子どもへの年間20ミリシーベルト強要-全米5万人の医療関係者が批判の声明
学校の使用基準について、年間20ミリシーベルト相当までは特に問題はない、「校庭の除染は必要ない」とする文部省の姿勢に対して国内外から様々な批判が巻き起こっています。
4月29日には全米5万人の医療関係者からなる、PSR(Phsicians for Social
Responsability:社会的責任を果たすための医師団)が声明を発表しました。
その中では、子どもは大人より放射線の影響を受けやすく、このレベルが2年間続けば発がんのリスクは100人に1人となる、このレベルの被ばくは安全とみなすことはまったくできない、と厳しく批判しています。
PSRは1985年にノーベル平和賞を受賞した権威ある団体です。この声明は大変重要な意味を持ちますので全文の邦訳を紹介します。
福島県内の子供達への電離放射線許容線量の増加に関するPSR(社会的責任を果たす為の医師団)による声明
2011年4月29日
放射線に安全なレベルは存在しない、という事は、米国国立アカデミーの全米研究評議会報告書『電離放射線の生物学的影響VII』(BEIR VII報告書、http://www.nap.edu/openbook.php?isbn=030909156X )
において結論づけられ、医学・科学界において広く合意が得られています。
自然放射線を含めた被曝は、いかなる量であっても発がんリスクを高めます。さらに、放射線にさらされる全ての人々が、同じように影響を受けるのではありません。例えば、子供達は、大人より放射線の影響を大変受けやすく、胎児はさらに脆弱です。
このため、子供達への放射線許容量を20ミリシーベルト(20mSv)へと引き上げるのは、法外なことです。なぜなら、20ミリシーベルトは、成人の発がんリスクを500人に1人、さらに子供達の発がんリスクを200人に1人、増加させるからです。また、このレベルでの被曝が2年間続く場合、子供へのリスクは100人に1人となるのです。
つまり、このレベルでの被曝を子供達にとって「安全」と見なすことはまったくできません。
[仮訳:Foe Japan / グリーン・アクション]
* *文科省の想定20mSv(3.8μSv/h)はどれほど危険なのだろうか。
文科省の想定は子供の生活24時間のうち
・8時間屋外で活動→3.8μSv/時
・16時間屋内→1.52μSv/時
トータルで20mSvとなる想定だ。
8時間を屋外で過ごすのは、緊急時としては奔放すぎるので、なるべく屋内にいさせたとすると、学校の行き帰りと学校での休み時間、体育の時間をあわせて3時間ぐらいを考えればよいか。あとは屋内にいたとするとトータルの外部被曝量は約16mSvとなる。
気を使って生活をしても16mSvである。まだ平時の許容量1mSvからすると安心できる水準ではない。
しかも屋内被曝線量の想定は屋外の40%で、木造家屋ではせいぜい10%しか低減できないので、空間線量が3.8μSv/時では、鉄筋コンクリート造の校舎にいる間はともかく生活環境によっては20mSvを超えてもおかしくない。
やはり20mSvが高いと考えられる上にそこから3.8μSv/時を想定するのは問題があろう。
しかし、20mSv(屋外3.8μSv/時)に達する地域は限られている。福島全域がそうであるかのような錯覚はもつべきではない。実データをもとに考えるべきだ。
そもそも20mSv(屋外3.8μSv/時)がどれほど危険かというと、これについては難しいものがある。
強い放射線量では明確に出る影響も、100mSv未満の弱い放射線量では数字の上で他の原因と区別して明確に影響を示せるほどのデータはない。統計上ごく小さな影響であれば無視できるという考えもある。弱い放射線については影響をうけても修復する機能を持つこともある。しかし、よくわからない影響はあるとしておいた方が安全である。
このため、分からないことについては安全をとって強い放射線領域の影響をそのまま弱い放射線量に当てはめて考えることにしている。それがICRP勧告の1mSv(公衆の人工放射線許容線量)である。
それゆえ20mSvでも影響が出る可能性はあると言えるし、それでも影響は小さいと言うこともできる。しかしながら、細胞分裂が盛んな成長期の子供は放射線の影響が出やすく、より安全側に考える必要がある。
一方、非常に厳しい基準を定めて広い地域で学校の運用を停止したり疎開をさせるとなればそのコストは莫大になる。政治的には社会的な影響(政府への信頼含め)のコストとリスクを天秤にかけて妥当とするところを見つけなければならない。
現実問題、空間線量を1mSvに設定すれば東京周辺でもかなりの地域があてはまる可能性があり、その影響度の小ささ(統計上影響が見いだせないと考えられるごく小さいガン死率)を考えれば現実的ではない。
(変な話だが、震災でJTの生産拠点が影響を受け、タバコの販売量が落ち込んでいる。喫煙によるガン死率は一般の1.7倍もあり、このため喫煙者のガン死率や副流煙によるガン死率が減り、日本全国の多くの地域で全体のガン死率が少なくなる可能性すらある)
20mSvはICRP勧告の緊急時許容線量(20~100mSv)の下限であり、この値を当面の上限として採用したのも理解はできる。
大きな都市を避難させる社会的なコストと統計的な影響を勘案すれば20mSvは妥当なレベルと考えたはずだ。コストは本来東電なり、原子力政策を進め安全を確保しなければならなかった国が支払うべきコストであるが、結局は東電が支払えない部分は国民負担でもある。やたら増大させるわけにも行かないという判断はあってしかるべきだ。
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そもそも、統計的考え方は個別の事情を考慮しない。
統計の考え方は集団の中のガン死率であって、個別にガンが発症するか(死亡するか)どうかは運により、その確率がどの程度高くなるかという問題になる。
個別のことをを考えれば、放射線に対する感受性は年齢によって違うだけでなく、個人個人によっても違う。日焼けのしやすさや紫外線の影響に違いがあるような個人差がある。人によってはかなり影響を受けやすいこともあれば、影響を受けにくいこともある。
先端的な医療では個別に放射線への影響の強さを調べ医療に活かすような研究も行われているが、現状個人個人が調べられることではない。
集団として扱わなければならない政府ができる対応には自ずと限界がある。ならば、放射線のリスクを高く見積もるならば個人の責任で対応しておいた方がいい。
少ないとしても影響はないとは言えない。ならば、たとえば5mSvを上限として考え、そのまま屋内においても被爆が起こると想定して考えると、0.6μSv/hを常時上回るなら個人レベルの対応で、子供を疎開させるぐらいで考えてもいいのではないか。
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ちなみに、こんな報道もあるが、ほんとうだろうか。
(産経ニュースより引用)
20ミリシーベルト基準問題 首相見直しを拒否「国としての考え方がある」
2011.5.3 00:44
菅直人首相は2日、福島県の内堀雅雄副知事と首相官邸で会談し、文部科学省が定めた「年間被曝(ひばく)線量20ミリシーベルト以下」の校庭利用基準の見直しを拒否した。
内堀氏は「政府関係者でいろんな考え方があり、県民は非常に不安に思っている」と訴えたが、首相は「国としての考え方がある。きちっと県民や国民に伝える努力をしなければならない」と述べ、現行基準への理解を求めた。
ソースが産経ではひどく偏りがある(捏造や悪意のある編集もある)ので、他の記事はないかと思ったが、今のところ見当たらない。
見つかり次第アップ予定。