新井素子さん。
高校生で作家デビューし、その独特な文体が話題になった。SF作家でありながらコバルト文庫において多くの10代女性読者を獲得し、広い支持を得た。SFが主だがサイコホラーも手掛ける。長編からショートショートまで書く一方でライトなエッセイも多い。自身の結婚経験をベースにしたエッセイ的コメディ小説はテレビドラマ化もされている。映画、ラジオドラマ、マンガ、アニメーションなどになった作品も多い。残念ながら遅筆・寡作でも知られる。
多分、40代以上の人で、特に女性、あるいはSF好きであれば出会ったことのある作家だと思う。
自分も10代の頃かなり読みあさった。自分より若干上の世代が支持の中心であったかも知れない。
軽妙で独特な一人称による読みやすい文体と奇想天外な展開に引かれていた一方で、女性心理の描き方が面白く、当時は女性の考え方を知る手がかりになるように思っていた。
今思えばずいぶん独特な女性が描かれていたように思うし、彼女の独特な感性そのままのような心理描写なので、女性理解にはドンピシャではなかったかも知れない。ただ、コバルト文庫を通じての当時の10代少女たちの支持はかなり強かったようだ。
極めて遅筆で、ながく新しい作品が書かれていなかったこともあり、かなりご無沙汰だった。
しばらく前に、思い出したように未読だった、そもそも刊行されていることも知らなかった作品も含めいくつか買ってみた。
年齢を重ねても見事なぐらい変わらない文体。主人公はの多くは作者の年齢に合わせて年齢が高くなっているのであるが、それをあまり意識できない。
ただ、自分がそれをあの頃のように無邪気に受け入れて読めるかというと、残念ながらそうも行かなくなっている。
長い時間の流れの中で様々な経験をし、成功した体験、つらい経験、嫌な経験をも積み重ね、感覚・感性が変わってしまった。物事の視点が大きく変わってしまった。
悲しいことだが、いつまでもあの頃のようにはいられないのだ。
当時から彼女の描く男性像には多少なりとも違和感があり、特に何度も描かれてきた男性的でなさ過ぎ、理解ありすぎる「旦那さん」像はどうも苦手だったが。
それでも、まだ読んでいない近著、『イン・ザ・ヘブン』は読んでみようかと思っている。
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彼女の文体は「新口語体」などとも言われ、喋り言葉をそのまま文にしたかのような言文一致体で、デビュー当時大変話題になったらしい。自分はその頃子どもだったこともあり、そうしたことを意識することなく受け入れていったのだが。
クラスメートの女の子から氷室冴子の小説『さよならアルルカン』を読まされたが、「不安定な少女時代の苦悩」といったテーマ自体が重かったこともあっただろうが、若い女性作家の言文一致体でも文章が遙かに堅く感じた。新井素子の文体の読みやすさは圧倒的だった。
似たスタイルの文体が広まっていき、今のライトノベル(ラノベ)につながる。
今の若い子たちは新井素子作品を読んだらどう思うのだろう。
最近いくつか新井素子作品が新装されて再販されている(『ひとめあなたに』など、多少手を加えているものもあるようだ)ようだが、話題性はあまりない様子。いくら表紙を今どきにしても、若い層の手に取られる機会はほとんどないのだろうな。
最近新装になった、初期の作品のほぼ全ての根源である奇想天外なSF『…絶句』は、自分としてはかなり好きな作品。これのラジオドラマ(NHK-FM)で新井素子にはまっていった様に記憶している。
この作品設定はかなり『涼宮ハルヒの憂鬱』に影響を与えているように見える。だからと言って今どきの「萌え」「ファンタジー的アクション」に慣れきった子たちには物足りないのかも知れないが。
『…絶句』は以下にアップロードされていた。
NHK-FM『ふたりの部屋』から『…絶句』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2666239/videoExplorer
全話あるので、よかったらどうぞ。
(自分もカセットに録音したものがあるはずだが、久し振りに聞いて本当に懐かしかった)
Posted at 2014/04/29 22:53:01 | |
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