半出来温泉奇譚　①

　その日は３０度に届くかという夏日だった。こんな日に半出来温泉の露天風呂でぬる湯に浸かるのは最高の贅沢だ。
　駐車場には車が３台停まっていた。温泉巡りをしていてまず嬉しく思うのは駐車場に車が少ないときだ。群馬ナンバーの軽トラ、名古屋ナンバーのインサイト、千葉ナンバーのユーノスロードスターだった。
　浴室に入ろうとしたとき、若い女性が女湯の暖簾から出てくるのに気がついた。珍しいなと思うのと同時に残念だなと思った。ここの露天風呂は混浴だから…。
　内湯には先客が一人湯浴みをしていた。挨拶をして一緒に浸かった。これから名古屋に帰るそうだ。露天風呂をうかがうと、頭がつるつるのおやじが入っている。軽トラの人のようだ。
　ぬる湯でまったりしていると先客が「ありゃりゃ…。」と変な声をあげた。視線の先を見ると二人の女性が混浴露天風呂の方に向かっていた。一人はマァで、もう一人は先客の奥さんらしい。おやじがいるのを承知で露天風呂に行ったようだ。男二人は黙って湯浴みをしていた。
　５分ほどするとおやじが出てきて、脱衣所に消えた。しばらくすると女性たちも露天風呂から引き上げたようだ。内湯にいた先客もお先にと出て行った。
　さて、半出来温泉の露天風呂を一人占めしようっと…。ここは本当に気持ちがよい。いつもうとうとしてしまう。この日もいつのまにか寝てしまった。

　　　　　　　②につづく