「機械屋の観点でしか見ていない」と言われてもと一瞬思ったが、実は思い当たる節があった。
と言うのは、化学合成油を使った試験では、オイルのブランドによって「二硫化モリブデン」による摩擦低減の効果に幅があったのだ。
そこで調べてみると、どうも「基油」の違いが差になっている様な感じなのだ。
簡単に言うと「PAO」がベースの合成油は、「二硫化モリブデン」の投入量が少なくても摩擦低減の効果が出るのだが、「エステル」を主とした合成油は結構な量を投入しなければ摩擦低減の効果が出てこないのだ。
そこで、そこは餅は餅屋という事で、「モリブデンみそぎ」メンバーの知り合いの、ケミカルメーカー入社の OB に電話を入れると、快く、その謎を解くヒントを教えてくれた。
正確には「面倒」なので、かいつまんで言うと、「基油」には「極性」があるものと、そうで無いモノが有るというのだ。
基油の内、「エステル」には「極性」があって、「PAO」には無いというのだ。当時の資料はすでに無いので、ネットで検索してみると、それを裏付ける資料が見つかった。
「Webike WEB」より。基油の性格が良く分かる表だ。表を作った人には感謝しかない。
この「極性」を簡単言うと、「金属に付着する力」という事で、「エステル」は金属への付着力が強いので、「二硫化モリブデン」より先に金属に付着してしまい「二硫化モリブデン」の横滑りによる摩擦低減作用が起きにくくなる・・・という事らしい。
ここで、デスラー教授が口を開いた。
「二硫化モリブデンの劣化とはどういうことだろうかね。」
「二硫化モリブデン」の劣化は、オイル中の水分などによって「酸化」、「三酸化モリブデン」になるのだが、この「三酸化モリブデン」は「二硫化モリブン」と変わらない摩擦係数を持っているという説と、そうで無いという論文もあって、この辺りが評価が分かれているが、自分が思うに、酸化後の摩擦係数の変化を考えると、「二硫化モリブデン」と結合した「水分」が層状結晶間で滑りを阻害していると考える方が自然と考えている。
そう考えれば、使用している間に酸化し、モリブデンの効果が無くなったと感じて、モリブデンを追加、増量すると、可動部の間隙に新しいモリブデンが入り込み、摩擦係数が下がる。
しかし、この時に、君たちが言う様にオイルも劣化、水分を抱えているので効果が長続きしない、で、さらにモリブデンを投入という循環に至ると考えている。
まぁ、偉そうなことを言っているが、私も機械屋なので、見た目の現象で、そう推測しているだけなんだがね。
ただ、機械屋として見逃せないのは、「二硫化モリブデン」から「三酸化モリブデン」に酸化が進む際に、「硫化水素」が生成される事だ。
ご存知の通り「硫化水素」は「強酸性」で、
デスラー教授は、故郷ガミラスの濃硫酸の海を思い出しているのだろうか(苦笑)
長期間の概念で観れば、エンヂンの金属部品やそのほかのシールが劣化する。
これはエンヂンの寿命が 10年から5年 と言った近々の問題では無いが、少なくとも使い続ければ 10年から8年くらいのダメージがあるだろう。
さらに問題なのは、オイルには「酸化防止剤」、これは「清浄分散剤」とも言うが、これはスラッヂなどを処理する作用もあるが、実はガソリンなどの燃料燃焼時に発生する硫黄酸化物などを中和する効果も持っている。
これが、さらに「二硫化モリブデン」の添加、「三酸化モリブデン」反応時の「硫化水素」にも反応し、オイルの「酸化防止剤」の負荷も増加するので、オイルの劣化が加速度的に進む。
これに君たちが突き止めた、オイルスラッヂの拡散が加われば・・・どうなるのかな。
オイルそのものには、実は「有機モリブデン」が含まれている事が多く、そうした化学変化を加味した、「酸化防止剤」などが添加されているのに、そのバランスが崩れる可能性が高い。
市販の添加剤が、二硫化モリブデンのみではなく、基油、つまり何某かのオイルに拡散、添加されて市販されているのは、こうした元々のオイルのバランスを、極端に崩したくないからと考えられるのだが如何だろうか。
ここに来て、ようやく、
「なんでシロウトが、モリブデン(二硫化モリブデン)を添加してはいけないか」
という命題の、長い長い旅の終結地なのかもしれないと「モリブデンみそぎ」メンバーは思ったのだ。
ただ、これらは、実は諸説あって、まだまだモリブデンの世界は謎が多いのだ。
謎が多いから、ある意味、直接、「二硫化モリブデン」を突っ込むことの危険性があるとも言えるのだろう。
これで、我々の「作文」の時間は終わったのだが、デスラー教授は、
「モリブデンに興味を持って、その道に進む人間が出れば」
と言ったが、その後のメンバーは、半数が中学や高校の先生になり、ひとりは保険会社の社員、工業用研削材営業、自動車販売、中には長距離トラックのドライヴァーと教授の願いも空しく違った道を歩んでいる。(笑)
ただ言える事は、この体験が、それからの考え方や、身の置き方に影響を与えたことは間違いないと僕は思っている。
まぁ、何度も言うけど、「二硫化モリブデン」を直接オイルに突っ込むのは個人の責任で自由だ。
ただ、それがどんな影響があるか、考えながら実行する考察力は忘れないで欲しいと思うのだ。
なんたって、まだ「二硫化モリブデン」の世界は解明し切れていないのだから。
Posted at 2021/08/14 00:13:34 | |
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