また例によってKEK野尻先生ら物理クラスタがずばずば切っている話。
Togetterにまとまっているネタばかりで申し訳ないけれど、一応紹介。
Spa!という週刊誌に出ている記事は以下で、飯舘村で大量のプルトニウムが見つかったとするもの。
http://nikkan-spa.jp/56272より引用
飯舘村で大量のプルトニウムを検出
2011.09.12
「半減期2万4065年と言われるプルトニウムが、現在計画的避難区域に指定されている福島県の飯舘村に大量に見つかったというのだ。」
「放射線測定を専門とする大学研究者に直接聞いたのですが、プルトニウムが核変する前のネプツニウムという核種が、少なくとも飯舘村や伊達市まで大量に飛んでいたそうです。」
「環境解析化学を専攻する、仮にここでは「A先生」とするが、このA先生の講義を受けて、「飯舘村にネプツニウム239という核種が大量にある」という、まだ世に出ていない論文の存在を知ったとのこと。」
「かなりの確率で飯舘村において取り返しのつかないほど深刻な汚染が進んでいるという意味にほかならない。しかも、このネプツニウムは飯舘村に何千ベクレル/Kgという量で存在するという……。」
取材・文/おしどり(♀マコリーヌ) 取材/おしどり(♂ケン)
これに対する野尻先生のツイートは、
いずれにしても Np239 は半減期2日で Pu 239は半減期 2万年なので、もとが 何千Bq あってもPu にすると 0.001 Bq order とかかと思いますので、ご心配なく。
Togetterに解説もあるが、かいつまむと……
ネプツニウム239はわずか半減期2日でプルトニウム239に変わる。原発事故直後にはあったが、今はもうほぼ存在しない。
プルトニウム239の半減期は2万4065年であるが、問題はどれだけプルトニウム239が崩壊して放射線を出すかだ。
ネプツリウム239は半減期が短いので、短い間に大量の放射線を出す。ネプツニウム239原子がわずかにあっても何千ベクレル/kgという放射線が出ることになる。
ここで、ベクレルという単位を復習すると、1ベクレルは1秒あたり1つの原子が崩壊して放射線を出す事を意味する。
ネプツリウム239による放射線が数千ベクレル/kgであれば、1kgあたりで1秒間に数千個のネプツリウム239原子が崩壊してプルトニウム239に変わっていくことを示す。
一方プルトニウム239に変わると、崩壊するのにものすごく時間がかかるようになる。何しろ半分になるのに2万4065年であるから、ほとんど崩壊が起こらない。
ベクレルは1秒あたりの崩壊数であるから、ネプツリウム239の時に数千ベクレル/kgであっても、プルトニウム239になってしまえばほとんど崩壊しないので0.001ベクレル/kg単位にしかならない。

一時期ネプツリウム239がさかんに放射線を出していても、プルトニウム239になってしまえばもう見つけられないほどしか放射線を出さなくなると言うことだ。
大切なのは、ネプツリウム239がばんばん崩壊しているからと言って、それは大量のネプツリウムが存在するわけではないと言うことだ。
たとえば、高校の化学でやったように、炭素原子が12gあるとき、そのなかには
600000000000000000000000個(アボガドロ定数個)
の炭素原子が存在する。1個の原子というのはきわめて軽いのだ。
1kgあたりで1秒間に1000個のネプツリウム239原子が崩壊するとすると、約2日で半分になるのだから、2日間に172800000個の原子が崩壊することになる。ネプツリウム239原子は239gで6.0×10の23乗個だから、質量では0.00000000000068832gである。この2倍が1kg中のネプツリウムの量。同じ量が生じるプルトニウム239の量になる。
ネプツリウム239がいくらかあって数千ベクレル/kg放射線を出していたとしても、放射線を出しているから目立つだけで量としては多いわけではない。元々そう多くないのでプルトニウム239になってしまえばほとんど放射線を出さず見つけることが困難になってしまう。
これを逆に利用して、検出が難しい微量のプルトニウムをみつけるために、プルトニウムになる前のネプツリウム239を見つけようというアイディアがある。ネプツリウム239ならごく短期間とはいえ大量の放射線を出しているのでこれを手がかりにしてプルトニウムの存在がわかる。どうもこの話が大元であるらしい。
ざっとこんな話。
Spa!の記事は、原子の数の話と、原子が崩壊することで出る放射線の量の話を混同してしまっているわけだ。ネプツリウムが大量に放射線を出しているのだから大量に存在して、それがプルトニウムに変わっても同じだけ放射線を出すに違いないと思い込んでいる。プルトニウム239が数千ベクレル/kgならそれこそ大量に存在することになってしまうが……。
この話はすでに1ヶ月前に話題になっていたとのことで、例によって同じネタが繰り返されている。
大手の雑誌にこんな記事が出るとまた騒ぎになるとの懸念がTwitterでなされているが、ほんと心配だ。
Posted at 2011/09/13 00:49:59 | |
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