
有限会社T自動車は宮城県南部の太平洋に面したY町にある。日常生活に自動車が欠かせない田舎の小さな町で、全メーカーの販売・整備に携わる典型的な「モータース屋」である。2011年3月11日、太平洋岸を襲った大津波はY町も呑み込み、この会社もすべてを流された。事務所も、整備工場も、車も。
すべてを失ったT社長は一時廃業も考えた。しかし、被災からしばらく経つと、Y町の住民からたくさんの相談が寄せられるようになった。廃車手続き、替わりの車の手配、車検整備など。線路が被災し電車も通わないY町にとって車の手配は死活問題である。「車屋として、何かの役に立てないだろうか」そう考えたT社長は会社の再建を決意した。しかし、町の復興は一向に進まず、会社を構える場所がない。やっと見つけた場所は、Y町から20キロも離れた内陸部。それでもなんとか、営業再開にこぎつけた。
「早くY町に場所を見つけたい」とT社長は言う。Y町のお客さんは片道40分以上かけて今の場所に通ってくる。「ありがたいけど、申し訳なくて」。しかし、町の復興は、やっと防潮堤の工事が始まったのと、瓦礫が少し片付いた程度。戻れるのは当分先になりそうだ。
そんなY町のお客さんに一人のお婆さんがいる。彼女は10年前にT社長から買った新車を日常生活に欠かせぬ足として大事に乗ってきた。もちろん、定期点検も修理もすべてT社長に任せている。そんな彼女が「たぶん次に買う車は最後の車になるだろうから、ちょっと良いやつを買おうと思っている。今乗っている車に問題はないけど、消費税や自賠責が上がるらしいから、今が買い時じゃないだろうか」と言い出した。T社長は3月に「ちょっといい」車を納車し、10年乗った車を下取りした。「きちんとメンテしてるし、まだまだ乗れる。こういう車を安く探したいというお客さんも多い」からだ。
ここで、T社長はちょっと困ったらしい。「程度のいい下取り車が格安で出たら知らせてほしい」というお客さんがたくさんいると、誰に最初に知らせたらよいのか決められないのだ。公平を図るためにT社長は「誰にも個別に連絡せずに、予告なしに店頭に出し、gooにも掲載する。そして、早いもの勝ちで販売する」ということにした。
私が買ったのは、その車である。
運転日報(プジョー308)
天候:晴れ
積算走行距離:6044キロ
走行条件:市街地・郊外一般道
乗員:1名
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カーライフ | クルマ
Posted at
2013/04/05 21:01:10