「半年くらい前に偶然ツゥさんのブログを読みました。その中に母の好きな
さだまさしの檸檬の記事がありました。私、びっくりしました。あれ、母のことですよね。あの本もありますよ。今は私の本棚の中に…。」
あの記事を読んだというのか…。確かにあれは学生時代のサキとの思い出を書いたものだ。でも変だ。サキはさだまさしが嫌いだったはずだ。僕がさだの歌をラジカセで聴いたり、ギター片手に歌っていると「暗い!」と言われたものだ。彼女はレーナード・スキナード というロックバンドが好きで、自らもバンドを組み、キーボードを担当していた。
「でも、どうして君はここで私を待っていたの?しかも、どうして私がここに来ることがわかったの?」
「母から生前聞いたことがあります。ツゥさんは単純で、行動パターンもすぐわかるって…。そろそろ、私のところに来そうだなあって思うと必ず来たって…。私もブログを読んでいたら、今日あたりはここかなあって…。さっきすれ違った時に、やっぱり来たぁって…。うれしかった。」
これも変だ。行動パターンが単純なのはサキの方だった。サキは恋多き女性で、しかも面食いだった。ハンサムでかっこよい男性には、積極的にアタックしていた。そして何度も失恋した。僕の方がそろそろサキが来そうだなと待っていたのだ。それから、この娘さんがここで僕を待っていたというのも不思議な話だ。僕でさえ、朝の段階では半出来温泉に浸かろうと思っていなかったのに…。
「お母さん、亡くなったんだよね…。」
「ええ、私が中校生の時に…。」
「風の便りで聞いたよ。癌だったんだってね…。僕の記憶の中の彼女は笑顔だけなんだけれど…。」サキは決して美人とはいえないけれど、笑顔の素敵な娘だった。
④につづく
Posted at 2010/07/14 05:27:46 | |
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