・「世界最速のインディアン」 アンソニー・ホプキンスはレクター博士のような狂人での評価が高いが、本人はバート・モンローのような役が好きだと言ったとかなんとか、私から見るとバート・モンローに見られる狂気はほとんどレクターのソレと同じだ。OPで出てくる「Offerings to the GOD of Speed」(速さの神への捧げ物)というのは、この映画のプロトにあたる本人存命の頃のドキュメンタリーのタイトルだったかのはず。で、注意が必要なのは、かなり「ドキュメンタリーチック」であるこの映画は実際は脚色されているので、本当に道中あんなモテモテのウハウハだった訳でもないだろうし、最高速も実際は初回は300kmは超えてない。なんとあの後7回ほど出場して、そこで達成してはいるが。
映画の本筋はロードムービーと不屈というより楽天的ですらあるバートが狂気の時代にあるアメリカの懐の深さに触れるって所かな。英語をしゃべっているので忘れがちだが、異邦人譚でもある。中でよく「イギリス人?」って聞かれて「ニュージーランド人だ!」って憤慨して見せる所があるが、ホプキンスはウェールズ人だそうだ。
メカを見ていこう、インディアンはアメリカの1900年代あたりからはじまる名門で、別にどっかのメーカーみたいにアメリカンクルーザーになろうとしている訳ではない。ただ、当時の形がアレだったのだ。今でもインディアンとかの動画があるが、始動性はすこぶる悪いけれど、当時ですらDOHCとかとんでもない高級路線を走っていた。フレームはあれ酷いな、抵抗は減るのだろうが、どこまでがオリジナルなんだろうか。バートのはスタウトというモデルで、事実なら650とかそこらへんの排気量である。1000cc以下クラスでもギリギリまでやってある訳ではないが、まあボーリングしまくってるだろうし。
あの速さの秘密は言うまでもなく空力が鍵だが、カウリングの由来は話には出て来ない。おそらくボンネビルを研究して流線型デザインをバートがGFRPで模倣したのだろうが、あの形にすればベロモービルでも130km程度は出ているので、理屈だとエンジンでも10馬力ちょいあれば出せるような気もする。むしろ多段ギアでないインディアンが最終抵抗で伸びるだけのトルクバンドの幅があるかどうか、機械強度がちゃんとあるかどうかだ。とは言え、国産バイクが300km出せるようになったのはZZR1100あたりで1990年だから、バートは30年も前にそれを達成している事になる。まあ、劇中でも出てきたが、カウル無しでもよく転ぶんだけどなこのマシン。私は乱流の問題は少しメットを上面に出して偶然良くなるんだろうと思ってみてたら、ヘルメットとゴーグルが300kmで吹っ飛ばされて笑った。でも、あのメット、リリースとかないから、本当に外れたらえらいことだ。