2006(平成18)年9月23日、私はテレビの前で正座していました。『吉田拓郎 & かぐや姫 Concert in つま恋 2006』を観るためです。拓郎ファンを自称しながら、コンサートを観たのは地元足利に来たときの一度しかありません。伝説のコンサートはどれにも行ったことはありません。この時の『つま恋』も行きたかったのですが、結局はテレビで観ることになりました。
コンサートも終盤を迎えた頃、拓郎がギター一本で歌い始めました。これは中島みゆきの曲だなと思って聴いていたのですが、すぐに歌い終わり、一瞬静寂があたりを包みました。すると瀬尾さんのビッグバンドがまた同じ曲の演奏を始めました。そして会場全体がどよめき始めました。画面を注視すると左袖から女性が歩いてきました。まさかと思いましたが、それはまぎれもなく中島みゆきでした。
「永遠の嘘をついてくれ」(作詞/作曲:中島みゆき)は、1995(平成7)年にリリースされた吉田拓郎のアルバム『Long time no see』に収録されています。中島みゆきは1996年の『パラダイス・カフェ』でセルフカバーしています。
みゆき姐さんが拓郎のファンだったことは有名です。デビュー当時には「女拓郎」と呼ばれていたりもしました。みゆき姐さんが売れて拓郎と親しくなると、拓郎のことを「よた、よた」と呼んだりするようになりました。二人ともお互いを認め合っていたのですね。
70年代から時代の先頭を突っ走ってきた拓郎ですが、さすがに平成になったあたりからライブの観客も少なくなり、レコード(CD)も売れなくなります。拓郎自身も自分の衰えに気づき、曲を作る意欲も薄れてきます。そんな時にチャリティー・コンサート『日本を救え!』で、拓郎が中島みゆきの名曲「ファイト!」をカバーしました。拓郎はそこであらためて中島みゆきの才能を再認識しました。もしかしたら嫉妬したのかもしれません。今の自分には「ファイト!」のような曲を作れないと思ったのです。救いを求めたかったのか、拓郎は珍しくみゆきさんを食事に誘いました。そして「夢のない遺書のような曲を」と言って曲を依頼しました。当たり前ですがみゆき姐さんからはこっぴどく叱られ説教されます。そして「最後の曲じゃないのなら書きます」と言って作ってくれたのがこの曲です。