井川ブログではやたらコイルの話が出て来て、「そんなにコイルって大事なの?」とか、「マルチアンプ方式にしたらコイルはいらないのに。」と思われている方もあるでしょう。
実は井川自身昭和の終わりから平成の初めぐらいまでは完全なマルチアンプを推奨している人間で、「ツイーターとミッドレンジは別なアンプで再生して、ネットワーク回路を通さない事でロスを無くして、高音質を表現する事が出来ます!」と、何の疑いも持たずに自信を持ってお客様にお勧めしていました。
今では井川がマルチアンプを推奨していた事を知らない人も多く、逆に「サウンドピュアディオの技術でマルチアンプに取り組んだらいい音が出るんじゃないですか?」と質問される方もあります。
これはマルチアンプ方式から自分がネットワーク方式に切り替えた時のお話で、一部過去に書き込んだ内容と重複した部分もありますが、よかったら最後までお読み下さい。
そもそもマルチアンプ方式は音の調整が大変シビアで、基準になる物がないと何が良い音か判断出来ず、最初は31バンドのスペアナを購入してマイクで音を拾ってグラフに出して調整していたら、これがモノラル測定だから大雑把には分かっても細かい音の調整で使える様な物ではなくて、そこでスタジオ用のスピーカーを導入しました。
良い音の基準になるだろうと使ったら、これが3WAYのパッシブネットワーク方式なので逆にこれを聴かれたお客様の反感を買って、「元々スタジオがネットワーク方式でいい音なのに、それを車の中でマルチアンプで表現って無理があるんじゃないですか?」と、きついお言葉を多くの方から頂きました。
それでもマルチアンプがやめられずにいたらある日関西のカーオーディオイベントに行かれたお客様から、「○○という店がネットワークのコイルを巻き替えて良い音がしていた。井川さんもコイルを巻き変えたら?」と言われました。
自分はそのお店がメーカーから「あんな勝手な事をしていたら販売奨励金がもらえなくなりますよ。」的な、悪いお店の見本みたいな言われ方をしていたので、「自分はああいう店にはなりたくない!」という信念みたいなものがありました。
そういったコイルの巻き変えをして欲しいと言われるお客様には「そういう事をするとメーカーから目を付けられて販売奨励金がもらえなくなったり、音がいいという認定店を取り消されたりするかもしれないから出来ない。」と何度もお断りしました。
ある日一人のお客様から「手をかければあまりお金をかけずに良い音が聴けるのに、それをわざわざ避けてメーカーのいいなりになって楽な商売をするのは自分のためであって、お客さんの事を考えていない!」とひどく叱責されました。
ここまで言われて何もしない訳にはいかないので、そこで市販のネットワークのコイルをじわじわほどいて行って、「何だか音が段々透明感が増して来た。」と思っていたらあっという間にほどき過ぎていて、気がついたらツイーターとミッドの周波数がかぶりまくりで、とても聴ける物では無くなりました。
そこでパーツ屋さんでホームオーディオで自作ネットワークを作るためのコイルを買って来たら・・
サイズが大きくてケースの中に入らなくなりました。
仕方なくケースからコイルだけを外に取り出してみたら、「あれっ?これだと簡単にコイルが交換出来て、前もって予備のコイルを用意していてポンポン交換したらほどき過ぎが起きない!」と気が付きました。
そのうちに「他のパーツも交換したいから、別なケースに違うパーツをあらかじめ組んでおいて、それの両方を交換したらもっと自由に音が表現出来るのでは?」と思って、4ピース構成のピュアコンの原型を思い付いたのが25年前でした。
気が付いたらコイルもブラックボックスもこんなに増えて来て、計算上で4キロと5キロの間に31の刻みを作れる様になっていて、マルチアンプでは表現出来ない音を作る事が出来て、多くのお客様から支持して頂いていますが、これも一人のお客様から自分の取り組み姿勢の悪さを強く叱責して頂けたからと感謝しています。
そのお客様はスタジオ用のミキサーの上に置くタイプの小型のスピーカーをうちで買って頂いていて、ご自分でもいつかこんな音色でと考えておられたのが、いつまで経ってもそんな音にはならず、結局マルチアンプだと何も間に通さないけれど、スピーカーのインピーダンスのズレを全くコントロール出来ないというのがデメリットで、間にネットワーク回路を入れる事で音が滑らかになるので、そこを見逃しては良い音は出ないだろうというご指摘なのでした。
そんなピュアコンの誕生からもうじき26年になろうとしていますが、近年車の構造や純正オーディオがどんどん変わって来ていて、これまでは使う必要が無かった巻きの少ないコイルや、逆に極端に巻きの大きなコイルが必要となって来て、棚のラインアップは増える一方です。
その中で一部の純正のプレミアムシステムや、JBLのGX600Cを使ったシステムでは、空のボビンに一からコイルを手作業で巻いて行く方法を取る事が必要になっています。
これまでの一度機械巻きしたコイルをほどく方法では9割もほどかないといけなくて、これなら最初から巻いた方がいいという事になり、空のボビンを探す事にしました。
しかし昭和の時代ならまだしも、今時自作コイルを巻くボビンなど世の中に無くて、最初はメーカー製のネットワークのコイルを取り外して、そこからコイルを取り出して、一度導線をほどいて、違う純度の高い導線に巻き替えるという方法を考えました。
ところがこのボビンのプラスチックが固くて、どうしても音色が固い音になり、巻き数は合っていても音色が違うという状態になりました。
そこでオーディオ用ではなくて産業用のカラー付きのボビンを取り寄せて、それでコイルを巻いてみたら、今度はプラスチックが柔らかくて音が緩くなり、これはこれで使わない様にしました。
そういえば今から30年ぐらい前にホームオーディオの達人的な方から、「コイルに信号が流れると微妙な振動が起こって、それがコイルの周りの材質の影響を受けて、振動がたまったり跳ね返ったりするとストレスがかかって音が悪くなる。」と言われていたのを思い出しました。
更に「オーディオにとって理想的なコイルとは、この微弱振動をいかに下に逃がすかで、そうするとストレスの無い綺麗な音になる。」という事を話されていました。
コイルと言えばピュアディオブランドのスピーカーのZSP-LTD15はこれまでのモデルに比べて巻きの多いコイルが適合で、ZSP-MIDに比べたら約3倍の巻き数が適切な値となります。
そのためZSP-MIDの用にノーマルのコイルとアップバージョンのコイルの2通りを用意するという事をしていませんでした。
アウトランダーPHEVのデモカーはLTD15のミッドを使用していて、これまで何人ものアーティストさんに聴いて頂いて、高い評価を頂いていたのですが、先月サラ・オレインさんに乗って視聴して頂いた時に、ご本人が感想を述べられている声とスピーカーの声を聞いて、「ツイーターの方がもう限界に来ているけど、ミッド側はまだ伸び代がある!」と感じました。
そこで輸入物の高級なコイルを取り寄せて、適切な巻き数までほどいて、インシュロックで縛って、下にベークライト板を敷き、当たる部分にヤスリをかけて均等に力が加わる様にして、接着剤で付けてアウトランダーに取り付け見ました。
確かに音は良くなったものの、まだここが限界という作りでもなく、それはインシュロックと接着剤が柔らかめの物を使ったからでは?と思って改良しました。
インシュロックも接着剤も最初よりも固い物選び、再びアウトランダーに装着したら、今度は解像度が高すぎるというか、長時間聴いていると疲れる様な気がして、最初の物と後の物の中間の物を作って試します。
こういった音色の調整はスペアナでは測れず、歌っている本人に会って生の声を確かめているから出来る技で、「自分がやらないと日本では誰もやらないだろうな?」と思いながら日々精進しています。