
1970年代前半、低速での軽微な損傷でも、保険をどんどん使ってしまう北米で、保険屋がその対応と支払う保険料の多さから政府に圧力をかけ、あの悪名高い「5マイルバンパー」が生まれたのだが、その北米保安基準に適合するために多くのクルマのデザインが破壊された。
その中でも有名なのが S30Z だった。
一見すると実に上手く巨大な 5マイルバンパー を吸収して処理しているように思えるが、これを実際に見ると実に涙ぐましい努力をしているのが分かる。
フロントに負けずリアも巨大な 5マイルバンパー が後付けされているのが分かる。
北米で絶大な人気を誇る S30Z だが、どうも、この 5マイルバンパー を装着されたモデルは敬遠される傾向があるという。
それを、オリヂナルの S30Z と比べて紐解いてみよう。まずは、オリヂナルの北米仕様の S30Z を見て見よう。
ボディのディメンジョンに合わせてバンパーやターンランプが溶け込むようにデザインされている。
5マイルバンパー は、5mph(約8km/h)の低速で衝突しても、衝撃を吸収してバンパーも元に戻らなければならないという事で、必然的にバンパーは巨大化して衝撃を吸収するようにアブソーバーを内蔵する車種が多かった。
S30Z も同様にバンパーが大きくなり、アブソーバーを内蔵する事になったのだが、デザイナーは如何にオリヂナルのデザインに、それを取り入れるか腐心したに違いない。
そのデザインスケッチ
オリヂナルのデザインに如何に巨大なバンパーを溶け込ませるか腐心した様子が見受けられる。
を見てみると、S30Zの特徴的なフロントの開口部の形状までイジッてオリヂナルのデザインを崩さない様に2次元では完結しているが、これを三次元で見てみると、
バンパーとシャーシとの取り回しや、追加されたアブソーバーを強固に保持する構造としたため特にフロントの下部開口部の形状が見直された。
実際には、巨大なバンパーを収め、さらに重量物を保持する強度と、追加されたアブソーバーを強固にシャーシに固定するためにスケッチの様なスムーズな形状にはならなかった。
衝撃吸収とデザインの両立に腐心した様子は、近くに行ってみてみると良く分かるだろう。
S30Zのオリヂナリティを崩さないためにバンパーはアブソーバーで保持して、ボディから独立した形状に。
S30Zのボンネット先端が突き出したデザインを崩さないために、追加されたアブソーバー二本でバンパーを保持して、まるで遊園地のゴーカートみたく、ボディからバンパーが、中空に浮いた様な突き出した形状になっている。
これをボディと一体とすると、恐ろしい重量増が想定されるだろう。さらに、衝撃を受けた時に、後退したバンパーがボディにダメージを与える。
そのため、中空に浮かぶ大きくて重いバンパーを保持するために、フロントのシャーシは補強がされて、バンパーと補強の為に、それでなくても重いS30Zのフロントがさらに重くなってしまった。
リアは比較的直線的なデザインなので、バンパーとボディとの間にカバーが追加されている。
公害対策でパワーダウンして、排気量が上げられ、さらに重い 5マイルバンパー の追加で特にフロント周りが重くなってしまったS30Z。
重量増に対応して上げられた排気量も動力性能はフォローできても、操縦性の悪影響まではフォローできなかった。
工夫されたデザインに、重量増を最小限にする構造にされていても、操縦性というスポーツカーのファアクターまでは排気量アップでフォローできなかったという次第なのだ。
安全性向上という大義名分で採用された 5マイルバンパー。
多くにクルマがその装着に際して涙ぐましい努力をした訳だが、やはりクルマは見てナンボの世界。
さすがに、厳しくなる公害対策や省エネルギーの要求に、車体の軽量化も叫ばれるようにもなって 1982年には、対応速度が 5mph(約8km/h) から 2.5mph と半分に緩和され、巨大なバンパーが消滅した。
安全性や保険会社の懐具合と、5マイルバンパー はそんな時代の流れの 仇花 だったのかもしれない。
Posted at 2020/09/04 08:56:20 | |
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