我が家はNTT フレッツ光 マンション LANタイプを引いている。100Mbps回線で、以前は最高でも80Mbps、平均的には60Mbps程度であったが、最近では上位の速度が上がって90Mbps台である。
この回線はギガビット回線が引かれるようになってきた今となってはトップクラスとは言えないが、安定している。現実にはPCなどが300Mbps程度までしか転送能力がなく、送出側もギガビット回線を使いきるような速度を出せるものがほとんど存在しないので、100Mbps程度で充分なのである。
この回線は、当マンションのいくつかある回線方式の中では圧倒的に速い最速のサービスである。他はVDSL100Mbpsのサービスだが、条件のよいところでも下り50Mbpsがやっとだろう。上りはもっと遅い。
この頃はマンションに光ファイバーを引くサービスがあるが、当マンションでは構造上導入は厳しく、当面最速のサービスであり続けるだろう。もしNTTがLANタイプで1Gbps化をすれば光ファイバーを使ったサービスと同等の速度になる。
この回線をマンションに引くにあたっては様々な紆余曲折があり、大変な苦労があったのだ。
■高速回線敷設前夜 ~先進ハイテク地区なのにこの速度???~
元々当地区(幕張ベイタウン)はNTTが推し進めていたデジタル通信網ISDNが整備された地域であった。最初からハイテクが整備された街であるはずだった。しかし、逆にこれが足カセになっていたのだ。
ISDNは光ファイバーを使ったデジタル通信網であるが64kbpsの仕様で、アナログ回線では音声域を使ったアナログモデムで56kbpsしかでないのに比べれば速いが、メガ単位の速度を要求するインターネット時代にはまったく対応できない「過去の遺産」だったのだ。
そのころアナログメタル回線を使ったより高速なADSLが導入されはじめたが、不幸にして同地区には光ファイバーが敷設されているのみでアナログメタル回線がなく、ADSLを使用できなかったのである。中途半端なハイテクを整備したために、ローテク設備の余裕域を使って高速通信する手法が使えず、インターネット回線の高速化に取り残された、離れ小島状態になってしまったのだ。
駅前でYahoo! BBのADSLモデムをもらってきても、当地区では使いようがなかったのだ。
1999年頃の話である。
(とはいうものの、実際には予備回線としてアナログメタル回線も引かれており、後にはそうしたものが徐々に開放されるようになったのだが。そうした予備回線が不足するとアナログメタル回線を引き直したようだ。しかしそれはあくまで後の話。)
一方、IBM、CANON、富士通、シャープまで地元に存在するハイテク地区なのに64kbpsまでしか使えないというばかげた仕様に業を煮やし、各マンションに高速回線を引こうという動きが出てきた。住民有志で勉強会を始め、回線方式と業者の選定をはじめたのである。
当マンションでは自治会の私が先頭に立つ形で管理組合の担当者を含め有志で検討会を開始した。外観上の問題や将来性を考え無線方式と電話線流用方式は全て却下。イーサネット方式を理想とした。
マンションにインターネット回線を引く業者はいくつかではじめたが、イーサネット配線をあとから敷設しようという業者はほとんどなく、そんな中
ニューラルネットという業者が紹介された。
■ニューラルネットの導入へ
ニューラルネットはベンチャー企業であるが、既にいくつかのマンションでイーサネット配線を敷設しサービスを行っていた実績があった。マンションにイーサネット敷設をうたう業者は当時他になく、管理組合の金銭負担がなく導入できることをうたい文句にしていたのも、導入のハードルを下げていた。
事実上唯一の選択肢であったため、これにまとまっていった。
自治会主導で住民アンケートを実施し、多くの希望があることも確認された。管理組合も導入調査にOKを出し、具体的な敷設の検討が始まった。
しかし、イーサネットの敷設はかなり難しいものであった。
マンションの住戸内部を作る際、宅内の配線類は配管の中を通して配線することが多いが、当マンションは配線を裸のまま躯体からぶら下げて配線するいわゆる「コロガシ」配線だった。配管があれば配管の中に通線用のワイヤーを入れることであとからも通線出来るが、コロガシではあとから新たに通線することが難しい。
苦肉の策として、複数の電話回線導入を可能にするため8芯の電話線が複数配線されたいたことを利用し、これをイーサネットに流用しようとしたのである。
100BASE-TXだの1000BASE-TXだのは、エラーなく配線を100m伸ばすことを保証した規格で、マンション住戸内は10~40mがいいところである。Cat5/Cat5eのケーブルを使わなくても距離が短ければ、よほどのノイズ源がないかぎり通常問題ない。
実際1000BASE-TXとして8芯電話用メタル線を使ってみたが、全く問題がなかった。
やむを得ない方法ではあるが、電話線流用で住戸内に引き込み、短い間隔でハブをおいて信号整形することでしのぐことになった。
手間をかければケーブルテレビ引き込み配管などを使ってCAT5eを住戸内に引き込むことも可能だったが、その先をを引き回すことができなかった。新築なので見えるところに配線をぶら下げるたり壁に穴を空けて通す訳にもいかず、モールでつつむのもみっともない。壁の中に収めるには他に選択肢がなかったのだ。
もっとも、自分の住戸についてはケーブル配管からCat5eを引き込み、住戸内もダウンライトなどの穴を使って天井にケーブルを通線し、壁のすき間に落として壁のコンセント部分にLANコネクタを増設することで家庭内LANを構築したのだが。同じ事を業者にやらせたら各戸ごとの対応になり、10万円を超えるような請求をされるだろう。
■サービスインにこぎ着ける
管理組合が正式にGOサインを出し、導入工事が始まったのである。しかし……。
通常なら導入は管理組合が行い、全戸一斉導入となる。ところが当時の管理組合理事会が日和見をし、次のような条件をつけたのである。
・回線導入はあくまで個人毎の契約とし自己責任とする。管理組合は工事の許諾は行うが斡旋等は行わない。
・複数業者が入ることで競争がうながされ、費用が安くなることが見込まれるため、単一業者のみの導入は行わない。
ニューラルネットはあくまで配線管理組合毎に導入することを想定しており、一方で導入諸費用を加入費としていた。加入者負担とすることで導入を希望しない住戸があったとしても総会決議を得られるよう配慮した提案になっていた。これを逆手にとって希望者のみ加入する形にし、管理組合が導入する形を避けたのだ。
この判断は後々まで禍根を残した。
他の多くのマンションの事例では、管理組合理事会が先頭に立ち、マンションの資産価値の向上のために奮戦してインタ-ネット回線が導入されたのである。それを全て住民個人に責任を負わせるとは、何という違いか。
だいたい、多くの業者は全国規模で事業を行っているので、一つのマンション内で競合が起きたところで直接価格競争をするわけがない。まったくとんちんかんな判断である。
この判断のためにイーサネット回線は全住戸の1/3程度のみ敷設されることとなった。2000年当時のインターネットの普及率を考えればそんなものだろう。シニア世帯まで普通にインターネットを使うようになるとは思っていなかった時代である。
この事業の窓口は自治会有志のみで担当せざるを得なくなった。当時の管理組合理事会は、自分たちが責任をかぶらないために、なんの権限も持たない住民有志に責任をかぶせたのである。
これがのちのちまで足かせとなり、たまたま導入時に担がれた自分がたった一人で長く辛い戦いを強いられる結果となったのだ。
なんとか各住戸内の工事も終わり、NTTの128kbps専用線回線を使ってサービスインしたのが2001年である。
■ニューラルネットがソフトバンク傘下に。そして、まさかのサービス終了へ……
128kbps専用線回線2本を100戸程度で共有する形であったが、マンションの全棟の入居が終了して加入戸数が増えたこと、専用線回線がNTT以外の業者により安く提供されるようになったことなどから2002年には100Mbps化が実現した。
上位回線や接続サーバーが遅く共有戸数が多いため実効速度は期待ほどは上がらなかったが、サービスは向上していった。
そうこうするうちに、何と、ニューラルネットがソフトバンクに買収されたのである。
不安定なベンチャーよりは大きな会社が運営する方が安定感が増すしサービスの向上があるのではないかと期待する声が強かったのであるが、私はその意見に組みはできなかった。なにしろソフトバンクである。信用できなかった。
悪い予感は的中し、当マンションのイーサネット配線の品質がサービスの質を保証できないものであるとして、イーサネットサービスの撤退を宣言したのである。
代替として、VDSL52Mbpsのサービスを導入するというのだが、大きな工事費を出し、速度が安定して速いイーサネットを導入した住民としては一方的な判断に収まりがつかない。
VDSLになれば邪魔なモデムを居間に置かなくてはならなくなるし、これまでにつくった家庭内LANも作り変えねばならない。おまけに速度は遅くなる。何もいいことがない。
交渉を繰り返し、サービスの無料期間をつくることで一応の収束を得たのであるが。
ソフトバンクからきた当時の社長は「光ファイバーの結合には高度な技術を持つ技術者を導入し、今後より高速な技術を導入し、最大限のサービスを行う」となどと言っていたが、そもそも将来のデモンストレーションに使っていた資料は海外での4芯電話メタルケーブルを使ったVDSLで日本では導入できないものでハッタリに過ぎない。その後新技術を導入することもなく、200を超える加入者がたった一本の100Mbps回線を共有するため回線速度は低下し続け、NTTが16戸に1本の100Mbps回線を引く 100MbpsVDSLを導入し、USENも100Mbps化する中、規格上も実効速度でも最低速のサービスとなったのである。
一方、イーサネットサービス廃止が宣言された時から一部有志が集まり、イーサネットのサービスを再開する方法を模索をはじめたのである。
これが実に難儀なことであった。
続きはまた後ほど。