フォックスハンティングというゲームをご存知だろうか。アマチュア無線愛好家が指向性のアンテナを使って電波の発信源(フォックス)を追跡し、最初に捕まえた者が勝つというゲームである。まさかハノイ市を会場に現代版フォックスハンティングをすることになるとは思いもよらなかった(長いです)。
ことの発端は帰宅するためにタクシーに乗ったところからである。ハノイ市内は9月2日のパレードの予行演習であちこち交通規制しており車がまったく進まない。運転手もしびれを切らしてUターンしたり路地に入り込んだり右往左往するのだが、どうやっても自宅に近づけない。通常10分くらいで行く距離に1時間をかけ、料金も倍くらいかかってしまった。自宅の前に着いたときには運転手と一緒に大はしゃぎして「やっと着いた~」などとやっていたら、どうやらそのとき携帯電話がポケットから落ちたようなのだ。
自宅に着いてコーヒーを飲みながらテレビ映画(HBO)を見て、2時間くらい経ったところで携帯が無いことに気づいた。とりあえず呼び出しを鳴らしてみて、どこからも音がしないのでタクシーに忘れたに違いないと思ったのだが、残念ながら車番を覚えていない。タクシー会社は覚えていたのでタクシー会社に連絡して手配してもらう。が、見つかったという報告がない。
これが日本なら、じっと待っていれば運転手が営業所に持ち帰ってきて戻ってくることが多いのだろう。しかし、ここはベトナムである。きちんと提出してくれる運転手もいれば、そうでない者もいる。サービスが一様ではないのである。最初に検索したときにひっかからなければ、時間の経過とともに回収の可能性は急激に低下する。7月に買ったばかりの携帯ということもあり、なんとしても取り戻すと決意する。
次に考えたのが、紛失端末の検索サービスである。Android Device Managerを使えば携帯の位置がわかるし、最大音量で呼び出し音を鳴らすことができる。この携帯は100dbの大音量でスピーカーを鳴らすことができるので、これには絶対に気づくだろう。気づけば営業所に報告してくれるかもしれない。携帯の位置を検索するとホアンキエム湖東岸を移動中である。呼び出し音を何回も鳴らして様子を見るが、営業所から連絡が来る気配はない。これはいよいよヤバイ。
ここはやはり、タクシーを追いかけて携帯を鳴らし、現物を押さえて回収するしかない。タブレットにAndroid Device Managerをダウンロードして、妻の携帯を借りてテザリングしながら外に出た。外は雷と大雨である。バイクで行くのは危険すぎると判断し、近くのサービスアパートの前のタクシー乗り場に向かうが、大雨と週末のせいでタクシーの空車がなく行列ができている。これでは日が暮れる(?)と大雨で冠水した通りまで出てスプラッシュマウンテンみたいな水はねを避けながら三菱ミラージュのミニタクシーを捕まえた。ホアンキエム湖東岸までは15分もあれば到着する。だが、運転手にタブレットの画面を見せたら、携帯はホン河にかかる長い橋を渡って対岸のザーラムに向かっている。運転手に事情を説明し追いかけてもらうことにする。
追いかけてもらおうとはするものの、ハノイ市内は交通規制と大雨の冠水が重なっていたるところ通行止めになっている。ノロノロと進むうちに今度はまたホン河を渡って携帯がこちら岸に戻ってきた。だがしかし、橋はいちばん南側でハノイ市の南側に行ってしまった。ハノイ市の南側は土地が低く冠水が最もひどい地域である。ミニタクシーもすぐに20センチくらいの冠水にでくわした。通りのあちこちにエンストして動かなくなった車が止まっている。「こっちは行けないよ」と運転手が言うが、画面の携帯の位置を見せて「ディ・タン(まっすぐ行って)」と言ったら「しょーがないなぁ・・・(想像)」とぶつぶつ言いながらザンブザンブと冠水部分を渡りきった。ミラージュのミニタクシーのほかはSUVやピックアップばかりだったので、日本の技術とベトナムドライバーの技量はさすがというほかない。
やっと200メートルほどの冠水区間を渡りきったところで携帯の位置を確認すると、位置情報が分からなくなった。20分ほど前まであった位置は表示されるのだが、今の位置がわからない。一応その20分前の場所に行ってみたがそれらしい車は当然のことながら見当たらない。何度やっても今の位置がわからない。週末の夜で道路がひどい状況なので、パケット通信がパンクしてしまってうまく動かないのだ。
しかたなく家に戻ることにした。さっき渡ったばかりの冠水部分をもう一度通り、北上しようとすると通行止め区間が広がっており、来た道を戻ることができない。ホン河を渡り、対岸を北上し、ひとつ北側の橋で戻るというすごい迂回コースを通って自宅近くまで来たとき、突然携帯の位置情報が復活した。今度はホアンキエム湖の南側にある。運転手に「場所がわかった!こっちに行って!」と指示したらぶつぶつ言いながらもUターンしてくれた。しかし、10分ほど冠水した道路を突っ走ったところでまた位置情報が消えた。おまけに例によって緩いお腹が痛くなってきて、これ以上の追跡は二次被害のおそれが高いと思われた。時間も12時近くなっており、運転手の辛抱も限界である。「やっぱり戻って」と言ったときの運転手の心底ほっとした表情が印象的だった。バーサオタクシーの運転手には感謝である。
12時を回って自宅に戻り(あれだけの距離を走ったのにタクシー運賃は30万ドン(約1600円)である)トイレに駆け込んでから自宅のパソコンで位置情報を確認するが、やはり情報が得られない。シャワーを浴びて「これはもうダメかもわからんね」などとつぶやきながら、タブレットを充電器につなげて起動してみると・・・なんと家から1キロほどのところに携帯があるらしい。しかも、何度か更新しても位置が動かない。時間からして、タクシーが車庫に戻ったか、早朝の客に備えて仮眠をとっているに違いない。以前タクシー会社に勤務したことがあるのでタクシー運転手の行動パターンはある程度わかるのだ。これは絶好のチャンス・・・。
ナイスタイミングで雨も小降りになっていて、ジェットヘルとバイクのキーとタブレットだけ掴んで家を飛び出した。タブレットで位置を確認しながらフォックスハンティングである。しかしこのタブレット、GPSの精度が悪く自分がどこにいるのかなかなかわからない。じっと見ていると自分のいる位置がす~っと100メートルくらいずれるのだ。しばらくうろうろした後、ターゲットのタクシーはホテルシェラトンの駐車場にあるらしいことがわかった。守衛に事情を説明して門を開けてもらい。守衛の立会いのもとで呼び出し音を鳴らすと・・・ビンゴ!運転手が仮眠しているタクシーから呼び出し音がする。大音量の呼び出しにかまわず寝たフリしている運転手を守衛に起こしてもらい、運転手のセカンドバッグの中にあった携帯を無事返してもらうことに成功した。ついに6時間がかりの追跡劇が幕を閉じた。
結局、大雨と冠水の中タクシーで走り回ったことは全部ムダになったような気がするが、忘れた携帯を取り戻せること自体がラッキーなことなので、結果よければすべてよしとしようと思う。最近ツイてる、とブログには書いておこう。
Posted at 2015/08/30 05:09:42 | |
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