らんだ列の中央をつき進むグリーンのマシンが都平健二車。そしてピット方向の白のマシンが生沢徹車。さらに左に見えるのが長谷見昌弘車の黄色のマシン。参考までに挿入した各車の位置取り図の《第3図》をご覧あれ。それを正面から望遠レンズでとらえた映像が、次の「12秒05秒」になる瞬間、激変する。

 白い北野車がグリーンゾーンにはみ出しそうになる直前だった。北野車の右側がポコッと膨れ上がる。カウルが持ち上がったのだ。一時停止にして、もう一度確かめてみた。国光車の真後ろにいた黒沢車の赤いボディがわずかに姿を覗かせ、それが北野車の白いボディと密着しているようだ。これは初めて目にする映像ではないだろうか。おそらく、黒沢/北野車が最初に接触した瞬間が、この時だろう。それまで両車の間には、確実に空間があったといっていいだろう。あとで紹介するが、実はこの後、グランドスタンド上部からのアングルで、スタート直後の映像を見ることができる。そこのところについては、かなり核心をついた様子が把握できるのは、そのためである。


*12分06秒


*12分07秒


*12分08秒あたり。北野車はすでにイン側に切れ込み、高原車らをヒットしている。

 もう一度、再生のための三角印を捺す。接触した瞬間、リアが流れだし、土煙が上がる。マシンが急激にイン側に切れ込むように向きを変え、そのまま浮き上がってイン側に飛びこむ。何か白いものが飛び散る。3番手あたりに位置する高原選手の黄色いマシンが左右に揺れ、その背後で何台かが絡み合っている。今度は黒い部品は舞い上がっている。12分08秒。恐ろしい出来事が始まっていた。白い物体が魔物と化して、最もイン側を滑走していた漆原車に、飛びかかるように襲いかかる。

「いやーあ!」女性の悲鳴を、マイクが捉えている。パッともつれ合ったマシンから火の手が上がる。もうそこは地獄絵図だった。無傷の6台ばかりが30度バンク方向に消えていくのがわかった。が、カメラは絡み合って火を噴きだした、北野車と漆原車を追っている。エスケープゾーンに雪崩込んだ2台から、ヘルメットをかぶったレーシング・ドライバーのひとりがひらりと潰れたマシンから飛び出す。その手はもう一人のドライバーの腕をしっかり掴んでいるではないか。どちらが漆原で、どちらが北野であるかは、この映像からはわからないが、ふたりの生還する姿は、確認できた。「12分38分」。北野車がカウルを飛ばした瞬間から、まだ30秒しか経っていなかった。

 けたたましいサイレントとともに消防車が1台、コースを横切ってサブスタンド方向へ急行するのを、カメラが捉える。そのカメラが次に映し出したのは、ガードレールの入り口付近で炎上する2台のマシンであった。それが鈴木誠一車と風戸裕車の、変わり果てた姿であった。何人かのピット要員が燃え上がるマシンに簡易消火器のノーズを空しくむけて、茫然と佇んでいる。 

 救急車ともう1台の消防車がピットロードを掻き分けて、事故現場へ急ぐ。どこから狙ったカメラだろう。叢だらけのスタンドに陣取った観客が遠望する方向から、真っ黒な煙が噴き上げ、禍々しい出来事に拍車がかかったことを知らせる。

 泣き叫ぶようにヒステリックにかき鳴らされるクラクション、サイレン、ホイッスル、それにピットインするマシンのあることを知らせる警告音までが混じって、音の洪水がFISCO全体を覆っているようだった。ピットから事故現場へ急ぐ関係者。グランドスタンドでも観客が第1コーナー方向へ駆けてゆく姿が映し出される。

 13分10秒――画面は一転して、S字コーナーから100Rへ向けて疾走するマシンを捉える。生き残った男たちだ。まず国光車が単独で現れる。少し間を置いて、生沢、都平、黒沢、長谷見、従野の5台が一塊となって通過する。さらに6秒後に津々見、寺田、竹下の3台が姿を見せた。 
 そこでカメラは再び事故現場に戻る。炎と煙の中から、誰かが「探せ、探せ」と叫んでいる。今度は本格的な消火活動にかわっていた。激しい勢いで白い消火液が、燃えさかるマシンにかけられる。やがてヘリコプターの飛び立つ姿。だれが運ばれたのだろう。


 そこへ一周を終えたマシンたちがストレートに戻ってきた。チェッカーフラッグとブラックフラッグを交差しながら振っている。「アクシデント発生、全車一時待機せよ」という指示で、競技中止の赤旗はまだ振られていなかった。だから生き残った各車は、減速しながらも、再び第1コーナーから30度バンクの方向へ走り続ける。カメラはなぜか、そのシーンを丁寧に映し出している。先頭グループのマシンに。白いレーシングスーツ姿が近づくのだが、そのままマシンは通り過ぎる。と、弾かれたように倒れこむ。その様子は豆粒のようにしか確認できない。が、後日、いろいろな意味を持つので記憶しておいてもらいたい。

 燃え崩れた鈴木車。ガックリとピットにうずくまるピットクルー。やっと点灯された赤信号。そこへ周回を終えたマシンたちがスローダウンしながら戻ってきて、コース上に停止する。高橋国光がマシンから降り立つ姿。続いて黒沢車が停まる。駆け寄るピットクルー。そのシーンに場内アナウンスがかぶさる。
「火災が発生したのでしょうか、もうもうとした黒煙が、白い煙に変わりつつあります」
 車を降りた津々見友彦に、当時はまだバリバリのレーシング・ドライバーだった浅岡重輝さんが心配そうに話しかけている。そして、ソローモーションのかかったシーンが登場する。最終コーナーを立ち上がり、第1コーナーを目がけて全車が先を争った、正面からの映像を、じっくり見てもらおうというのだ

 これは必見である。これだと、北野車のカウルがまくれ上がり、いったんグラスゾーンにはみ出したマシンが急激にイン側に向きを変えた様子が見てとれる。高原車の左側後部と北野車の右フロントが接触してから起きた状況も、確実に捉えていた。どうして起こったのかは別にして、何が起こっていたのか、はっきり読み取れたのである。


*(「AUTO SPORT YEAR'75』所載)


*最終コーナーを立ち上がり、トップ集団はかなりの速いスピードでスタンド前へ。


*右サイド先頭を走るペースカーの動きに注意。すでにグリーン旗が振られる気配を予知して、先頭集団はアウト側にマシンを寄せ始めた……。


*ペースカーはピットロードへ。各車の疾走がはじまった。国光、黒沢、高原が1本の線となり、北野車だけがアウト一杯を狙っているのがよく判る。


*グランドスタンド前をゆくトップ集団。各車の位置取りはご覧の通りだ。


*黄色いマシンの③高原車が白の北野車の背後に入ったのがわかる。各車には十分なスペースが保たれているではないか。

 そして、ついに登場したのである。グランドスタンド上部からフィルム撮影された、最終コーナーを立ち上がり、第1コーナー直前まで疾走していくシーンであった。こちらはスローがかかっていない。見たままの状況と受け止めてもいいようだ。もちろん音楽もかぶさっていない、不思議なシーンの開幕だった。

 ペースカーを先頭に、最終コーナーから17台が湧き上がるように現れた時には、え!? こんなシーンが撮影されていたのか、と思わず叫んでしまった。

 ペースカーが慌ててピットロードの入り口へと針路を変えた。その瞬間、全車のダッシュがはじまった。国光車が当然、先頭だ。つづいた同じ赤いカラーの黒沢車。真後ろに高原車で、その縦1列の3者に並走して、ちょうど黒沢、高原の間に挟まる位置で、北野車がいく。そんなにトップ4車がくっついている印象はない。ちょうど順位を知らせる電光掲示板と並行したあたりで、一時停止を試みてみた。綺麗なフォーメーションをしているじゃないか。それがピットロードの切れるあたりで様子に変化があった。
そのあたりですでに時速230㎞を超す世界に突入していた。黒沢/北野車が異常に接近している。それでも、北野車の左側、グリーンゾーンには、まだ十分、余裕があるではないか。

 ピット側のフェンスが切れるあたりで、このシーンは終わった。何故なんだ。それがぼくの率直な感想であった。    (この項、まだまだつづきます)


*ピット前を抜けてゆく。右側の白い帯のような白い線がコンクリとのガードフェンス。黒沢、北野車の間隔はまだタップリある。
*映像はここで終わっている。この先を追い切れなかったのか、それとも何らかの意図があったのか。ちょうどピットフェンスが切れるあたりだ。
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Posted at 2012/02/12 19:26:26

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この記事へのコメント

2012年2月14日 21:02
グランドスタンド上部からの映像の途中でのカット、何故なんだという同じ気持ちです。


FSWには何回か行っていますが、まだ30°バンクメモリアルパークには行ったことがありません。


4月にまた行く予定なので、今回は初めて足を踏み入れてみようと思います。
コメントへの返答
2012年2月14日 22:07
なんとか、その辺の事情をはっきりさせたいものです。

ぜひメモリアルパークに足を運んでください。とくに須走落としにつながる地点から、いまのFSWを見あげてみてください。

その感想もきかせてください。

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「翔平177号目のニュースは秩父の蕎麦屋で手打ちの絶品を啜っている時に知った。虎は18時から雨の横浜でベイと対決、9回表、1-3とリードされていたのを代打糸原、近本、中野のヒットで満塁とし、それを森下の死球、大山の安打、最後に選球眼のいいノイジーが押出し四球で逆転、虎が強くなった。」
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1959年、講談社入社。週刊現代創刊メンバーのひとり。1974年、総合誌「月刊現代」編集長就任。1977年、当時の講談社の方針によりジョイント・ベンチャー開...
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