高給取りは全然分かってないと感じさせるコラムと、それを見た元新聞記者の反応を見た。
取りあえず、引用。産経の古典個展というコラムで、立命館大フェローの加地伸行という人のもの。
前半の、なぜ【1億総活躍社会】という語が響かないかについてはまあ面白い。確かに、所得倍増計画は自動的に政府がしてくれる感覚だが、総活躍となると、自分が駆り出される感覚がつきまとう。
ただそれだけのことで、大した中身のない内容。
それはそれとして、後半はどうしようもなく頭の中だけで描いて自画自賛している。
介護離職ゼロ政策に目をつけ、給与を上げる案になるだろうがそれはダメとして次のように言う。
・介護士給与が上がれば次に看護師が給与アップを求める。
・看護師給与が上がれば医師が黙っていない。
根本的に介護士の状況が分かっていない。
介護福祉士の年収は平均で300万円+程度。
夜勤もあり、日祝日も仕事が入る。
給与的に生活が厳しい上に肉体的にも精神的にもしんどい。
なり手が少なく離職率が高いのは負担に対して収入が少ないからで、たとえ出勤数が減っても収入が増えないのではどうしようもない。
空いた分で別の仕事をするとしても、週にたった1~2日だけのバイトなんて(しかも介護士は変則勤務なので休みを曜日で固定しにくい)見つけることが難しい。
介護にバイトで入るなんてことになったらやる方も管理する方もたまらない。その分本来の職場で働かせて給与を支払う方がはるかにマシだろう。全く非現実。
中高生のボランティアを介護士と同等の実戦力にできるとはにわかに考えがたい。経験のないボランティアが来るだけでも現場の負担が増え、大変な状態。ちなみに、
このアイディアは国会議員が既に提出していて失笑を買っている。
これを【30年前に既に出している】と自画自賛。
だいたい、学校教育で介護現場に派遣するとは、強制労働であってボランティアではない。
中高でどんなに長くても6年で、目一杯の正規授業時間に入れ込んだとしても週にせいぜい1時間。そんなものが何になる? 放課後は学校の正規時間ではない。部活動同様の扱いになり手当は出ない可能性が高く、教員の負担も洒落にならない。
長期休暇も使えばもう少し増えるが、そこで得られるわずかなポイントが将来どんな足しになるかも不明。。おまけにこの【ボランティア】に何らかの理由で参加できなかったものはポイントが得られないので将来不利になる(ポイント分は本来の公的負担分にが充てられるだろうから、ポイントがなければ公的負担分を得られなくなるのだろう)。
介護ポイントで将来介護を受けるアイディアは、地域通貨など、非常に多く見るが、戦力になるかどうかも分からない学生の労働分に正規介護職員と同等の価値をつけられるわけもない。
このコラムは、高給取りな頭でっかちが、上から目線で何にも現実を見ないで書いているのだな思わざるを得ない。
困ったことに、知りあいの元某大手新聞記者がfacebookでこのコラムの視点が面白いとかなりの勢いで褒めていた。
かなりあきれながら、上記の内容の抜粋コメントをつけておいた。
満たされているものには見えないものがある。
まさに
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」
の世界だ。
現役世代として、将来の増収も見込めない中年収200万円台の生活をしてみればいいのだ。
そして、お金も暇もあり、やりがいを欲している引退世代が介護を率先してになえばいい。
若者の社会勉強? 狭い世界しか知らないで何でも知った気になっている老人の社会勉強の方が有益だろう。自分がやがて介護されるのだ。介護する方を経験して有益なことこの上ない。
若者にはこれから学ぶべきことがたくさんある。
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コラムを書いた人物の経歴を調べてみれば、保守の論客で、歴史修正主義的教科書を作った「新しい歴史教科書をつくる会」の賛同者。
教育目的の徴兵制復活を唱え、2012年に国立大学の秋入学移行が論議された折には、高校卒業から大学入学までの半年間で新入生の心身を鍛え直すために自衛隊への正式な入隊を義務付けよと主張したそうだ。(
wikipediaより)
教育目的なら強制労働は当然と考えているわけだ。
じゃあまず自分が自衛隊に入隊してみろ、介護をやってみろと誰もが思うことだろう。
自分をなにもしない高みに置いたまま、まさに上から目線だ。
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ちなみに、看護職は人材不足のため待遇がいい。経験2年でも年収450~500万円と言うこともある。20代前半で500万円ももらえば高給のうちだろう。
生活に困難がある年収200万円台が少しアップしたからと言って同率アップを訴えるという決めつけにあきれ果てる。
医師に至っては年収数千万円(研修医を除く)。医師の場合は給与より休みをくれという方が多いだろう。産婦人科などは激務の上に訴訟リスクが高く、何かあればメディアからのバッシングが待っている。当然なり手がない。
追記1:
医師はもちろん、看護職も給与が高いのは、負担が大きいからとされる。
しかし一方で、日本医師会や日本看護協会は政治団体日本医師連盟や日本看護連盟を通じて政権与党へ政治献金をしている。所得水準が高い理由に政治団体の存在は抜きにはできない。
一方の介護者には横断的な政治団体はないようで、ただ搾取されるに任している。
追記2:
上記のようなコラムへの批判的なコメントは消されてしまったようだ。
批判をするなら対案を出せと言いたいのかもしれないが、解決の意見を求められたので、更にいろいろと続けた。その介護ボランティアに主軸を置いた別視点の一連のコメントは今のところ残されている。投稿全体としては、コラムへの批判は消され、コラムで一例で安易な主張にしか過ぎなかった介護報酬問題を、コラム自体があたかも重要な論点として取り上げたものであったかのように修正されたことになる。
他人のFacebook投稿へのコメントなので、いろいろと対面もあるだろうし、自分が持ち上げていたコラムを否定されたらいい気はしないだろう。
編集されるのはありうることだが、これがマスコミ人のやり方かとがっかりする。
現在読める状態。
ともかくも、現実を見ないで頭の中、紙の上(ネットの上)だけであれこれ言って、“アイディアがいい”とかと言い合っている言論人の頭の中の貧しさには呆れた。
追記3:
まだ残っているコメント部分を引用するが、ここではなぜ資産を持っていて年金も後の世代では望み得ない額をもらっている豊かな高齢者に負担に求める議論が起こりにくいかを、若干歯に衣着せて書いている。
投票率の高い高齢層は政治的に優遇されることは一つの理由。
もう一つは、壊滅的に購読数が減っている新聞社にとって、購読率の高い高齢者は重要な財源。当然都合の悪いことはなるべく書かない。逆に高齢者に負担を求めるものに攻撃的な論調となる。
その結果、政策的にもマスコミ的にも弱者・若年層から搾取するものになる。当然介護士の給与が上がれば高齢者の負担となるのでそんなことの後押しはしない。
しかしながら、さすがに介護現場に人がいない状態はどうにもならず、厚生労働省は月額給与増の財源を確保した上、同額分ボーナスをカットされたケースを無くすため、黒字業者のボーナスカットを禁止。何とかしようとしている、しかし、資産に応じて自己負担分を大きくするような議論は盛り上がらない。
この他には、派遣ビジネス同様、企業優遇で労働者搾取構造を許していると言うことがある。
派遣ビジネスは、パソナの竹中平蔵はじめ政治的プッシュが効くことが大きい(彼らに都合のいい法改正が平気で行われる)が、介護ビジネスはよく分からない。
(以下名前を伏せて引用)
元記者氏: Yuhさん、ありがとうございます。加地さんが「30年前から主張している」という割に、彼の提案が実現しないのは、別の根拠があるわけですね。
一億総活躍に対して、一億総ぶら下がり状況を指摘したが、実際には、一億総参加を「強要」するやり方だという批判。 そのうちに高齢者の加地さんは亡くなるから当事者意識は、意外と少ない。
現状の徹底した理解を踏まえて、新提案が出てこないと、国民は動かないというのは事実でしょうね。それが国民の間からも政府からも出てこないうちに、ずるずると「社会の力」は失われる。そういうのが現状でしょう。
どうすればいいのか。誰か、加地さんを超える提案をしている人はいないのですか?
Yuh: 介護ポイントを30年前から提案していると言っていますが、これはたとえば地域通貨のような形で導入しているケースはあります。しかし、それは介護の戦力となったことが前提で、子供たち全員に強制参加させても、現場ではその子供たちの指導だけで疲弊し、しかも短時間しかいない。24時間365日の現場では肝心の介護戦力にはなかなかならないでしょう。介護実習にはお金を払って参加するぐらいです。加地さんという方は教育目的の徴兵を主張している方でもあるようです。国民の義務として学業や労働より優先して介護福祉士資格取得と3年間(1年目は仕事を覚えるので精一杯で余り役に立たないのでは?)の介護を課すなら少しは現場の助けにはなるかも知れませんが、徴兵は有給です。介護義務を課しても当然有給にせざるを得ませんから、国民皆介護制になれば財政負担はむしろ莫大に増えるのではないでしょうか。ボランティアを強制する発想は、自治体で最近とみに強まっていますし、我がベイタウンでも……。
元記者氏: ボランティアを「強要」しない形での打開策は、別途ありますか? どうすれば良いのか、Yuhさんは意見がありますか?
Yuh それが肝心のことで、一般的には「やりがい」に訴えるようなことが行われます。しかし、それは本質的には【お金がない】ことを誤魔化しているだけで、結局のところ【やりがい搾取】です。生活に余裕がある人ならやりがいを求めて余暇にボランティアもできますが、休日もなく働かないと生活ができないような人がボランティアなどできるはずがありません。そういう肌感覚がない人が多いように思います。
本質的な解決は、何とかやりくりしてお金を回すか、安い労働力を導入するかというところに行き着いてしまいます。これが簡単に解決するならもうしている問題。
遙か以前から高齢化社会が言われていたのに、全く対応ができていません。それどころか無駄な使い方をして年金を食いつぶすわ、最近では株価対策のために政策的に運用に圧力がかけられて債券比率を下げて株に回して大損を出すわの状況(さらには格付けの低い債券まで買うというバクチをはじめています)。消費税増税分が福祉に回るはずが企業減税にまわり、財政をどうかするのは、国の構造的にどうにかしないとどうにもならないようです。この部分は誰かが目先のアイディアを出してどうなるものではないように思います。
安い労働力のアイディアが学生の強制労働になったり、介護福祉士の低賃金雇用になっています。あるいは国外から安い労働力を導入して当面乗り切るみたいな話になってしまいます。
対案がなければ無茶な論でも認めなければならない理由はありません。おかしなものは当然批判の対象です。残念ながらこの分野は私は詳しくなく、誰がどう言っているかと言うことは知りません。自分には論理的におかしいことしか分かりません。実現不可能なことを言っても何の意味もありませんし。
アイディアをと言われて簡単に出るものではありませんが、少なくとも今の高齢者は持ち家比率も80%以上で、資産も持っています。年金も後の世代ではあり得ない高額なものを得ています。票を握っているので政治的な理由で優遇されています。彼らの資産は当然彼らの介護にも使われるべきです。資産に応じて自己負担が応分にあって当然でしょう。それが介護者の給与に回る仕組みを作るべきでしょう。お金も持たない弱者に強制して搾取する考えはあまりにも不健全すぎます。
Yuh: 最近は小中学校を中心に地域との連携を訴えていますが、その中身の一部は、予算不足からくる指導員の不足を地域からボランティアで募るものでもあります。
そのターゲットは団塊世代です。金銭的にも時間的にも余裕があり、人数も多い上に引退後のやりがいを求めている。同様に、当面この世代に介護を牽引してもらうのは、悪い考えではないように思います。
Yuh: 高齢者に負担を求めることは、高齢者が票の元だったり貴重な財源だったりするので、なかなか語られないようです。案を出しても政策的に嫌われ、マスコミの支持も得にくく、通りにくいはずです。
Yuh: あ、そういえば、日本医師会や日本看護協会は医師連盟と看護連盟を通じて自民党へ政治献金をしています。政治献金ができる介護者の団体はそもそもないのではないかと。お金と組織がなければお金も回ってこない構造ですね。政治団体を作らせるのが先決かも知れません。つまらない話ですが。
Yuh: なお、ワタミもそうですが、介護ビジネスには多くの企業が参入して利益を上げています。需要が多い上に人件費が安いので、利益が上げやすい構造があります。すっかり搾取構造ができています。ただ、競争激化で利益が出にくくなっています。ワタミも稼ぎ頭だった介護ビジネスを手放そうとしています。
(注:ワタミが稼ぎ頭だった介護ビジネスを手放すのは、今後も高収益を見込みにくいことの他に、他の赤字補填ためにやむなくという部分が大きい。)