
学生時代に「智恵子抄」を愛読していました。まだ純真な心を持っていた私は高村光太郎の妻である智恵子への愛にとても感動したのですね。当時はほとんど暗唱していたのですが、今ではさすがに忘れてしまいました。それでも一部のフレーズは時々口から出てきたりします。
いけない、いけない
静かにしてゐる此の水に手を触れてはいけない 「おそれ」
――聞いたか、聞いたか
ぼろすけぼうぼう―― 「梟の族」
あれが阿多多羅山(あたたらやま)、
あの光るのが阿武隈川。 「樹下の二人」
智恵子は東京に空が無いといふ、 「あどけない話」
無数の友だちが智恵子の名をよぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい―― 「千鳥と遊ぶ智恵子」
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた 「レモン哀歌」
そんな中でも今でも良く憶えているのが「人に」という詩です。結婚が話題になると必ず頭に浮かびます。
いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
「お嫁サンバ」(詞:三浦徳子 作曲:小杉保夫)は、1981(昭和56)年に発売された郷ひろみの38枚目のシングルです。郷ひろみの歌には気恥ずかしくてとても人前では歌えないものがあります。「男の子女の子」なんて恥ずかしくカラオケで歌えませんよね。「お嫁サンバ」もそんな曲の一つです。
この曲を聴いた時に、すごい歌詞だなぁと思ったのですが、「人に」がすぐに頭に浮かびました。作詞家の三浦徳子も当然「智恵子抄」を読んでいたのでしょうね。
年内に結婚式に出る予定があります。結婚式に出席するのは若い頃からあまり好きではありません。気が重いのですが、仕方ありません。余興で「お嫁サンバ」でも歌ってしまいましょうか…。
人に 高村光太郎
いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
花よりさきに実のなるやうな
種子(たね)よりさきに芽の出るやうな
夏から春のすぐ来るやうな
そんな理窟に合はない不自然を
どうかしないでゐて下さい
型のやうな旦那さまと
まるい字をかくそのあなたと
かう考へてさへなぜか私は泣かれます
小鳥のやうに臆病で
大風のやうにわがままな
あなたがお嫁にゆくなんて
いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
なぜさうたやすく
さあ何といひませう――まあ言はば
その身を売る気になれるんでせう
あなたはその身を売るんです
一人の世界から
万人の世界へ
そして男に負けて
無意味に負けて
ああ何といふ醜悪事でせう
まるでさう
チシアンの画いた絵が
鶴巻町へ買物に出るのです
私は淋しい かなしい
何といふ気はないけれど
ちやうどあなたの下すつた
あのグロキシニヤの
大きな花の腐つてゆくのを見る様な
私を棄てて腐つてゆくのを見る様な
空を旅してゆく鳥の
ゆくへをぢつとみてゐる様な
浪の砕けるあの悲しい自棄のこころ
はかない 淋しい 焼けつく様な
――それでも恋とはちがひます
サンタマリア
ちがひます ちがひます
何がどうとはもとより知らねど
いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
おまけにお嫁にゆくなんて
よその男のこころのままになるなんて
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流行歌研究会 | 音楽/映画/テレビ
Posted at
2012/10/25 05:38:46