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Yuh_Fazioliのブログ一覧

2014年06月29日 イイね!

ガン細胞を正常細胞に戻すことが可能に

 調べ物をしていたら、思わぬものに当たった。

 鳥取大の研究で、ガン細胞を容易に正常細胞や良性細胞に転換させることに成功したというのだ。
 短いRNAを1つ導入することで、リプログラミングさせると言うことらしい。

 しかも、培養細胞レベルではなく、実験動物レベルでだ。

 これは画期的。

 このリリースが2014/1/24。STAP細胞が1/30で、報道がSTAP細胞で覆い尽くされてしまった形になっているようだが。

 これは知らなかった。

 このあたりの話はあまり予備知識がないし、研究の最前線はもちろん、これまでの研究の流れも良く分からないのだが。しかし、おそらく、この研究自体は突飛なものではないだろう。
 リプログラミングと言えば、iPS細胞やSTAP細胞と重なるが、STAP細胞のようなまじないをしたらリプログラミングされたような話では決してない。

 課題は多いのだろうが、期待したい研究だ。


鳥取大、癌は容易に正常細胞や良性細胞へ変換できることを発見
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=353873&lindID=5


癌は、容易に正常細胞や良性細胞へ変換できる
単一のマイクロRNAの導入により
~抗癌治療や再生医療としての応用に期待~



【概要】
 鳥取大学の研究グループ(代表:鳥取大学医学部病態解析医学講座薬物治療学分野 三浦典正 准教授)は、自身がクローニングしたRNA遺伝子の機能解析に従事している際、この遺伝子に関連して発現変動する単一のマイクロRNAを悪性度の高い未分化癌に導入すると、容易に悪性度を喪失させることができ、正常幹細胞へ形質転換できることを、世界で初めて発見しました。同研究グループは、2012年に、肝癌において未分化型や高分化型細胞株を用いて、in vivo(免疫不全マウスを用いた動物実験)において、いずれも悪性形質を失わせ、成熟型奇形腫、正常肝組織、腫瘍非形成の3種のパターンに誘導できることに成功しています。また他の未分化型癌においても可能であり、本分子が有用であることが明らかになりました。このたった1つのRNA分子からなる製剤開発により、癌に対する有効な医薬品に応用できるものと期待されます。
 本成果は、国際的科学誌である「Scientific Reports 誌」のオンライン版で平成26年1月24日に公開されました。なお、本研究は、文部科学省科学研究費(挑戦的萌芽研究)、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)A-STEP【FSステージ】シーズ顕在化、武田科学振興財団研究、高松宮妃癌研究基金の助成研究として行われました。

■背景
 研究グループ代表は、自身のクローニングした遺伝子がRNA遺伝子であり、癌の第一抗原と目されてきたヒトテロメレース逆転写酵素遺伝子(hTERT)と関連して、特に未分化なヒト癌細胞において、その発現を制御させる性質をもつ特異な遺伝子として、発がんや癌の悪性度に関わる遺伝子として機能解析をしてきました(2009年BMC Mol.Biol.に発表)。また、未分化型悪性黒色腫でも当該RNA遺伝子が増殖抑制できることを、製剤候補としてハイドロゲルやアテロコラーゲンを用いて確認してきました(2013年Nucleic Acid Therapeuticsに発表)。この度、このRNA遺伝子をshRNA法という遺伝子発現を抑制する手法により10種程度のヒトマイクロRNAが発現変動することを突き止め、その1つ1つを癌細胞の中へ導入することで、最も癌を制御できる有効なものを検討しました。その結果miR-520dが驚くべき現象を誘導しました。
 2012年2月に、山中教授らが当初iPS作製に使用した293FT細胞、または未分化な肝癌細胞、膵癌細胞、脳腫瘍、悪性黒色腫細胞で、球状の幹細胞または癌幹細胞様の細胞へ容易に変化させ、その細胞はP53という癌抑制遺伝子を高発現していることを見出しています。それまでは、マイクロRNAのがんや再生医療の報告として、miR-302 family,miR-369,200cに関して多数種の併用でリプログラミングの試みがなされていますが、たった一つでこのような効果をもたらす報告はありませんでした。


■内容
 本研究では、まず未分化な肝癌細胞がmiR-520dにより、12時間程度でP53,Nanog,Oct4陽性の細胞へ変化し、miR-520d導入細胞がマウスでその癌とは全く異なる組織(奇形腫や正常肝臓組織)を形成したり、腫瘍を全く形成しなかったりすることがわかりました。高分化型癌でも1ヵ月程度で同様の細胞へ変化します。このことは、悪性度の高い低分化なものほど容易に良性形質になりやすいことを意味します。この結果から、メカニズム解析と同時に、治療的効果の検討を行っており、脱メチル化による脱分化誘導がその原因の1つであることも証明しました。
 他の癌でも派生元の細胞の性質をより強く持つ全く異なる細胞へ形質転換できることから、多くの未分化な癌細胞で有用な分子であることがわかりました。たった一つの生体分子が、このように劇的に癌細胞の状態を変えてしまうことは、癌根絶の夢が目前に来ており、この領域の研究及び製剤開発が推し進められることで早期に実現する可能性も高まりました。

■効果
 医療の現場では、癌細胞は集学的に研究や治療が試みられており、癌幹細胞の根絶が困難なため再発が、担癌患者の心身を蝕みます。この小さなRNA分子(20mer)のメリットは、癌幹細胞への感受性が高いことで、他に治療法のない末期的な担癌状態に奏効すること、また抗がん薬で有効でなかった癌細胞に癌治療のアジュバント療法として奏効する可能性が極めて高いことです。このRNAからなる癌細胞へ送達できる製剤との併用により、従来にない作用機序の医薬品としての応用が期待できます。また癌に対する核酸医薬の中心的な役割を果たすことが期待できます。またP53の発現を誘導することから、再生医療でもiPS細胞の品質管理などに応用できる可能性があります。


【掲載論文】

 題名:“Hsa-miR-520d induces hepatoma cells to form normal liver tissues via a stemness-mediated process”(ヒトマイクロRNA(miR-520d)は幹性誘導により肝癌細胞を正常な肝組織に誘導する。)

 著者:Satoshi Tsuno,Xinhui Wang,Kohei Shomori,Junichi Hasegawa,Norimasa Miura

 雑誌名:Scientific Reports(出版社:Nature Publishing Group)

 オンライン版URL:http://www.nature.com/srep/2014/140124/srep03852/full/srep03852.html


追記:
 遺伝子の導入にはレンチウイルスベクターを使っているそうだ。
 ウイルスを使った逆転写はランダムに起こるので、正常遺伝子を異常化してがん化するなどの危険もある様だ。そのあたりが実用化に向けた鍵であるらしい。
 ちなみに、レンチウイルスベクターはHIV、要するにエイズウイルスを元に作成されたベクターだ。
 レンチウイルスベクターは核膜孔を通り抜けられるので、分裂中でない(分裂時には核膜は消失する)細胞に遺伝子を組み込めるメリットがある。


ぼそっとひとりごと:

 最近、兄が理研QBiCに移っている。
 そうかと思えば大学時代のボスが退官後ずいぶん経ってなお現役で、今は理研(和光)にいる。
 最近やり取りの多い友人のダンナも和光らしい。

 なんか、周りに理研関係者が増えて妙な感じだ。
 皆、小保方晴子のおかげで迷惑を被っているのだろう。
Posted at 2014/06/29 18:12:24 | コメント(0) | トラックバック(0) | サイエンス | 日記
2014年06月22日 イイね!

未だに小保方晴子を誇る早稲田大学の矜持?

小保方晴子の出身、早稲田大学理工学部。

 学生の指導体制や、そこから巣だった人間の感覚におかしいのが多いことは知っていたが、これだけ問題になり、世界三大不正とまで言われ、博士号剥奪確実(しかし未だ結論を出していない)な小保方晴子を誇ったニュースリリースを出しっぱなし。

http://www.waseda.jp/jp/news13/140130_obokata.html


 理研の方は、論文の取り下げを勧告した旨の記述がニュースリリースに付け加えられている。

http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140130_1/

  早稲田の方は放置したまま。
 
 この大学の感覚、完全におかしい。

 学生時代、この大学に行ったら自分は絶対にフェードアウトすると思っていた。あまりに感覚が違いすぎた。
Posted at 2014/06/22 13:01:09 | コメント(0) | トラックバック(0) | サイエンス | 日記
2014年06月22日 イイね!

DNA二重らせんを発見したクリック博士のベンツのナンバー


 DNAの二重らせんの発見者と言えば、ワトソンとクリック。DNAの塩基同士が相補的に向かい合い、3.4nmで1回転する二重のらせん構造のモデルをわずか2枚の論文にまとめ、ノーベル生理学・医学賞を受賞している。
 彼らは実験もせず、シャルガフが見つけたDNAの塩基の割合の経験則と、独自にDNAのX線回折を行っていたフランクリンのデータ(二重らせん構造を示していた)をウィルキンスの手引きで盗み見たものからアイディアをまとめたことでもよく知られている。また、フランクリンが英国医学研究機構に提出した非公開レポートが、同機構で予算権限を持つクリックの指導教官を通じてクリックに渡っていたという。
 ワトソンは人種差別主義者としても有名で、問題発言が多い人でもある。

 自分は高校生の時に『二重らせん』(ジェームズ・ワトソン著 講談社ブルーバックス)を読み、感激した記憶があるが、実像はどうもどろどろして決して気分のいいものではなかったらしい。

 **

 発見者の一人、クリック博士だが、2004年に亡くなっている。
 
 クリック博士はサンディエゴのソーク研究所で研究を続けていたのだが、自分と同じマンションに住んでいるHさんという研究者が同研究所にいたことがあり、その彼からクリック博士の車のナンバープレートの話を聞いた(当時はまだクリック博士は存命だった)。

 ナンバープレートには

AT GC

の文字がならんでいたという。もちろん、DNAの4つの塩基の頭文字であり、その相補的な組み合わせである。

 この話は一部では有名らしい。

 クリック博士の白いベンツの写真を別な研究者が公開していたことがあるが今は見かけないようだ。
 W210であったようで、今となっては貴重な写真だ。


 W210(上はクリック博士のものではない。博士のものはサンルーフ仕様)は、登場時、ぎょろっとした丸目に驚いたものだ。ワゴンはうまく合っていたがセダンはどうも唐突な印象だった。後にモデルチェンジでライト周りのデザインは長細く改められた。
 同じ時期、ホンダ インテグラも丸目で失敗している。本来丸目はオーソドックスなライトデザインだが、グリルレスなデザインが全盛となった上に4つのサイズ違いの丸目が並んだことが、異形の生物を連想させたようだ。


(冒頭の図はwikipedeaより引用)




Posted at 2014/06/22 11:50:50 | コメント(0) | トラックバック(0) | サイエンス | 日記
2014年06月21日 イイね!

STAP細胞の正体(日経サイエンス)

 日経サイエンスは、かなり以前から購読している。最初は内容が高度すぎてついて行けなかったが、徐々に把握できるようになってきたし、専門から遠く、全く理解の外である記事はそう言うものだとあきらめている(苦笑)。(注1)

 STAP細胞について、いい仕事をしているように思う。(注2)

 号外記事はPDFで読むことができる。この記事では理化学研究所統合生命医科学研究センターの遠藤高帆上級研究員らが解析した結果を紹介。8番目の染色体が三本ある(トリソミー)であることが判明。この特徴からSTAP細胞とされていたものがES細胞である可能性が高いことを示していた。

2014年6月11日
【号外】STAP細胞 元細胞の由来,論文と矛盾


 なお、遠藤高帆氏はネット上でDNA解析結果を公表しSTAP細胞が存在しないことを示していた「kahoの日記」のkaho氏とみられている。



 8月号の記事では上記の遠藤高帆氏の解析に加え、若山教授が第三者機関に依頼して行った、若山教授が小保方氏に作成してもらったSTAP幹細胞とされる細胞の調査結果から、STAP細胞とされるものの実態がどのようなものであったのかを示す。少なくとも3種あったという。これまでに様々なデータから推測されてきたことが、かなり裏付けられてきたようだ。1つと考えるから混乱もあったが、複数の細胞を使い分けていたことが証拠によって明らかになってきた。
 
#多くのサイエンティストは、これまでにSTAP細胞が作られたことがないと言うことに確信を持っている。それは追試ができていないと言うことだけでなく、公開されているDNAデータ、若山ラボのSTAP幹細胞とされるものの解析などから存在の証拠を見いだせないからだ。STAP細胞とされてきたものがES細胞であった証拠しかない。
#STAP細胞とは、空想上の産物であり、捏造であったらしい。しかし、幽霊が存在することの証明は幽霊を捕まえれば可能だが、幽霊が存在しないことは、宇宙の全てについてあらゆる方法(人智の及ばない方法も含む)で調査しない限り証明することが困難であるのと同様に、STAP細胞が存在しないことの証明は論理上不可能だ。ただ、実際に作られたことを示すものは何もない。これまでの実験で得たはずの存在の証拠は新たに提出されていない。


#実験に不備があって、証明がうまくいっていないとかが普通突っ込まれる部分だ。その部分を修正しながらより真に迫るのが科学だ。不正に捏造されたデータで論文を作るなんて、単なる詐欺だと明言すべきだろう。しかし、論理的にはSTAP細胞が存在しないことを証明できないし、小保方氏が若山教授に偽STAP細胞で研究の証明をさせていたことで、若山氏への責任転嫁を可能にしている。不正を認めなければ言い逃れし続けることができていた。
#小保方氏が実際に作れば証明できるのではあるが、これまでに作られたとされるものがすべて捏造であった以上、作れるはずもない。ただ、作れない言い訳はいくらでもあげられるので、作れなかったとしても、本当に過去においてSTAP細胞が作成されていないという証明にはならない。その点で時間と費用の無駄でしかない。
#科学的には完全にアウトな状況ながら、なお小保方氏続投を支持する者がいる(しかも、文科相や理研理事長など)。それを許す論理的に仕込まれたトリックや政治的背景など、とても一研究者の不正では扱いきれないのが今回の事件だ(たとえば、ここを参照)。この件は、組織や会社、株式のインサイダー取引含めた大きな詐欺事件であると言えよう。

#「リケジョ」などと言って中身も吟味せずにマスコミを鵜呑みにして持ち上げ、今なお陰謀論にとらわれたり、自分が盲信していたことをとぼける「自分で考えるだけの能力のない人」が指導的立場にいたりするのでぞっとする。



 8月号は6/25発売。私は定期購読をしているので若干早く届く見込み。

 以下は記事の一部抜粋。


日経サイエンス  2014年8月号

STAP細胞の正体
古田彩(編集部) 詫摩雅子(科学ライター)


 STAP細胞とは何だったのか。

 理研統合生命医科学研究センターの遠藤高帆上級研究員による公開の遺伝子配列データの再解析と,共著者の若山照彦山梨大学教授が第三者機関に委託して行ったSTAP幹細胞の調査結果は,STAP論文における研究不正が,理研が不正認定した2項目をはるかに超え,研究全体に及ぶことを示している。

 論文で「STAP細胞」と呼ばれている細胞は,どれも同じ細胞ではない。少なくとも3種類あり,実験ごとに異なる細胞が使われている。遺伝子解析に使われたのはうち2つ。1つは染色体異常が生じた多能性幹細胞で,ES細胞(胚性幹細胞)とみられる。もう1つは多能性のない普通の細胞で,酸に浸けたマウスの脾臓細胞だと推定される。STAP幹細胞の元になり,キメラマウスを作製したSTAP細胞は,ES細胞の立体培養だった可能性が高い。STAP細胞を培養して作ったとされる「FI幹細胞」のうち,遺伝子解析実験に用いたものは,ES細胞とTS細胞(栄養膜幹細胞)の混合物とみられる。

 論文に掲載された「STAP幹細胞」10株は,すべて途中ですり替わっている。STAP幹細胞は若山氏が小保方氏にマウスを渡し,小保方氏がSTAP細胞を作って,若山氏がこれを培養してSTAP幹細胞にした。2株は若山氏が渡したのとは別の系統のマウスの細胞で,その遺伝子的な特徴は,若山氏自身が作ったES細胞に一致する。残る8株は若山研にはなかったマウスの細胞で,出所は不明である。

 論文で作ったとされた「STAP細胞」「FI幹細胞」「STAP幹細胞」はどれも,少なくとも一部は既存の幹細胞や,その混合物だったとみられる。

 以上の構図がどのようにして浮かび上がってきたのか。遠藤氏らの遺伝子解析結果についての理研の内部資料と,若山氏の調査結果の詳細を解説する。

著者
古田彩(ふるた・あや) / 詫摩雅子(たくま・まさこ)
古田は本誌編集部記者。詫摩は日本経済新聞社科学技術部,日経サイエンス編集部を経て,2011年より科学館に勤務。



注1
 この雑誌はサイエンティフィック アメリカンという雑誌の日本語版という建前で、翻訳記事と、日本人ライターによる記事で構成されている。かなり専門性の高い記事が多い。しかしながら、専門誌ではなく一般紙というカテゴリーに入れられている。日本ではニュートンは生き残っているが理科離れと言われた時期にOMNIやQuarkなどいくつもの総合科学雑誌が廃刊となり、すっかり科学雑誌が減ってしまった。その状況を憂えた一部の人々によってRikaTanのような子ども向け雑誌が出たりもしている。しかし、サイエンティフィックアメリカンのような、一般市民向けのある程度レベルの高い純日本産の総合科学雑誌は存在しない。アメリカの奥深さを思い知る。

注2
 STAP細胞発表時には、日経サイエンスもこれを大きく取り上げた。しかし、まもなく実験内容自体に捏造が疑われるようになり、STAP細胞について精力的に取り上げてきた。まさに科学に対する裏切りへの憤りなのだろう(一度だまされた形であるだけに、余計に)。
Posted at 2014/06/21 15:17:54 | コメント(0) | トラックバック(0) | サイエンス | 日記
2014年05月24日 イイね!

四倍体の馬

昔々大学生の頃、教育用ソフト製作のお手伝いをするアルバイトをやっていたことがある。当時の文部省の予算で製作されていた『ハイパー・サイエンスキューブ』と言うもので、アップル・マッキントッシュのハイパーカード上で動くアプリケーションソフトであった。その後、それが市販された様子はなく、あくまでも実験的な試みであったようだ。それはサイエンスに関わる様々な情報を引き出せる百科事典のようなソフトで、資料同士が相互にハイパーリンクでつながり、レーザーディスクの動画資料を再生するなど、当時としては最先端のマルチメディアを生かしたものであった。

 自分は、たまたま取っていた講義の助教授がそのソフト製作の監修をしており(ググったら、当人が概要を解説している物が見つかった)、アイディア出しをしたり、紹介で制作をしている某レコードレーベルにてそのソフト製作に関わるちょっとしたアルバイトをしていたのだった。

 その時、プログラマー氏から、『四倍体の馬の話を入れたいが、どう思うか』と訊かれた。
 なにかの本の引用で、『四倍体の馬を作ったのだが、目論見通り体が通常の2倍となったものの、体重は8倍で重くなりすぎた自重を支えられなくなり立っていることができず、さらに自分の体内で発生する熱を皮膚から放熱することができず、常にホースで水をかけ続けなくてはならなくなっていたそうだ。バランスの例、体積と表面積の増え方の違いの例としていいと思うのだがどうか』と言う。
 長さLに対して面積はLの2乗、体積はLの3乗になるから、体長が2倍になれば表面積は4倍、体積は8倍になるが、体積の大きな増加に対して面積の増加は小さいので体積の増加に追いつかないという話だ。
 自分は、馬はもちろんホ乳類で四倍体を作ったという話自体が聞いたことがなく、本当に行われた実験なのかどうか極めてあやしく思い、また恒温動物は熱が発生してしまうのではなくあえて熱を生産しているのだから、体積の増加に面積が追いつかないからと言って皮膚から放熱できずに死んでしまうというのがあまりに不自然に思われたので、ほとんど直感的に否定したのだった。
 自分としては「恒温動物においては、同じ種でも寒冷な地域に生息するものほど体重が大きく、近縁な種間では大型の種ほど寒冷な地域に生息する」という適応に関するベルクマンの法則や、それに近いアレンの法則を載せるだけにした。

 **

 助教授にはアイディアを出すことを求められていたのだが、実際の現場では雑用だけを求められていて、そのあたりを了解していなかった自分は、雑用係のくせにヘンに口を出すヤツとして嫌われてしまった部分がある。自分がアイディア出し後に誘った、ただ言われたことだけをやって、後はマックで遊んでいるだけの友人はえらく可愛がられていた。

 それはともかく、この件はその後もずっと気になっていた。4倍体の馬というのは一体何だったのか。

 当時でも植物では四倍体、六倍体と言った染色体のセット(ゲノム)が通常の2セット(二倍体)の整数倍になっている植物がいることは知っていたし、ミツバチの雄が半数体とか、人工的に三倍体の生物を作り種なしスイカを作るとか、体の大きなニジマスを産みだしていることも知っていた。
 ただ、ホ乳類の四倍体というのは聞いたことがない。ヒトでは性染色体の異数性(ターナー症、クラインフェルター症など)はあるが、常染色体の異数性をもつと重度の奇形を起こすことも知っていた。4倍体のホ乳類が作れるとは思いにくかった。
 植物では倍数体において植物体そのものが大きくなることが多いが、魚の三倍体は性成熟が起こらず、性成熟のエネルギーが成長に振り向けられたり1年で寿命を迎えないため大きく育つとも聞いていた。染色体数が2倍なら体が2倍というのもあまりにもできすぎた話に思えた。
 更に、生物は機械と違って熱が発生してしまうのではなく必要なだけ熱を作り出しているのだから、体長が2倍になると体積が8倍になっても表面積は4倍にしかならないからと言って、自分が発する熱で死んでしまうというのも不自然に思われた。体のしくみの適応もあるだろうが、東京の動物園のホッキョクグマは、自分の体温で熱死してはいない。

 科学的根拠があやふやなものを載せるわけにはいかないので、その判断は正しかったと思っていた。

 しかし、そもそも一体この話の出典はなんだったのだろうかと気になっていた。弱冠二十歳の自分の判断は正しかったのかどうかも含め。

 **

 随分前にふと思い出して「四倍体の馬」で検索してみた。
 すると、なんと出典は文化人類学者グレゴリー・ベイトソンの『精神と自然 -生きた世界の認識論Chap.2 学校の生徒でもみんな知ってること』であるらしいことが分かった。この本の中に、ノーベル賞を取った博士が4倍体の馬を作った話が出てくるのだ(末尾にネットにあったものを引用)。
 ここに出てくる博士がいるエレホン国は架空の国で、遺伝学者P・U・ポシフ博士も架空の人物。イギリスの作家であるサミュエル・バトラーの『エレホン』という小説と関係があるかも知れない。ここでのエレホンというのは小説に出てくる理想郷のことで、英単語「Nowhere(どこでもない)」のアナグラムであるという。


 プログラマー氏が提案してきたのは、詰まるところ科学的根拠のある話ではなく、長さ2倍の時、面積は4倍、体積は8倍になるということを単純に空想上の「四倍体の馬」に当てはめた寓話に過ぎなかったようなのだ。話の中では全てが単純にサイズアップされているが、生物の体は個体サイズが大きくなったからと言って細胞のサイズもそのまま大きいわけではない。四倍体で細胞自体の大きさが2倍になったら細胞自体の活動に支障が生じるだろう。血管も要求シグナルに従って伸びたり増えたりする。単純に長さ2倍、面積4倍、体積8倍を当てはめることはできないだろう。

 サイエンスを標榜するからには、実例であるかのように空想話を入れるわけにはいかない。モデルを紹介するのとは違う。
 当時の自分の判断はやはり正しかったのだと思う。

 まあ、おそらく単なる教育用マルチメディアのデモソフトでしかなかったので、多少おかしなことがあっても問題化することもなかったのかも知れないが。

 **

 後に、サイエンスとして成り立っていない、陰謀論に組みしがちな某作家氏が紹介している、内容も根拠も意味不明で、ただ放射性物質への恐怖を煽るだけのでたらめな記事を、生物濃縮の例として中学生に配ろうとした理科教員がおり、全力で反対した。ところがこの教員は職員室で『そんな細かいことは大学でやれ。中学生はこれでいいんだ。俺は雑誌を信じる。』とこちらを非難し大騒ぎしたあげく強引に配布されてしまった。その他にも間違いや独自の造語だらけの原発や放射線についての解説がなされていた。
 自分もその教材を配らされたが、やむを得ず、いかにサイエンスとして成立していないかを説明し、雑誌のあおり記事を鵜呑みにすることの弊害を説く材料にした。

 現場の理科教員は、正しいサイエンスの知識と考え方を伝え、自分で取捨選択できる人間を育てなければならない。

 

**以下引用**

「4倍体の馬のはなし」

 「一九八〇年代後半、荷物運搬用の馬のDNAを遺伝子操作したエレホン国の偉大な遺伝学者P・U・ポシフ博士にノーベル賞が授与された。受賞の理由は、当時「新しい科学」として脚光を浴びていた「移送学」に多大な貢献をしたというものだった。なにはともあれ彼は、普通のクライデスデール種の馬の2倍のサイズの馬を「創造」(神の領域にふみこんでいったこの応用科学を語るのにこれほどふさわしい言葉はないだろう)することに成功したのである。
 体長も、背丈も、横幅も、すぺて2倍というこの馬は「4倍体」、つまり染色体の数が通常の4倍ある馬(ブログ主注 通常は2倍体なので、4倍体は通常の2倍の染色体数を持つ)だった。ポシフ博士はいつもこう弁明していた。「仔馬のときはちゃんと4本の脚で立っていたのですが」。それはさぞかし見事な姿だったことだろうが、少なくとも近代文明の粋を集めた情報伝達装置に記録され、一般公開されたときには、あの馬は立てなくなっていた。体があまり重すぎたのである。なにしろふつうのクライデスデール種の8倍の体重があった。
 見物客や報道陣に見せるときには「ホースの水を止めてください」というのがポシフ博士の指令だった。哺乳動物としての正常な体温に保っておくために、普段は四六時中、体中に冷却水を流していたのだが、いまにも体の中心からステーキになっていくのではないかと、見ている方は気が気ではなかった。この哀れな馬は、皮膚と皮下脂肪との厚さが通常の二倍あった。これでは表面積が四倍あるといっても、まともには冷えてくれない。毎朝、この馬は、小さなクレーンの助けを借りて立ち上がり、車のついた箱の中に吊るされたバネにかけられる。バネは足にかかる体重が半分になるように調整されている。
 体を冷やすためにも、八倍もの体に酸素を補給するためにも、いつもハァハァ喘いでいなけれぱならなかった。気管の断面積はふつうの四倍しかなかったからである。それから食生活が間題だった。毎日、ふつうの馬の八倍の量のエサを、四倍の広さの食道に押し込まなくてはならたい(ブログ主注 原文ママ)。血管も相対的に細くなっているから、血液循環の抵抗も増す。心臓も大きな負荷に耐えねばならない。聞くも哀れな馬の物語……
 この寓話が示しているのは、二つ以上の変数がちぐはぐに増減したらどんな結末が待っているかということである。四倍体の馬の不幸は、体長と表面積と体積とのバランスが崩れてしまったことにある。
 この種のケースで今日、最も有名なのは、原子爆弾中の核分裂物質のふるまいだろう。ウラニウムは天然に産出され、自然状態でも常に核分裂を続けているが、反応の連鎖が確立されないために爆発とはならない。各原子の崩壊時に放出される中性子が別の原子に当たって二次分裂を起こしても、ウラニウムの塊が臨界値より小さいときは、一回の分裂で出る中性子のうち、二次分裂を起こすものの数が平均一個以下であるために、連鎖はいずれ尻切れとなる。塊を大きくすれぼ、二次分裂を起こす中性子の割合も増加し、臨界点から先では、分裂プロセスが末広がりの累乗的増大を示し、爆発となる。」(グレゴリー・ベイトソン「学校の生徒でもみんな知ってること」より)


イノレコモンズのふた。
▼文化人類学解放講座 グレゴリー・ベイトソンの「4倍体の馬のはなし」
http://illcomm.exblog.jp/16306259/

より引用

Posted at 2014/05/24 14:40:14 | コメント(0) | トラックバック(0) | サイエンス | 日記

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