
1971年9月。まさに満を持してという言葉が当てはまるだろう、ライヴァル、ホンダZや、ハイパワーで名を馳せた フェローMAX SS 、そして軽自動車ながらツゥーリング性を強調した 三菱 ミニカ・クリッパー GT へのスズキの回答が フロンテ・クウペ だった。
ジョルジェット・ジュジャーロのスケッチをベースにスズキのデザインスタッフが完成させた車高が1200ミリしかない、トゥーシータ・クウペだった。
ハイパー競争に呼応して、リヤには、LC10W型 水冷2サイクル直列3気筒を搭載。
三気筒のエンヂンに、三つのカブレーションをマウントし 356 CC の小さな排気量から 37馬力 の最高出力を絞り出し、最高速度 120 Km/h、ゼロヨン 19.47 を叩きだした。
足回りも軽自動車とは思えない贅沢なモノで、ライヴァルの ホンダZ や フェローが マクスファーソン・ストラット に対して、ダブリュウィッシュボーン を奢り、リヤには フェローが セミトレリーンアーム、ホンダZに至っては リーフリヂット なのに対して トレーリングアーム の四輪独立懸架が奢られていた。
三連カブレーションに、リードヴァルヴ付の LC10W 型エンヂン。確かに低速トルクは細かったが、フェローの様な扱い難さは無かった。
室内を見渡してみよう。
メーターが多い事がスポーティ、豪華さの証だという時代だった事も有って、眼前には、時計、電圧計、水温計、タコ、スピードメーター、フェールメータがずらりと並んでスポーティさと豪華さを表していた。
大小のメーターがドラーヴァーに向けられていた。これが軽自動車かと思わせるインストゥルパネルだ。
さらに驚くべくは、スティアリングにはティルトだけでなく、前後にも調整が可能だった。
そして何より、ライヴァルと違って流麗なスタイリングを実現するために、フロントシートに十二分な居住スペースを与え、リヤにはシートは無く ツゥーシータ クウペ とした事だ。
「このクルマは今までの軽自動車とは違うのだ。完全にプライヴェートユーズに限定したスペシャルティクウペなんだ」
というスズキの声が聞こえてきそうな意気込みを感じるものだった。
外観や内装ばかりに目が行ってしまいがちなんだが、ボディメイキングにも、驚くべき秘密があった。
なんと、フロント・ボンネット・フッド、フェンダーにはFRPで作られており、軽量化が図られていたのだ。
これにリアエンヂンだったので、実に軽快に鼻先が向きを変えるクルマだった。逆に、山坂道の下りでは、迂闊に気を抜いてガスペダルを抜くと、アッと言う間に鼻先がコーナーのインを向いて驚く事が度々だった。
ツゥーストロークの軽快なサウンドを残して、コーナーをヒラリヒラリと舞い踊る。フロンテ・クウペは見た目の美しさだけでなく、その低い車高がもたらす、重心の低さ、そしてリヤエンヂン・リヤドライヴならではの、荷重の変化による積極的なコーナリングも実に魅力的だった。
「ふたりだけのクーペ 」と甘美な言葉をちりばめながら、実はたぐいまれなる操縦性と動力性をバランスさせていたフロンテ・クウペの実力をメーカーも見逃すことなく、今では考えられないオプションも用意されていたのだった。
ブログ一覧 |
クルマ | クルマ
Posted at
2015/03/25 22:41:10