
初代ルノー カングーは2002年3月に初めて日本に導入しました。
当時のルノージャポンの体制は現在とは大きく異なり、トップがフランス本国から招へいされたロベルト・パロタ氏がCEO。
当然のことながら日本の輸入車事情の特殊性を深くまでおそらく理解しているわけではなかったはず。
本国のラインナップの中からとにかく日本市場で売れそうなモデルを導入すれば良いだろうと考えていたのだと思います。
フランスモーターズから初期のルノージャポンの体制となって導入されたモデルは、アヴァンタイムやラグナⅡ、ルーテシアRSV6(台数僅少)などなど。
現在の大極司CEOの下打ち立てられた戦略が「FTS戦略」。端的に言えば、R.S.やカングーなどの販売に特化した戦略です。
これは日本市場の輸入車の特殊性を考慮し、ルノーとしてはもっと他のやり方で販売していくという考えに基づくもので、言ってしまえばニッチ商法。
この「FTS戦略」が良いか悪いかは別として、大極CEOの手腕が如何なく発揮されているものと思われます。
ところで、初代カングーは2002年3月の導入になります。先述のとおり、現在の大極CEO体制下ではなく、前のロベルト・パロタCEO体制下で導入されたモデルです。
そのカングーの日本導入のいきさつは特に念入りに練られた販売戦略ではなく、偶発的にたまたま選ばれただけだったようです。
(参照:
興味深い初代カングー日本導入のいきさつ )
上記ブログから、大極CEOのインタビュー記事を抜粋引用します。
(引用開始)
>現地法人を作るなら日本にマッチしたフルラインナップを揃えるのは当然だろう、と。そこでまず、ルノーのどのモデルが輸入できるかを検討してみるとカングーが条件に合致することがわかりました。初代カングーには、当時から右ハンドルのAT仕様が存在していたからです。
>カングーは幅広い用途を想定した商用車ですから、欧州の各市場向けに豊富なバリエーションがあります。その中にスウェーデンの郵便配達仕様があったのですが、それが右ハンドルのATだったのです。スウェーデンは左ハンドル圏ですが、配送の利便性を考慮した結果この組み合わせがまとまった台数でオーダーされていて、それをベースにすれば日本にも輸入できる、と。
>つまり日本導入モデルのフルライン化という話が最初にありきで、カングーが人気車になるという確信、あるいは明確な戦略があって導入が決定されたわけではないのです。
(引用終了)
スウェーデンの郵便仕様車として、右ハンドル&ATの要望がルノー本社側にオーダーが入ったということらしいのです。また、別の記事によると、オーダー数が800台のかなりまとまった台数とのこと。
極東の遠く離れた日本の「右ハンドル&AT」の仕様をつくって欲しいという要望は当然聞き入れてくれるわけもなく、これだけまとまった台数のカングーを製造するのであれば、当時のルノージャポンにとってはまさに渡りに船でしょう。
そういうわけで、晴れて日本市場に「右ハンドル&AT」仕様のカングーの導入が決定したわけです。当時のルノージャポンとしておそらく売れるという見込みがあったのだと思いますが、その明確な理由は不明です。不安はあったとは思いますが。
ということで、ようやく主題です。これらの背景を念頭に入れながらご紹介していきましょう。こちらは表紙。2002年3月発行で全13ページのつくり。

当時の日本のルノーモデルに共通したカタログ表紙のつくりとなっています。受けて側には訴求力がちょっと弱いかなという印象です。
『ユニークなスタイリングに大きな室内スペースを内包。新しいカングー1.4なら、ご家族そろってらくらくお出かけ。』
イメージカラーが現代のカングーにも継承されているイエローなので、カタログもイエローをふんだんに取り入れています。
右ページには次のことが書かれてあります。引用します。
(引用開始)
ルノーカングー。かっこよくて、広くて、快適で、乗るのが愉しいクルマ。家族の夢と遊び心、好奇心をいっぱい積んで出かけよう。しかも両側スライドドアで、家族みんなすぐに乗り込めます。リアのカーゴスペースもひろびろ。便利な飛行機タイプのオーバーヘッドコンソールにレジャーグッズを積込めます。(~中略~)
いつでもどこへでも、あなたのレジャーにお供します。
(引用終了)
カングーはこのような世界が広がっていますよと強く訴えかけています。このキャッチを考えたコピーライターにとって、商用車ベースのまったく新しいコンセプトのモデルを日本で販売実績を上げていくための苦労が窺い知ることができますね。
『明るく、上質な心地よさに包まれたインテリア。行きはみんなの笑顔を、帰りは楽しい思い出を運びます。』
商用車が元となるカングーですが、上質な装備の追加等によって乗用車然とした演出を写真で巧く表していますね。それにしても、シートがフカフカそうな印象を受けます。
『自分に還る日。自由奔放なカングーと出かけよう。』
一部引用します。
「フランス生まれのルノーカングー。その気性はエスプリと自由奔放な魅力にあふれています。見ればすぐに分かるように、ドアがいっぱい。だからすぐに乗り込んで出かけたくなりませんか。(~後略~)
」
カングーのあるカーライフはオーナーの生活を満たしてくれることをアピール。きっと良いことが訪れることを訴えていますよね。
オプショナルパーツの紹介ページ(右)

カングーにしては意外に無難なオプショナルパーツ群。たいていはパーツカタログは別冊となっているはずですが、それをしなかったのは当然様子見だったことは明らかですね。
当時のルノージャポンが初代カングーは導入した一年弱後には後期型へマイナーチェンジしています。その時に今のカングーでは当たり前のリアダブルバックドアが採用しています。但し、ハッチバックドアとの選択制ですが。
カングー日本導入に際して、カタログ作成に対しても苦労はあったことは推察されます。初めてカングーというモデルを導入するわけですから、果たして日本で売れるのかどうかも懐疑的と思った首脳陣もいたことでしょう。
それが今となってはコンセプトが日本市場でコアなファンによって受け入れられることができ、コンスタントに売れるようになろうとは誰が想像したことでしょう。
2002年当時のルノージャポンの「たまたま売れそうな仕様だから導入してみよう」という思考がなかったら、現代の日本のカングー人気はおそらくなかったことでしょう。
そんなことを思いながら、当時のカタログを眺めてみました。
最後の最後になってディーゼル&MT導入したことは、元はと言えば2002年導入時にすべて端を発することを忘れてはならないですね。カングーの日本導入って何とも興味深いことだと感じるのですよね。
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フランス車カタログ | 日記
Posted at
2021/08/01 21:37:56