1カ月に1・2回書き込んでいる『新・お客様の質問にお答えして』は、ほぼ文字だけで好きな方と嫌いな方と真っ二つにご意見が分かれていますが、好きな方も多いので今月も書き込まさせて頂きます。
最近お客様からの質問で最も多いのが、「中学高校と無線の実験を行って、それがオーディオの音を良くする技術の根源になっているのは分かるのですが、何故37年間も無線から遠ざかっていたのですか?」という問です。
確かに中学・高校とハンダ付けやコイル巻きなどの工作を行ったり、送信音や受信音を良くするためのオーディオに直結する工作も行いながら、社会人になって少ししたら完全に無線をやめてしまって、37年後に再び始めたら当時無かった技術が確立されていて、それを応用したらオーディオの音が更に良くなったという話をしょっちゅう書いていたら、「それならずっと無線を趣味で続けていたらもっと早く今の音に辿り着いたという事ですよね? なら何故途中で完全に縁を切っていたのですか?」という質問をとても多く頂きます。
最近の音が良くなった例を一つ上げると、5月の連休前にピュアディオの3連休の中日ぐらいに、いつもは仕事の関係で夜しか無線の移動運用が出来ないのが、連休の昼まで多くの人が移動運用をしているであろう5月4日か5日にこれまで使った事の無い超弩級の材質を使おうと宇部店で仕事の途中に専務の目を盗んでハンダ付けをしていました。
運が悪い事に専務にバッチリ見られてしまい、手に持っている物が今までに無線でもオーディオでも見た事の無い材質で、「それってオーディオに転用出来るんですか?」と専務に質問して、「使えません。」と言えば仕事中に趣味の事をしていてさぼった事になるので、正直に「形状が違うので形状を変えれば周波数的には対応出来ます。」と答えました。
当然の事ながら無線の規格からオーディオの規格様にやすりで削りを入れて合う様にして、たまたま入庫してしていた昔からのお客様の車に付けて試す事になりました。
一台分を削るだけでこれだけ前掛けに金属の粉が付きましたが、専務はそれに味をしめて、他にもう2台分作るだけの材料があったので全て使って、連休中の移動運用には使えなくなりました。
ただゴールデンウイークが終わった後にヤスリのかけ方を改善して密着度を上げたらもっと音が良くなる事が分かって、3台の材料を作り直して、これまで再生出来ないレベルの音が再生出来る様になりました。
ただこれはCD-700KKを持っておられるお客様に限定されるパーツなので、全てのお客様の音が良くなる訳ではありませんが、不幸中の幸いというか、無線の実験は出来なくなりましたが、今の時点で新たな材料も入手して10人ぐらいのお客様のデジタル入力の音を改善しました。
そこで「そんなのはオーディオ用でいくらでも超弩級の製品はあるでしょう。」と思われる方もあるでしょうが、そこはオーディオ用は評論家の先生のウケを良くするために多重構造にして、「ここの部分はその音域に良くて、この部分はこの音域に良くて・・」をやって、複雑なカット画像を見せて納得させるのですが、無線の材質は超弩級でも単純な構造で、こういうのはオーディオ雑誌的にはウケないのでオーディオ界には存在せず、たまたま無線の下の方の周波数とオーディオのデジタル伝送の周波数が近いために、形状を合わせれば使えて、結果としてオーディオ業界には無いシンプルな構造ながら優れたパーツが出来たという訳です。
ほぼ休み無しで働いているとはいえ、仕事中に趣味の道具を作っているという事はあまり良くなく、お客様のお車の音質は良くなりましたが、自分の実験の方は電気的には連休前と変わっていません。
こんな例がある様にオーディオ界の常識にとらわれない優れた技術を知る無線の実験を37年も避けていた理由は、1980年代に流行した『違法な無線』にあります。
それまで無線は27メガヘルツの0・5ワット送信の物は免許が要らず、それで無線の面白さを知って当時の郵政省が行っていた無線従事者の試験に合格したら10ワットの送信がアマチュア無線の周波数で行えて、もっと難しい上級の試験に受かれば50ワットや100ワットの送信が出来るというもので、無線工学と電波法を勉強しないと遠くに電波が飛ばせず、10ワットを越える電波を出そうと思えばモールス信号の早打ちと早聞きの試験も合格しないといけない難しさで、その試験の難しさから『キング・オブ・ホビー』と世界で言われていたほどです。
それが日本では27メガで5ワットが出せるアメリカ規格の無線機を使って、更にそこに100ワット・500ワット・1000ワットと違法なブースターを付けて出力を上げて、日本の無線は違法局だらけになりました。
これだけ日本で違法な無線が流行したのは、この無線の面白さに非合法的組織が目を付けて、違法な無線を行う団体を作って、その会費を徴収して莫大な利益を上げるという、表現を変えれば暴力団の資金源になったのです。
これが世界で『キング・オブ・ホビー』と言われた無線の趣味が日本だけブラックな趣味になってしまい、会費を稼ぐためには違法な無線設備を販売する店が必要で、自分が無線の知識に詳しいと知ったその筋の人が近づいて来て、既にカーオーディオ専門店を始めている所に「販売や修理をして欲しい。」と言って来られたので、その時に無線機の道具は全て処分しました。
実際にオーディオメーカーが店に来ている時に、ガラの悪いアメ車が2台来て、そういう事を言われていたので、それを見たメーカーが「そういうお客さんがしょっちゅう来ているのなら、取引をやめないといけない。」と言われたのもあるけれど、自分は難しい試験を3段階受けて全て合格しているので、そういう誇りもあっていくら儲かっても違法な事には手を出しませんでした。
当時の違法な無線機を売っていたお店はぼろ儲けをして高級車に乗っていましたが、そのうち電波は郵政省から総務省の管轄に変わり、法律が変わって違法な無線機は販売しても罪にならないが、使用すると罪になるが、販売しても罪になるに変わって、もうぼろい儲けは出来なくなりました。
その時点で無線を再開する事は無く、一度楽を覚えてろくでもない業種というイメージがあり、無線機屋に足を運ぶ事はありませんでした。
そして37年ぶりに無線機屋を訪れた理由は、サウンドピュアディオがFMラジオのスポンサーに力を入れて、アーティストの音楽活動を応援している番組を自分が聴くのに、ラジコではなくてダイレクトに良い音で電波を受信したくなって、77メガヘルツから80メガヘルツの狭い帯域で最高の感度が得られるアンテナを作りたくて、おそらく長年真っ当な製品だけを扱っていたであろう無線機屋さんに行って、車載用のエレメントと測定器を買って帰って、自分だけのオリジナルのアンテナを作って車に付けてFMを高感度で聴いていました。
それから数か月経ったところで千葉で大規模な台風災害が行って、電話やインターネットが全く繋がらなくなって、孤立した地域からアマチュア無線を使って連絡が取れたという話を知って、エレメントと測定器を買った無線機屋さんに行って、最低限の無線機と、切れていた無線局の免許を再申請してもらいました。
ただ無線を始めたら安物を買ったためにオーディオ性能が悪く、最初のうちはこんなものだろうと思っていたのが、そのうち無線仲間が出来て会う様になったら、「この人の声ってこうだったんだ。」と分かる様になって、オーディオ性能がいい無線機を買いました。
でもたまには最初に買った無線機も使わないとと使用したら、相手から「音が悪いから他の無線機に替えて。」と言われて、オーディオ性能が悪い無線機は受信だけでなくて送信の音も悪いんだ、と分かって、最初の無線機は安く処分しました。
買ったのは無線機だけでなく、アンテナは4分の1波長・8分の3波長・2分の1波長・8分の5波長・8分の6波長・8分の7波長とありとあらゆる波長を試したくなって、自分が高校生の時の4分の1波長と8分の5波長の時代とは違う波長の乗せ方があるのを体験して、それが知らないうちにピュアコンの性能を上げるという、無意識のうちに趣味の実験から良い音を再生する手法を身に付けました。
ただ良い事ばかりではなくて、無線の友達が増えてそのうちの何人かがお店でオーディオ製品を買ってもらえる様になった時に、「これはアマチュア無線を商業している。電波方違反だ!」という人も出て来て、今はアマチュア無線は仲の良い仲間との連絡用で、商業実験的な運用は仕事でも使って良いデジタル簡易無線の5ワット送信で行っています。
この351メガの5ワット送信は、昭和の時代の27メガヘルツの0・5ワットの代わりになる物で、27メガの違法無線の登場によって学生の無線の実験が出来ずに、日本の優れた技術者の育成に長い期間問題があった事を知り、351メガヘルツのデジタル簡易無線を使用する学生を支援する会を始める事にしました。
その理由はある日351メガの15チャンネルの呼び出し周波数で、小学生ぐらいの声で「CQCQ、どなたか交信して下さい。」と言っているところに、仕事で無線を使っている大人が「うるさい!」と言って、小学生らしき声で「すみません。」と謝って出て来なくなりました。
実際には15チャンネルを呼び出しに使うのは総務省が決めたルールで、15チャンネルが空いているからと使って、小学生を叱る方が間違っているので、「これは15チャンネルを自由に学生が使える様にしないと未来の技術者を潰す事になる!」と、15チャンネルを普通に学生が使える様にして実験を行い、将来的には難しい試験に受かって違う周波数でもっと大きな出力で電波を飛ばせる様にするという事で、毎週土曜日の夜に伝搬実験を行う事にしました。
伝搬実験には社員も1人参加していますが、技術職に付いてる者は波長が合うか合わないか、インピーダンスが合うか合わないか、複数の周波数に同調させるなどのそのまま仕事でつかえる技術がドッサリ詰まっています。
もう完全に終わっているダサい趣味の様ですが、日本が電子立国と言われていた時期は各メーカーに無線の上級免許の保有者が多く、あるプロ用のスタジオ機材を作っている会社の社員は、ほとんどが最上級の1級を持っているという事を2年前に知って、やはりプロサウンドを目指すとこういう知識は絶対に必要だと実感しました。