
Keiのリコール対策のついでにアルトワークスに試乗してきた。試乗車は4WDのMTモデルである。
まず運転席に座ってみる。室内高が高くないのにシート座面が高いので、なんだか高いところに座ってペダルを踏みおろすような違和感がある。ペダルに合わせるとステアリングが遠く、背もたれを立てるとヘッドクリアランスはますます少なくなる。フロア形状のせいで座面を下げられないのだと思うが、たとえ下げられたとしても今度はテレスコピックのないステアリングがどんどん遠くなるので、改善は難しそうである。ペダル配置や足元のスペースはゆとりがあり、高めの座面のシートでもペダル操作はやりやすい。
後席に座ってみる。足元の前後方向のスペースに驚く。とても広くてKeiとは比べ物にならない。ボディ外寸が同じでもパッケージング次第でこれだけのスペースを稼ぐことができるのだ。このスペースに運転席の座面が高いことが貢献していることは明らかで、軽のサイズで後席に大人をゆったり座らせるには、運転席に多少しわ寄せがいってもしかたないという発想なのだろう。
だがしかし、後席に大人をゆったり座らせるには、アルトの室内高では不足である。後席にはリクライニングがなく、腰を背もたれにつけて座ると頭が天井にぶつかる。少し腰を前にずらせば頭はかわせるが、その状態で長時間乗りたくはない。やはり、アルトの後席は手荷物置き場かチャイルドシートの置き場だというべきだろう。トランクは深さはあるものの前後に短くスーツケース1個の積載も困難そうだ。買い物袋を置くには倒れなくてちょうどいいかもしれない。
ディーラーのまわりを1キロほどぐるっと回ってみる。乗り心地はフラットで、大きな段差を乗り越える際に突き上げの大きさを感じるのみで、総じて快適で安定している。どうしてこのセッティングをアルト全体の共通仕様にしないのかと思う。それほど「普通の」アルトとは段違いに乗り心地が良いのだ。カーブでロールが少なくなったのでトレッドがより広い車に乗っているように感じ、これが600キロ台の軽量車の乗り心地とはとても思えない。タイヤが良くなったせいかステアリング操作、ブレーキ操作への応答もよく、あいかわらずフィールの良くない電動パワーステアリングを操作すれば、軽い車体は面白いように旋回する。60キロまでの速度域でも「操縦する楽しさ」を十分味わうことが可能だ。
軽量化の影響をいちばん感じるのはロードノイズやエンジンノイズがけっこう大きく車内に聞こえてくることだ。エンジンノイズは「キューン、プシュッ」というタービンとウエストゲートの音と合わせて「スポーティ感を演出」するかもしれないが、ロードノイズは長時間の乗車で疲れの元になるかもしれない。
エンジンの特性は中、低速域の粘りを重視したもので、5速50キロといった低回転からアクセルを踏んでも必要十分な加速を示す。フィールのよいシフトをマメに変えればなかなかの俊足なのだが、いつもそうしているわけではないので、この低速トルクは有難いものだ。
結論としては、これはなかなか面白そうな車だ。後席にいつも人を乗せる用途には向かないが、日常生活の60キロまでの速度域でも「自動車を操縦する」楽しみを味わえて、しかもシャシー(4WD)のキャパシティとしては余裕たっぷりなので安全でもある。アルトワークスは「エコ一辺倒」で失うものをはっきりと見せてくれる。エコ以上に大切なものを多く知っている中年以上の成熟したドライバーにお勧めである。
Posted at 2016/02/13 17:51:02 | |
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