
私はよく「エコカーや低価格を売りにするモデルの一部は最低限の運動性能を備えていない」ということを書いている。そう書くと「一般のユーザーは飛ばさないし、峠とか攻めないので運動性能なんて要らないんじゃないの?」と訊かれることがある。私が考えている「最低限の運動性能が求められる場面」は、峠のカーブではない。ここでいう「最低限の運動性能」どはどういうものなのか書いてみたい。
上の写真は、大型車のタイヤがバーストした際、分離したトレッドゴムである。スチールベルトが入っていてかたいのでドーナツみたいな形のまま分離する。このトレッドゴムが高速道路の本線上に転がっている場面に私は度々遭遇している。高速道路ではよくある落下物なのだ。
私が想定する「最低限の運動性能が求められる場面」は、この落下物が先行車の影から突然目の前に現れて、100キロからダブルレーンチェンジをしなければならないという状況を想定している。レーンチェンジをしないで急ブレーキを踏む、という選択肢はこの際想定しないでほしい。そうするとタイヤには乗り上げるし激しく追突されるという危険があるからだ。
高速道路の走行車線で先行する乗用車に追従して100キロで走っていると、先行車が急に蛇行して何かを避けた。あれ?と思って見るとタイヤが・・・追い越し車線は空いているのでアクセルを戻しつつ右にハンドルを切る。ここで、スポーツカーのように運動性能の高い車は、少しの舵角ですばやく車体が向きを変えるから、早くレーンチェンジを済ませられる。つまり、余裕たっぷりに回避操作ができる。低い運動性能しか持たない車は、車体が向きを変えるのが遅く、大きく向きを変えてからコーナリングフォースを発生させるので、ドライバーはそれを予期してハンドル操作しなければならない。具体的には、右から左に切り返すタイミングをよく図らないと中央分離帯に突っ込むし、切り返したときにおつりがきてテールが右に出ることを予期してカウンターステアを準備しなければならない。つまり、運動性能が低い車ほど、ドライバーの回避操作の難易度が上がるのである。この回避操作の難易度が、一般的なドライバーでも可能なほど低くなければ、それは最低限の運動性能を備えていないと考える。
なお、最近の車にはESCが標準装備されているから、誰がやっても安全に回避操作ができるという考えがあるかもしれないが、ESCはその車のコーナリング限界を高める作用を持つものではないし、ESCがアンダーステア、オーバーステアを修正するときはブレーキをかけるので、車がどんどん減速していくことになる。追い越し車線に急減速しながら躍り出ることの危険性は言うまでもない。運動性能が低いためESCがないとまともに回避操作ができないような車は、ESCを付けてもやはりまともではない。スピンしにくくなるだけなのである。
どんなに「お買い物向け」「街乗り用」の車でも、高速道路での使用を禁じてはいない。どの車も100キロでタイヤと出くわす可能性がある。その際にどんな挙動を示すか、保安基準には定められていないし、どこもテストしていない。メーカーはたぶんテストしているが、その結果はカタログには載っていない。実際には、「ハンドル操作の誤り」により高速道路で事故を起こしている車は多数見受けられる。たしかに事故を起こした以上ハンドル操作は誤りだったのだろう。しかし、ドライバーにハンドル操作を誤らせる要因が車にあったのではないか、という疑問を感じる。ドライバーは本能的に事故を避けるべくハンドルを操作するものだと思うからだ。
たとえ「クラスNO.1の低燃費」を達成するためでも、「タイヤ1本1000円の原価低減」の目標を達成するためでも、最低限の運動性能を蔑ろにしないことはメーカーの良心の問題だと思っているのだが・・・。
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クルマ談義 | クルマ
Posted at
2017/09/03 02:44:18