
かつてスポーツカー専門メーカーとして成らしたポルシェも80年代~90年代にかけての経営不振と市場拡大が正義とされた400万台クラブ時代の価値観により、2000年代に入ると今まで手を出していなかった分野──つまるところの(スポーツカーではない)乗用車分野にも食指を伸ばすようになってきた。
つまりSUVやセダンになるのだが、SUVモデルであるカイエンやマカンがフォルクスワーゲングループ内で同系車種とプラットフォームを共有する大きな意味での兄弟車であるのに対して、パナメーラは何気に専用プラットフォームを奢るポルシェ専用車となる。
しかしポルシェだからRRとかミッドシップでセダンを作ったのか?と言われればそうではなく、トラディショナルなFRを基本とするモデルとなる。
それなのに何故か実態としてはセダンというよりはハッチバックに近いスタイル・構造とし、Fセグメントなのに伝統的なセダンのスタイリングをしていない珍奇さと、スポーツカーのポルシェのノリそのままのマッシブなパッケージングという、凡そ高級車という枠組みに囚われない在り方は、この車が登場した当時自動車業界が患っていた拡大志向の産物で、いわゆる一種の流行りもの、長くは持たないのではないかとも思ったものだが、あれから15年以上が経ち色々な意味で独特な生い立ちを持つセダンとして市場からの一定の支持は得ている形となっており、現行型は3代目となる。
ポルシェのセダンとしては他に純BEVのタイカンがあるが、より前衛・先進性のイメージが重要そうなタイカンの方が伝統的なセダンに近いスタイリング・パッケージングをしているところが面白いところである。
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E-ハイブリッドと銘打つハイブリッドシステムについては一般的なパラレルハイブリッド形式であるが、エンジンとトランスミッションの間に挟み込むモーターは190馬力/450Nmものパワーを発揮する。
またプラグインハイブリッドでもあり、バッテリーも25.9kWhと十分な容量が確保されているので、強力なモーターを活用した純EV走行など一連のプラグインハイブリッドカーとしての実用に耐えうるスペックを持ち合わせている。
実はこのプラグインハイブリッドシステムの電動部分のスペックはE-ハイブリッド車で全車共通であり、電動部分の性能は非常に高い。
この辺りはハイブリッドなどの電動化技術の開発に出遅れた+それなのにとにかく電動化電動化と音頭だけは周囲が勝手に取る+アウトバーンという他国にはない厳しい走行条件が求められるドイツ車(欧州車)特有の、とにかく力技で物事を解決してしまう脳筋思考が現れている気がする。
エンジンはV6・2.9リッターツインターボでシステム総出力は470馬力。
エンジン部分は素のパナメーラハイブリッドでは304馬力しかないのでツインターボもいらないような気もするが、とにかくツインターボである。
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走りの方はやっぱりプラグインハイブリッドだけにバッテリーが十分残っていると街中はほぼEV走行になる模様。
ただスペックの割には若干モーター走行時の足が遅いというか、アクセルを踏んだ時に変なもたつきを感じる。
PDK(DCT)と組み合わされているせいだろうか。
ところでEV走行モードの名前がE-POWERっていうらしいんだけど。
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今回試乗した個体にはポルシェ・アクティブライドと名乗るアクティブサスペンションシステムが搭載されている。というか今回はこれを探していた。
このアクティブサスシステムはポルシェが独自に開発したシステムであるが、基本的な構造は従来から存在している油圧制御式のものと大差はない。
ただコンポーネントの小型化や、このシステムはタイカンとパナメーラハイブリッドのみにしか現時点では採用されていないように、電動化技術を活用した効率化のような現代的な改良は入っている。
またこのシステムはエアサスペンションも併用しているが、役割的には制御油圧の低減のために装着されているヘルパースプリングを従来は金属バネで構成していたものを空気バネで代替したものとなり、機能上も標準グレードのエアサスではデュアルチャンバー仕様によりスプリングレートの可変が可能なところ、固定レートのシングルチャンバーと簡略化されていて、エアサスとしての特別な機能は持っていないようだ。
フォルクスワーゲングループ内にはこの他にアウディが採用する、こちらはアクティブスタビライザーの発展型に近いアウディ独自の構造を持つタイプも存在しているが、それとはまったく別のシステムとなる。
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ポルシェアクティブライドは最大応答速度は13Hzということで、この辺りも従来の油圧アクティブサスと比べての性能上の大きな進歩は見られない。
アクティブサスとはいえ制御領域を超える振幅に対しては基本的にパッシブサスとして振舞うので、「どこまでの振幅に対応させるか」というのはある意味アクティブサスを開発するにあたってサスペンションの性格・味わいを決めてしまう要因になる。
10~20Hz付近の振幅というのは概ねロールやピッチングのような傍目からも動きが分かるような挙動変化の10倍細かい領域となり、路面の継ぎ目のような小さな凹凸をタンタンタンと越えたときのような、振動で済ませるにはややはっきりと感じすぎてしまう、ああいった入力がその辺りの振幅となる。
なのでアクティブサスのプロモーションでよくある、車を自在に躍らせてみたりであるとか、大きくうねる路面を高速で通過してもタイヤが上下に動くだけで車体は揺れないというような感じの場面には十二分な制御性を持たせることができるが、体感上路面の凹凸を全く消し去ってしまうにはあと一歩足りない程度の性能である。この辺りが昔からアクティブサスの「クセ」としてネガティブに捉えられることが多い。
なお、中国車が先日採用したクリアモーションという会社(BOSEから技術等を引き継いだ会社)がパテントを持つアクティブサスも存在しており、こちらはアクチュエーターで回生電力を回収することによる省エネ化や40Hzにも及ぶ高応答など、新世代のアクティブサスと言っていいスペックを誇るが、実はポルシェもクリアモーションと技術提携を行ったらしいので、今後アクティブライドはその方面からも進化の可能性を残しており、今はまだ「アクティブサスというものはこういうものである」というアピールをポルシェオーナーなどに行うための「第一世代」といったところである。
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では実際のアクティブライドの乗り味はどうなのかというと、思っていた以上にアクティブサスのネガとポジの部分を上手くミックスしており、完成度が高い。
最初走り出した時はこれは本当にアクティブ制御しているのか?と思ってしまったくらいまず制御感が無い。
アクティブサスというものは特有の浮いているような感触やその滑らかな乗り心地の中にノイズのように混ざる小さな突き上げが違和感としてあげられることが多いが、アクティブライドの場合はまず目視でなんとなく予想ができる程度の適度なロードインフォメーションを伴いながらも、よく仕上げた高級車のサスペンションのような雑味の無い柔らかなフラットな感触が先に来る。
そしてその感触のままずーっと走り続けてしまうのだが、このときにタイヤがうねうね動いて車体を水平に保ち続けようとしているような感触とか、車体が押さえつけられているような感触が一切無いので、まるで綺麗に舗装したての道路を走っているような感覚がずーっと続くのである。
あまりに違和感がないので最初は都会(都内)だし見た感じ道路も隅々までそれなりにメンテが行き届いているから、そんな場所じゃどんな足回りでも一緒なのかなと思っていたのだけれども、そこにセールス氏から「実はこの道、結構荒れてるんですよ」と言われたので、よくよく路面を見てみると確かにこれで車が揺れないというのには無理がある程度には路面がうねっている。そして試乗を終えた後に改めて同じようなルートを自分の車で辿ってみると、その印象そのままに車体が揺さぶられたりしたので、確かにしっかりとアクティブ制御が為されている。
それでも普通の道路がアクティブの御利益がしっかり感じられるほどボコボコしてたりするわけではないので、分かりやすいところでは店舗から道路への出入り口の段差、あれを乗り越えるときの感触が実際の段差の1/10くらいになっている。
しかし、なぜここまで違和感が無かったのかを考察してみると、おそらく適度にロードインフォメーションを感じたところから、制御上は昔のニッサンとかのアクティブサスと比べると、常にシステムの限界までアクティブ制御をするのではなく、がっつり制御を入れる領域はローリングやピッチングなどのアクティブの本懐である姿勢制御部分と、バウンスでは敢えて車体を明らかに揺らすようなレベルのものに抑えて、アクティブが苦手とする平素の細かい入力に対してはパッシブで受ける領域を広く取っている感じなんじゃないだろうか。
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そんな感じなので乗り心地のマナーは発進の瞬間から完璧で、かつドライブフィールにもこういうソフトなチューニングをベースにしたサスペンション特有のふわつきも無いので、センチュリーの乗り心地を更に進化させてそこにポルシェの安心感が一緒についてくる感じである。
これがアクティブサスである。
パナメーラは高級「セダン」であるので、911よりも当然快適性の高いパッケージングや操作性をしており、911みたいに車としては完璧なんだけど普段使いもするならもうちょっと緊張感がない感じの方がいいな、という要求を完全に満たしてしまう。
いやこれは本当に分かりやすく素晴らしいな。
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でも、アクティブライドってドアを開けたときに乗降支援で車高が上がるんだけど、この時の動きがニッサンのアクティブサスの「跳ね上がり」みたいで…
もしかしてぶっ壊れてる?って一瞬思っちゃった。
ニッサンのアクティブサスは乗降支援というよりはエンジン停止後の油圧(車高)保持制御の一環としてやっぱり車高が数センチ上がるんだけど、平時は跳ね上がりを感じさせない程度にゆっくり上品に上がる。
(つまりニッサンのアクティブサス車で跳ね上がりが出る個体はアクティブのアキュムレータが劣化して性能が落ちている。少なくとも正常な状態とは言いがたい)
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実は最初はポルシェスタジオ日本橋でタイカンの予定だったのだが、予定の行き違いでこれが飛んで練馬のポルセンでパナメーラになった。
だから、色々試すというほどの乗り方はできなかったので高速性能とかはまたお預けだけど、実際のところアクティブサスの特性って主に低速で出るので、まあこれはこれで結果オーライじゃないかと。
ポルシェスタジオだったら高速走行もできたかもしれないけど、先日の7尻みたいにドイツ車は高速乗せたらだいたいいいのは分かり切ってるので・・・。