「ツゥさんの話を聞いたことがあります。母と一緒に写っている写真を見ながら…。」
サキと一緒に写っている写真?全く記憶にない。今、僕の手元にはサキの写真は一枚もない。
「母が亡くなった年のお正月でした。大学時代の思い出のアルバムを見せてもらいました。その中で一葉だけ雰囲気の違う男性が写っていました。それがツゥさんでした。」
「雰囲気が違うって、ハンサムではないってことでしょう?」
「ははは、そんなことありませんよ。ツゥさんは素敵ですよ。母の見る目もその写真だけは違っていたの。この人もお母さんの恋人?って聞くと、笑いながら違うわって…。でも、大切な人だって…。その時ツゥさんの話をいろいろ聞いたの…。」
「大切な人?」
サキはなぜか気が合う女友達だった。同い年なのにいつも僕を子供扱いする女の子だった。僕が彼女にとって大切な人だったとは思えない。僕は彼女に何もしてあげられなかった。逆に彼女にはいろいろ助けてもらった。失恋をして自暴自棄になっていた僕がなんとか立ち直ったのもサキがいたからだ。
「そう…、そう言っていたわ。ツゥさん、今日5月4日は何の日か覚えていますか?」
「いや…、お母さんの誕生日は11月だし…。」
「母は覚えていたわ。ツゥさんと最後に会った日付を…。」
郷里に戻って就職した後、GWに千葉に遊びに行ったことがあった。その時サキとも会って酒を飲んだ。そうか、あの日か…。
「その時、ツゥさんと1月の約束をもう一度確認したんですってよ。」
「1月の約束?!」
そうだ、思い出した。大学を卒業する直前の誕生日にサキと約束したんだ。「5年間、待っててね。」「うん、待ってる。」確かにそう言い合った。
「待ってて…」がサキの口癖だった。「ツゥが待っていてくれるから私、好きなことが出来るの…。」とも言っていた。
⑤につづく
Posted at 2010/07/15 04:52:03 | |
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