「小さい車は曲がる」──その思い込みが、じつはドライバー自身の錯覚だとしたらどうでしょう。
トヨタiQのような超ショートホイールベース車を操っていると、
「小さいからよく曲がるんじゃないですか?」と言われることが多い。
しかし、限界付近で真剣に走らせてみると──
ジオメトリー的にはむしろ“曲げにくい”構造を持っていることが分かります。
それでも人は「曲がりやすい」と感じてしまう。
この感覚の正体を、私は幸田サーキットのブーメランコーナー、
そしてランチャ・ストラトスという異端のマシンを通して確信しました。
【ショートホイールベースの“錯覚”】
ホイールベースが短い車は、内外輪の舵角差が小さく、理論的には旋回円が大きくなる=曲がりにくい。
ところが実際には「クイックでよく曲がる」と感じる人が多い。
その理由は、ヨー慣性モーメントの小ささによる回頭立ち上がりの速さにあります。
ドライバーの感覚処理は平均で約0.2秒遅れますが、iQはステア入力後わずか0.05秒以下でヨーが立ち上がる。
※4輪の曲がる為の基本原理(アッカーマンジオメトリーの説明:アッカーマン角と旋回円の関係)
つまり、車の方が先に動いているのに、人間が“追いついた気分になる”。
これが「曲がりやすい錯覚」の正体です。
【幸田サーキットで感じた“身体が先に動く”瞬間】
先日の幸田サーキッテスト、ブーメランコーナーでのこと。
テールが出た瞬間、私は「滑った」と認識するよりも早く、腰で路面とGの変化を感じ取っていました。
その瞬間にステア角を浅くし、ブレーキをリリース、駆動力を与えながら旋回Gを溜めてグリップ回復を待つ。
回復した時には、すでに車体はインを向き、ステアを切り直すだけで1ヘアのラインへ自然に繋がりました。
iQのような車で普通にカウンターを当てると、グリップが一気に戻ってリバースモーション(2輪で言えばハイサイド)が発生します。
ここで多くの人は“終焉”を迎えます。
私は、あえて少し切り戻しながら駆動を与える。
これは2輪でいえば、ハングオン時にイン側の足を閉じ、車体を起こしながらスロットルを開けるあの動き。
肩と腕が自然に開き、姿勢と旋回の理が一致する。
──iQは4輪でありながら、2輪的な感覚を要求する車なのです。
【ストラトスとの比較:同じ錯覚、異なる発現】
iQのトレッド/ホイールベース比は、実はランチャ・ストラトス・コンペティツィオーネ(ターマック仕様)と驚くほど近い。
どちらも「極短ホイールベース+ワイドトレッド」で、ヨー慣性が極小。
ただし構造は正反対。
iQ:FFフロントミッドシップ
ストラトス:MR後輪駆動(電制なし)
両者とも、回頭応答が人間の感覚より速い点では共通しています。
しかし、錯覚が生じる“原因の方向”が異なるのです。
要素:
iQ(FFフロントミッド) ストラトス(MR後輪駆動)
慣性モーメント:小さい(前寄り) さらに小さい(中央集中)
錯覚の起点:操舵側の入力が速い 駆動側の出力が速い
限界挙動:スロットルオフでテール逃げ スロットルONでリアブレイク
補正動作:ブレーキリリース+駆動付与 スロットルで姿勢を維持
感覚方向:「前で曲げる」 「後ろで回す」
iQは前から引っ張られる錯覚、ストラトスは後ろから押される錯覚。
それでも両者に共通しているのは、
「人間の反応が遅く、車が先に動いている」という事実です。
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まとめ──“錯覚”の先にある正確さ
ショートホイールベース車が“曲がりやすい”と感じるのは、
実際の性能ではなく、人間の遅れを車が露呈させているだけです。
ただし、その領域に身体が追いついた時、車は驚くほどリニアに動く。
ストラトスもiQも、人間の感覚を矯正してくれる教師のような存在だと思います。
【Air Repair流・制御術の3原則】
・腰で感じ、手で遅れない。
視覚よりも体でG変化を捉える。ステアはその後。
・ブレーキリリースと駆動付与の“間”を作る。
慣性移動を止めず、力を受け流す瞬間を逃さない。
・ カウンターを信じすぎない。
切り戻しながら駆動を与えることで、旋回Gを消さずに立ち上がる。
ショートホイールベース車が“曲がる”のではありません。
車の反応が人間の時間を超えているだけ。
そのズレを感じ取れるかどうかが、真の“曲げる力”──
それこそが、Air Repairが追い求めてきた走りの理なのです。
Posted at 2025/10/23 21:14:13 | |
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