弁護士から車両時価額についての主張がきたので参考までに書いておこう。
車両の時価額と修理費では修理費の方が上回っている場合、対物賠償では時価額分を賠償することになっている。修理費が上回ればいわゆる「当てられ損」になってしまうので、旧車ユーザーにはゆゆしき問題である。
さて、その時価額だが、相手弁護士は
・10年を超えた自動車は新車価格の1割が原則
・中古車価格は市場調達価格であり、整備費・ディーラー利益などを含み時価額ではない
と主張した。10年を超えると1割というのは、税制上の減価償却後の残存価値のことである。
だが、最高裁判決では
時価とは、「損害発生のその場所・その時点における当該物件の取引価格。」をいい、「中古車の事故当時における取引価格(時価)は、原則として、これと同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価格」(最高裁判決、74年4月15日)
としていて、市場調達価格を車両の価値としている。
更に、上記の判決に含まれるが、様々な諸費用について
・買換差額
物理的または経済的全損、車体の本質的構造部分が客観的に重大な損傷を受けてその買換えをすることが社会通念上相当と認められる場合は、事故時の時価相当額と売却代金額の差額が認められる(最判昭和49 年4 月15 日交民7・2・275。赤い本167頁)。
・登録手数料関係費
買換のため必要となった登録、車庫証明、廃車の法定の手数料相当分及びディーラーの報酬分(登録手数料、車庫証明手数料、納車手数料、廃車手数料)のうち相当額並びに自動車取扱税については損害として認められる(赤い本1989 年版89 頁「買換え諸費用について」)。
と認めている。
また、相手弁護士は中古車価格には整備費や利益が含まれると主張しているが、中古車雑誌や中古車サイトに載っているものは車両本体価格(税込み)であり、当然利益は含まれているが整備費は含まれていない。
利益を含まない下取り価格は当然最高裁判決にある「中古市場において取得しうるに要する価格」ではあり得ない。
もちろん、自動車事故の損害賠償でなければ、賠償額として減価償却をもとに考えることもあるので全くの嘘ではない。ただ、自動車の場合はそれでは市場価格と大幅な乖離が起こるため、裁判所は市場価格の方を認めているわけである。
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このように、相手弁護士は、「素人だからごまかせる可能性がある」と一番低い基準で賠償を済まそうする。相手が素人でも裁判基準を知っていれば反論されるが、反論されて元々である。こうして保険会社の利益に貢献しようとするわけである。意図的なことだから「間違い」を指摘されても恥ずかしいなどと思うわけもない。
今更時価額についてこんな工作をしてくるとは思わなかった。さすがに保険会社でもやっていない(保険会社同士の示談交渉であるためもあるが)。今後ありとあらゆることについて「認められない」と言ってくるだろう。人身傷害保険を使わずに被害者が交渉を続ける場合はそのたびに反論しなくてはならない。
スマートにやればあっという間に終わることも、なんだかなんだと賠償金を引き下げる工作に終始する。
被害者の交通事故相談を行っている弁護士が、一方で保険会社の利益のための仕事をしている。これがこの業界であるのだ。保険会社の協力弁護士になっておけば保険会社から仕事を継続的にもらえるので経営的に美味しい。そうした
弁護士のバッチは彼らの利益確保のためにあるわけだ。
こういう弁護士は、相手の反論で論理的に行き詰まると「あなたが悪魔でないことを証明せよ」と言った事実上不可能な証明(いわゆる「悪魔の証明」)を求めてきかねない。
こうした保険会社お抱え弁護士に嫌気が差して、保険会社被害者救済の活動をしている弁護士もいる。そうした弁護士は被害者にとっては信頼できるかも知れない。
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交通事故は弁護士の案件の中でも誰でも扱える簡単なものだと見なされているらしいが、それは件数が多く類型化され過失割合や損害額の基準が明確であるからだ(保険会社の示談サービスが機能するのも同じ理由)。だが、類似態様の判例がなく類型化できないケースになると「なんでも」弁護士の手には余る。それは保険会社の協力弁護士、被害者委任の弁護士双方に言える。
交通事故では弁護士は類型化された基準に頼り切る傾向があり、しかも理系出身の弁護士は極めて少ないので、論理よりも駆け引きのテクニック(法廷なら裁判官へのアピール)に頼る傾向がある。自然科学的な真の論理を持ち出しても理解できないし、ましてや真実の追究など目的ではない。委任者の利益(=弁護士の勝利)のために、真実と違う判決を勝ち取ろうとする。
なかなか厄介な人たちだ。
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リンクしたページに面白い例が載っていた。
小泉純一郎 「(イラクは)自ら大量破壊兵器を廃棄した、持っていないという立証責任を果たしてこなかった。」
菅直人 「ないことを証明することが難しいというのは論理学の常識であります。」
さすが詭弁の達人、小泉純一郎。論理が破綻していても勢いで押し通す。世の中の人たちはそんな小泉純一郎の「勢い」にだまされ続けた。もう少し論理をチェックすることができれば……。
Posted at 2012/08/25 04:17:21 | |
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