以前から薬の選り好みは激しかったようで、母の部屋には大量の薬が残されていた。机の上にのみ残された錠剤が大量に転がっていた。その母が父の薬の選り好み(友人の入れ知恵で飲まない方がいいなどと言われてより分けていた)を非難していたのだからどうなっているのやら。
(高齢者アパシーで)やる気がしないといっているが、一方でやりたくない意識が大変に強いことが見て取れる。かなり前から入院する度に詐病で引き伸ばしたりすることが多く、昨年の2回の入院でも退院後は何もしないで済むように施設に入るつもりになっていた。
父は、食べ物はあまり残さなかった。母より少し上で疎開経験があり、貧しい家庭かつ戦中戦後のの苦しい時代に大変な思いをしたのをよく覚えているからなのか、あまり食べ物を無駄にはしなかった。
育った時代や環境の違いの影響は大きそうだ。
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私は母に、出されたものは残してはいけない言われ続けて育った。
キャベツの千切りと称する極めて食べにくいキャベツの細切れを、ドレッシングも何もなく出されて食べさせられ、何か付けるものといってもマヨネーズぐらいしかなく、マヨネーズをかけるとマヨネーズに細切れがくっついてマヨネーズのキャベツの細切れまぶしになるので、とてもおいしくなく食べにくい。それを無理矢理口に放り込んでいつまでも口に残って飲み込めない。
そんな地獄のような食事をさせられ続けた。野菜を食べるのが苦痛でしかなかった。
大学生・社会人になり、外で食事をするようになると、野菜は食べやすくおいしいものだと認識した。家で食べていたものは何だったのだろう。
ほんの一時期母がイタリア風味のサラダドレッシングを自作していたことがあるが、それをかけた野菜さらだはおいしかった。しかし母はすぐ自作に飽きて、自分は和風ドレッシングや青じそドレッシングばかり買ってきて食べていた。私はそれらが苦手だったので、あいかわらず細切れのキャベツがまとわりついたマヨネーズと格闘するしかなかった。
また、母はおでんというものを知らなかったのか、おでんを作るというと、コンブでだしを取り、大根、こんにゃく、ちくわを入れて醤油で煮たものを出してきた(テーブルにコンロを出して土鍋で作る)。
大根が苦くて、ほかは醤油の味しかせず、とてもまずかった。だから、私は【おでん】というものが大嫌いだった。
大学を卒業してから研究室の人に誘われて、彼が祖父母が住んでいた家の維持のために住んでいる館山の古民家に行った。そこでおでんを皆で作って食べたのだが、恐る恐る口にしたおでんは驚くほどおいしかった。おでんというのはこんなにおいしいものだったのだと初めて知った。具も餅やはんぺんやちくわぶなど、母が作るものでは見たことがないものが入っていて、大いに驚いた。ちくわぶが大きくなっていく過程を始めて見た。
母の作るものと態度が、私を野菜から遠ざけていたし、おでんを嫌いなものにカテゴライズさせていたわけだ。
食べ物は残してはならないという強いしつけのせいで、親戚の家に泊まったときには出されたものをすべて残らず平らげて腹痛で苦しみ、親戚を困惑させたりしていた。
今も食べ物をほとんど残すことはなく、皿もなめたように綺麗にしている(自宅では実際になめるので残飯はほとんど出ないし、皿洗いも手間がかからない)。
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そこまでさせた本人である母が、食事あとが汚く、平気で食べ物を残すのがちょっと許せない。時間と手間をかけて作ったものも平気で残し、腐るまで放置するのだからやってられない。
最近は認知症で、空腹でなくても空腹と感じ、食べ物を探して歩く。
カップラーメンなど買ってあると、すぐお湯を入れて暫くつつくとテーブルやキッチンに放置。実際は腹が減っていないので、食べられない。
暫くするとまた腹が減ったと言ってカップラーメンにお湯を注ぎ、暫くつつくとまた放置する。気付くといくつものカップラーメンがキッチンに並んでいる状態になってたりする。
のびたラーメンなど食べたくないのはわからないでもないが、残したものを食べることは一切考えず捨てることしか考えないので、ひたすら無駄にカップラーメンが消費されていく。
もったいないので残された伸びたカップラーメンを私が食べているのだが。
ケアマネさんから、食事を宅配でとることを提案されたが、つついては捨てるを繰り返しているとつたえると、宅配はやめた方がいいということになった。
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母は庭に出ると、庭の大葉、山椒の葉や実を摘んでくる。
時期になると柚子がなるがそれもよく採ってきていた。
しかし、それらのものはほとんど無駄にされる。
大葉はそのまま放置されてしなびてゴミ箱行き。
今も山椒の実がキッチンの上に放置されている。
昔から、山椒の実や柚子を採ってきてはチャック付きのビニールバッグに入れ冷凍庫に放り込まれてそのままにされてきた。冷凍庫にはそうしたビニールバッグが大量にあって冷気が動く隙がなくなっていた。
母は冷蔵庫や冷凍庫の管理をしないので、何が入っているかなど全く念頭になく、新たな物を次々と詰め込んできた。常に冷蔵庫はどこもギチギチに詰め込まれていた。
山椒の葉は冷や奴に使ったりしていたことがあったし、柚子は皮を雑煮に入れたりはしていたが、他では使っていた記憶がない。
無計画に目についたものをとってきてはゴミ箱か冷凍庫行きになって無駄にされるのだ。
先日も大量の冷凍柚子を捨てた。冷蔵庫でグズグズになった柚子も捨てた。
今もいつ入れたか分からない冷凍バナナが冷凍庫にいくつか転がっている。
昔からこの調子で、それが今も繰り返されている。
先日は私が育てているミニトマトをとってきて、あげくに生ゴミとして捨てていた。
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元々食べ物を粗末にする母が、認知症でますますひどくなっている。
その母に絶対に食べ物を残さないようにしつけられた自分は、ひたすらイライラするのだ。