2011年5月23日参議院行政監視委員会における小出裕章氏(京大原子炉研究所助教)の発言をUstreamで聞いていて、内部被曝に関する発言に違和感を持った。
小出氏は反原発で活動してこられた方で、非常にプレゼン上手な反面、恣意的なデータの扱いや発言が多い様に感じている。脱原発の雰囲気の中で一躍時の人となった感があるが、少し注意して聞いた方がいいと思う。
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参議院での参考人証言中、次のような発言があった。
・3/15に東京の放射能測定を行った。
・1時間この空気を吸っただけで内部被曝換算は20μSvになる。
・内部被曝が外部被曝の10倍である。内部被曝の影響は大きい。
これには耳を疑った。なぜ今頃一時的上昇データを持ち出すのだろう。しかもいまはほとんど気にする必要のない吸入被曝を取り上げて。
3/15は放射性物質が北東の風によって運ばれ吹き抜けていった日で、濃度が高かったのは3時間程度。以降は21日に再度放射性物質が運ばれてきており、この時は雨によって降下したため、影響が長く残った。
(参考:日野市でのガイガーカウンター値)

(日野市でのガイガーカウンター値)
↑立ち上がりから平常近くに戻るまで3時間程度
小出氏は3/15のお昼頃、ピーク時間の1時間を測定(台東区で吸入しエアフィルターにかかったもの)している。
3/18の原子炉研のゼミでは、これを丸一日続いたとしたらと仮定して一日内部被曝が210μSvと言っていた。
http://www.youtube.com/watch?v=vfMg_QQ3NZA&feature=player_embedded
その時のビデオを見ると、状況がよくわかる。
測定結果が24時間続いたとして210μSv/日被曝する(しかも発表の前に計算し直し、配布したレジュメの値の4~5割大きくなっているらしい)。これはフィルターにかかった固体によるものだけで気体状のヨウ素を含めると6~7倍で1mSv/日内部被曝するとしている。しかし
「公表されている他のところのデータで3時間しか続いていない、フェアじゃない」とつっこまれ、「そのデータを見落としていた、この値(210μSv/日または1mSv/日)を8分の1として考えない」といけないと言い直している。
そんなこともあって「210μSvだが実際はその6~7倍で実際は1mSvを超える」は取り下げ、
「東京で1時間その空気を吸っていただけで20μSv。外部被曝の10倍」と言うようになったようだが、15日のほんの一時期にのみ起こったことであることを知らなければそれが継続しているかのように聞こえる。当然そういう印象を意図的に与えようとしているのだろう。
そもそも、1時間吸入して測定したと言うが、偶然ピーク時間のデータが取れたのだろうか。当然ガイガーカウンターぐらい持参しているはずで、ピークや線量の低下があったことは承知していたはずだ。
あえて東京が放射性物質の影響を受ける時を狙って測定にいき、ピークのみのデータをつかって、あたかもそれが継続しているかのように危機を訴える。違和感ありまくりである。
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また、参議院の証言では孫正義氏とともに「内部被曝の重要さ」を訴えていた。
政府は外部被曝に関係する空間線量だけでなく内部被曝の測定データを出せ、なぜ出さないのかと言う。
15日の測定値で内部被曝が本当に外部被曝の10倍になるかどうか私は計算していないが、放射性物質が漂っていた時の内部被曝の影響は勿論大きいだろう。しかし、妥当な指摘だろうか。
孫正義氏はよくわかっていない人だから仕方がないが、内部被曝は外部被曝から計算できる類のものではない。
放射性物質が空気中を漂っている状態なら、吸入量から内部被曝量を計算することはできる。
しかし、現在のようにほとんどが地面などに落ちた放射性物質によるものでは、呼吸によっては内部被曝はほとんど起こらない。あくまで吸入するのは漂っているときだけだ。
また、空間線量と違い長時間捕集し、分析機にかけるので簡単な計測器ですぐ測れる類のものではない。
さらに、内部被曝では食物や飲料水などからの取り入れも検討しなくてはならない。
もし呼吸によるものだけを問題にするのなら、大気浮遊微塵中の放射性物質を参照すればよい。
都内における大気浮遊塵中の核反応生成物の測定結果について
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/whats-new/measurement.html
(現状では空気中の放射性物質はかなり少なくなっていて、ほぼ測定限界以下になっている。)
孫正義氏はまるで情報隠しがあるかのようなことを言っているが、調べもせず陰謀論を言うのはやめて欲しい。自分で買ったガイガーカウンターで測定方法を間違い、ベータ線込みで測って政府発表の倍以上だから政府発表は信用できないようなことを言っていたこともあるし。はたまた自然放射線の高い西日本で測って「放射性物質の影響が西日本まで」と言っていたようだし。
小出氏も孫正義氏に尋ねられ「内部被曝は外部被曝の10倍」と述べた後、孫正義氏の「体内被曝が重要なのに、線量としてなぜを公表しないのか、何か意図があるのか分からない」という
陰謀論的発言に同意するような様子だった。内部被曝の実効線量を測定ベースでやっていくのはとても時間がかかり簡単ではないことを分かっているはずなのに。
内部被曝が重要なのは当然だしより多くのデータがあるべきだが、
現状で内部被曝が呼吸によってはほぼ起こらないことを知っていながら、しかもピークであった1時間のデータをそれと断らずに示し、それが続くかのように誤解させて、ことさら呼吸での内部被曝で危機を強調するのはフェアではない。
3/15の1時間の測定データを24時間にあてはめるような無理のある事をやったり、どうも小出氏は事実よりも目的優先のような、よくいる反原発派と同じロジックを感じる部分がある。
現場で徹底的に調査をしてデータを積み重ねている、同じ原子炉研の助教である今中哲二氏とは印象がかなり違う。
また、同じく証人として証言をした後藤政志氏の、虚飾を省いた技術者としての事実・ロジックベースの発言とも大幅に違う。
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小出氏の他での講演で、他の方の研究にある財務諸表ベースの発電コストを取り上げていた。原発コストは揚水発電コストと合算する必要があり、他と比べても最もハイコストであるという内容だったが、揚水発電は出力調整をしたくない火力でも必須なものであり、単純に原発のコストに乗せられないものである。
こうしたことは何度もつっこまれているはずであるが、他人の研究の引用であることもあるせいか内容をそのままにして原発をやめるべきとする根拠として使い続けているようだ。
今回の証言でも、燃料リサイクルに必須な高速増速炉もんじゅに多額の税金が使われながら実用化の目処が立っていないことを取り上げ、「日本の裁判制度では、1億円の詐欺で1年の実刑だ。1兆円なら10000年だ。責任のある人が100人だとする一人100年の実刑を科さなくてはならないことをやってきて結局誰も責任をとらないままだ」と、面白いたとえをする。しかし、詐欺額と量刑が比例しているわけではなく、一人当たり100年とか10000年という実刑判決が出されることもあり得ない。印象を与えるためにあり得ないたとえをするあたり小出氏のレトリックで、どうもサイエンティストとしては違和感を感じる。
話しのうまさ、データの見せ方のうまさの一方どうも恣意的なデータの扱い方が多く、印象操作をする傾向があり、彼の話はそのまま受け入れることはできない。
データ的に間違ってはいなくても、データの与え方一つで印象を操作することはできる。トンデモ商売の常套手段。
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2011年5月23日参議院行政監視委員会 中継(Ustream)
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http://www.ustream.tv/recorded/14906087
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http://www.ustream.tv/recorded/14907869