
学校にあった、「二硫化モリブデン」を横流しして(笑)、オイルに添加していた事が発覚して「モリブデン」の作文を書くことになってしまった大学4年の秋。
オイル添加剤の種類や、品揃え多さに驚く中、「モリブデン」にも種類がある事が分かってきた。
じゃあなんで、「モリブデン」、正確に言えば「二硫化モリブデン」を添加すると摩擦があたかも減るようになるかと言う「謎」を説くべく、学校の図書館で専門書や、読めもしないが雰囲気で、何となくこうだろうと海外の文献を読み漁る日々が続いていた。
「何となくこうだろう」と言ったのは、実は、帰国子女(男)が、「モリブデンみそぎメンバー」に居たのだが、英語が堪能な事と、専門書を読み解くという事が実は違うという衝撃的な事実を、彼を通して知ってしまったからなのだ(閑話休題)。
まずは「モリブデン」ってなんだ?という事で分かってきたことは、
モリブデンが含まれた原石。
産出されるのは、中国と北米が殆んど締め、常温常圧下では非常に安定した「体心立方構造」の銀色の金属である事。
比重は鉄より重く 10.28 もあり、融点は 2620 °C と知られている鉱物の中ではベストファイブに入る高温に耐える金属なんだそうだ。
しかし、一般的には「モリブデン」の一言で済んでいるのだが、実際には「モリブデン」と、オイルなどに入れる「二硫化モリブデン」は親戚くらいの他人で、切り離して考える必要があるのだ。
「二硫化モリブデン」は、その名の通り、モリブデンに硫黄が結合した合金で、落ち着いて物性を調べると、融点は 1200℃くらい(これが諸説あるのだ)なんで高温に強そうなんだが、これが意外にヘタレで、大気中では 350℃ から「酸化」してしまうので、大気中の高温化では使わない様にしているらしい(この辺りが図書館資料では限界だった)
大気中がダメならという事で、真空中や宇宙空間の「潤滑」には大いに使われ、さらに停止や稼働を繰り返す大きな力が働く「潤滑」にも液体と違って、個体なので潤滑切れを起こさないので最適という事も分かった。
停止や稼働を繰り返す場面と言えば、通常は石油系の潤滑剤が使われるが、停止時には摩擦部の潤滑剤が切れてしまい金属と金属が接触してしまうのだが、これが固形潤滑剤は、金属間に個体のまま残るので停止から再度動き出す際にも摩擦を減らす、焼き付きを防止する効果が有るのだ。
通常の液状潤滑は、動いてないと潤滑切れを起こす。軽荷重の場合は良いけど重荷重や停止と稼働を繰り返す機械の場合は命取りだ。(クリックでイラスト拡大)
ざっと、固体潤滑のイロハの「イ」くらいまでは分かったが、「個体潤滑」の「モリブデン」は、実際には「モリブデン」単体ではなく、「二硫化モリブデン」が正確で、こっちも「モリブデン」と同様に、「輝モリブデン鉱」として産出される鉱物で、これが、あの黒色の「モリブデン」の正体という事がようやく整理されて理解できたという次第だ。
ここまで来て、ようやく「モリブデン」と、見慣れた黒色の「二硫化モリブデン」の違いが明確化された。
それでは、なぜ「二硫化モリブデン」が摩擦低減に効果を発揮するかなんだが、これが単純なハナシではなく、原子構造まで行かないと解析できないのだった。
ここからは、余りにも面倒なハナシになるので、単純化して「二硫化モリブデン」の世界を紹介したいのだが、まず、前にも書いたが、「二硫化モリブデン」は、モリブデンと硫黄の化合物という事で、簡単なモデルで描くと、
パープルが「モリブデン」で、イエローが「硫黄」の原子だ。
「モリブデン」の原子に、絶対離れないわ!と「硫黄」の原子は引っ付いて、これらが「層状」並んでいるのだ。
「モリブデン」と「硫黄」は相思相愛で、テコでも離れようとしないが、「硫黄」と「硫黄」の結合は、まぁ「仲良くしましょうや」と軽く手をつないだ状態で、実はちょっと力が掛かると「硫黄」同士はいとも簡単に分離してしまうのだ。
ちなみに、こうした結合状態を「ファンデルワールス結合」って言うんだって。(閑話休題)
層状に並んだ原子構造で、硫黄と硫黄はいとも簡単に結合をやめてしまう。ズリッとスライドしてしまう。
これがまさに摩擦を低減する仕組みで、金属と金属との間に入り込んだ、「二硫化モリブデン」が金属の隙間でズリっズリっと滑る事によって、金属同士の摩擦を軽減しているというのだ。
ここで僕は、普段の体験からこんなことを思いついた。
そう言えば、層状構造の物質で、いとも簡単にズリっと滑るのなら「雲母」、「マイカ」も同じじゃと思ったのだが、
「雲母」も層状構造で、簡単に板状に分解できるのだが・・・・
剥離は簡単なんだが、分子間の「せん断」、横滑りは簡単でなく潤滑剤としては適していないという事なのだそうだ。
ここまで調べて、デスラー教授に報告に行くと、
「素人が直にオイルに混ぜた事と、摩擦が減るなら大量に混入しても良いのか」
デスラー教授の容赦ない攻撃に、僕は斜め45度に傾いて沈没寸前までになってしまった(笑)
という宿題をもらって、また図書館への通学が始まってしまったのだった。
モリブデン 二硫化モリブデン 添加剤
Posted at 2021/08/11 00:09:31 | |
トラックバック(0) |
クルマ | クルマ