”Air Repair iQと私が気づいた“構造的な共通点”
昔のラリー映像をぼんやり眺めているだけなのに、
なぜか心が熱くなる瞬間があります。
その理由の一つが、
サンドロ・ムナーリという名ドライバーと、
彼が操ったランチャ・ストラトス。
ストラトス自体が好き──というより、
あの“クセの塊のような車”を、構造ごと飲み込んで走らせるムナーリの技術
に強く惹かれてしまうのです。
■ ストラトスは構造的に「曲がらない車」だった
ストラトスを技術目線で見ると、
実は“美しく曲がるための条件”をほとんど持っていません。
・ホイールベース:2160mm(極端なショートWB)
・前後重量配分の偏りでヨー慣性が不足
・アッカーマン角度が弱い(舵角に対して回頭の立ち上がりが遅い)
・サスペンションジオメトリーも古典的
・タイヤ・ショック・LSDは現代基準ならローテク
つまり、構造そのものが
「最初の一歩が曲がりにくい」方向を向いている車です。
それなのにムナーリのストラトスは、
あれほど滑らかに、軽やかに方向を変えていきます。
■ ムナーリは“舵角で曲げない”。構造を読んで走らせる
ムナーリの操作には、現代のラリードライバーにもない特徴があります。
・舵角を入れる前に荷重線を動かしておく
・ヨーが立ち上がる前に“予荷重”で姿勢を作る
・タイヤが発生できる回頭Gの限界を理解している
・アッカーマン不足による初期アンダーを“姿勢で無効化”する
つまり、
ハンドルではなく“車体の物理構造”で曲げている。
だから中速域の90度やR60コーナーでは、
驚くほど美しいドリフトラインを描くのです。
■ ただし──ヘアピンだけは美しくならない
ここが私の大きな気づきでした。
ムナーリのストラトスでさえ、ヘアピンやフルターンのような極低速の回頭
舵角が大きい領域、一気にヨーを立ち上げる場面になると、姿勢の滑らかさが少しだけ崩れるのです。
その理由は明確で、
アッカーマン不足+ショートWBでは
大舵角域が構造的に“回頭効率が落ちる領域”だから。
私は当初、
「ムナーリでもヘアピンは美しくできないのか?」
と不思議に思いましたが、
技術的に考えるほど「そりゃそうだ」と納得しました。
ストラトスの“最も苦手な領域”が、
たまたまヘアピンだっただけの話なのです。
■ ……そこで気づいた。
Air Repair iQも、まったく同じ構造特性を持っている。
iQを競技車として扱い始めた時、
私は強い違和感を覚えました。
・アッカーマンが明確に弱い
・ショートWBでヨーモーメントが極小
・舵角に対する回頭Gの立ち上がりが遅い
・大舵角では“回りたがらない”区間が存在する
さらに、サイドターンでCT9AやGC8のように、ミラーの位置を支点にくるっと回す動き」を作ろうとしても、これはほぼ不可能。
むしろ、
大舵角を入れると“回頭が鈍る”ので、ノーズ軸で方向を変えるほうが速い。
これを理解した瞬間、私はストラトスとiQの構造的な共通点に気づきました。
■ “曲がらなさ”を受け入れると、姿勢と荷重の世界が一気に開ける
ストラトスもiQも、ヘアピンが苦手な車です。
けれどその“構造的な苦手さ”を理解すると、
逆に中速〜高速のRコーナーでは
驚くほど滑らかに走れるようになる。
舵角は最小限
荷重線の落ち先がそのまま回頭軌跡になる、そこからヨーの立ち上がりを“予測”できる、そしてその姿勢がそのまま“操作”となる。
この世界は、車の弱点を“無理に補う”のではなく
構造そのものを味方にする世界です。
ムナーリのストラトスも
私のAir Repair iQも
ここに共通点がありました。
■ ムナーリと私は、結果として同じ哲学に辿り着いていた
それは技術の話ではなく、
構造理解と感性の話です。
・弱点を隠すのではなく、読み解く
・操作ではなく姿勢で曲げる
・車と対話するように“予測”する
物理を裏切らず、車の性格を尊重する、ムナーリがストラトスで見せた美しさは、
まさにこの哲学そのもの。
iQでも同じことが起こると気づいた時、私は“構造を読む”ことの面白さを、あらためて感じました。
■ 結び:美しさの正体は、弱点と向き合うことだった
ストラトスと iQ。
時代も用途もまったく違う車なのに、なぜか同じ“理”が流れている。
その理由はやはり、車の弱点とまっすぐ向き合い、その構造を味方にした時に、
本当の美しさが現れるから。
ヘアピンでの「美しくなさ」は、むしろその車が持つ“構造の真実”を教えてくれた。
そしてその先にある“姿勢で曲げる世界”がストラトスにも、Air Repair iQにも存在していたのだと思います。
これからもその世界を
少しずつ深めていきたいと思います。
Posted at 2025/11/23 19:45:18 | |
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