
摩擦円とは
「カーブ走行中にブレーキをかけたり、加速しながらハンドルを切ったりする場合には前後力(制動力、駆動力)と横力(カーブ走行に必要な力)が同時に生じる。両方の力ともタイヤと路面間の摩擦力であるが、両者が同時に生じる場合も摩擦力の最大値(=摩擦係数μ×タイヤの垂直荷重W)は変わらない。それを概念図で表したのが摩擦円である。すなわち前後力Fxと横力Fyの合力が摩擦円(半径=μW)を超えることができない。ロック状態で急ブレーキをかけながらハンドルを切ったときにハンドルが効かないのは、大きな制動力の影響で横力がほとんど発生しないためである。なお前後と横の摩擦力の最大値が一定でないものとして、摩擦楕円と考えることもある。」
大車林より引用。
二輪車のABSについて、その効果に疑問を呈する人がいる。表現の仕方はいろいろなのだが、私の見たところ、「二輪車はバンクしていない直進状態でないとフルブレーキできない。旋回中にフルブレーキをすると転倒する。直進状態ならABSがなくても自分でロック解除、再制動のコントロールができる。旋回中にフルブレーキできないことはABS付きでも同様である。だから、二輪のABSは不要だ」ということのようだ。
二輪車が旋回中にフルブレーキできないわけは、上の摩擦円の理屈で説明できる。旋回中はコーナリングフォースに多くのグリップが使われているのに、そこに大きな制動力を加えると二つの力の合力は摩擦円を超えタイヤはスリップする。タイヤがスリップするとバンク中のバイクはコケる。ライダーはこの現象を身体で覚えているので大きくバンクしているときにはブレーキを掛けない。もしブレーキをかけてスリップするとローサイドに転倒、スリップに驚いてブレーキを放すとハイサイドに転倒といずれも痛い目にあうからだ。旋回中に強くブレーキを掛けたければ、走行ラインを外側に膨らませてバイクを立てる、つまり直進状態に近づける必要がある。
ABSが付いているとどうか。ABSの機能は、制動力を加えることによってタイヤの摩擦円を超えタイヤがスリップする場合に、スリップしない範囲に制動力を制限することである。旋回中にブレーキを掛けると、直進状態よりも少ない制動力でスリップしそうになり、ABSはそこまでで制動力を制限する。すると、ブレーキ操作はしたものの、ABSの介入で制動力が制限される結果、ほとんど減速しないということになる。強くブレーキを掛けたければ、走行ラインを外側に膨らませてバイクを立てる、つまり直進状態に近づける必要がある。これは、ABS無しと同じだ。ABSを付けてもタイヤの摩擦円は大きくならない。その円の内側でしか、スリップせずに走ることができない。
もし、旋回半径を変えることができない状況(外に膨らんだら谷に落ちるとか対向車と正面衝突するとか)で急ブレーキが必要になったら、タイヤがスリップしないギリギリまでの制動力を使って減速しつつ、回避ルートを検索しつづけるしかないだろう。たとえブレーキが間に合わずに衝突するにしても、10キロでも20キロでも減速できれば被害を軽減できる。その他に、わざとスリップダウンしてバイクを捨て、身体で制動するという考えもあるかもしれないが、これはお勧めできない。なぜなら、スリップダウンした瞬間にバイクとライダーは旋回することを止め、一直線にカーブの外側に滑って行ってしまうからだ。そこに谷や対向車がある場合、この方法は命取りになる可能性がある。
スリップダウンしないように、旋回中にブレーキを摩擦円の限界付近まで最大に掛ける、こんな技は、相当な訓練を積まないと不可能だと思う。その訓練も怖いしサーキットを使っても危険なので、訓練メニューにも取り入れにくい。それこそシミュレーターや補助輪つきの特殊な車両じゃないと訓練できないだろう。でも、ABS付きなら誰でもレバーを握り、ペダルを踏みつけるだけでその操作が可能だ。通常、恐怖心から旋回中にブレーキは使えないものだが、ライダーが操作できさえすれば、ABSは事故回避、被害軽減のために大きく役立つものと考える。旋回中にもブレーキを使うという練習はやっておく必要はあると思うが、これは想像するだけで怖いので、今度ABS付きのバイクを購入したらチャレンジして報告したいと思っている。
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2017/12/31 02:06:16