こんなtweetを見た。ニセ科学(似非科学、トンデモ)批判の松永和紀さんのものだ。
健康情報サイトWELQの、SEO対策で検索上位に来るにもかかわらずトンデモ満載の記事に対する批判が相次ぎ、記事閲覧停止になった件をうけてのものだと思われるが。
JAグループの野菜に関する「とれたて百科」がニセ科学満載だと批判する。
曰く、
菊芋で「脂肪肝や動脈硬化の予防が期待できます」
カブは「生で食べると消化酵素を効率的に摂取できると言われており」
ニセ科学満載。
批判された「とれたて百科」の当該記述を見てみる。
https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=35

https://life.ja-group.jp/food/shun/detail?id=121
となっている。
ダイコンやカブなどには、ジアスターゼ(アミラーゼ)が含まれている。生で食べれば当然これらを機能するまま摂取することができる。胃が正常ならジアスターゼのみでは胃液の胃酸で最適pHを外れる上ペプシンで破壊されてしまうが、食物中のジアスターゼは食物の緩衝作用で胃酸から守られ、中性付近を保ち、胃の中でも作用するらしい(同時に中性付近ではペプシンは作用できない)。
ジアスターゼは胃腸薬、消化剤として市販もされ、胃もたれ胸焼けの治療、防止に服用されている。
松永さん、何を言っているのだろう……。今どきは【酵素】ブームで【酵素を取れば酵素が働いて健康に】などと酵素が消化で分解されてしまうことを無視したおかしなことばかり言われているので、ジアスターゼにも「消化されてしまうから働くはずがない」と脊髄反射してしまったのではないか?
キクイモのイヌリンについても、イヌリンなどの難消化性デキストリンが中性脂肪の吸収速度を遅くすることが知られている。
イヌリンについては国立健康・栄養研究所の「ヒトでの効果」を引用する。元サイトで確認のこと。
糖尿病・内分泌
・II型糖尿病の女性患者49名 (試験群24名、平均47.77±10.14歳、イラン) を対象とした三重盲検無作為化プラセボ比較試験において、イヌリン10 g/日を2ヶ月間摂取させたところ、空腹時血糖、HbA1c、マロンジアルデヒド、総コレステロール、トリグリセリド、LDLコレステロール、LDLコレステロール/HDLコレステロール比の低下と、総抗酸化能、SOD活性、HDLコレステロールの増加が認められたが、インスリン濃度、HOMA-IRに影響は認められなかった (PMID:23641355) (PMID:24688953) 。この現象についてはさらなる検証が必要である。
・II型糖尿病患者78名 (イラン) を対象とした二重盲検無作為化プラセボ比較試験において、シンバイオティクス(Lactobacillus sporogenes 1×10 (8) cfu + イヌリン 0.07 g/g含有) (試験群26名、平均52.3±10.8歳) またはプロバイオティクス(Lactobacillus sporogenes 1×10 (8) cfu/g含有) (試験群26名、平均52.3±8.2歳) 配合パンを40 g×3回/日、8週間摂取させたところ、シンバイオティクス群、プロバイオティクス群ともにトリグリセリド値、VLDLコレステロール値、総コレステロール/HDLコレステロール比の低下およびHDLコレステロール値の上昇が認められたが、総コレステロール値、LDLコレステロール値、非HDLコレステロール値、空腹時血糖値に影響は認められなかった (PMID:24706266) 。
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail565.html
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LDLコレステロール、トリグリセリド(中性脂肪)の低下を確認した論文があげられている。
少なくともJAサイトの記述にあるように根拠にできる論文がある以上、ニセ科学扱いはピント外れだろう。問題とするなら、これらの論文の根拠について取り上げる必要がある。
「脂肪肝や動脈硬化の予防が期待できます」という表現も、あえて【予防できる】ではなく【期待できる】という抑えたもので、脂肪の摂食を強く制限するほどではないにしろ多少なりとも効果は期待できるのであるから、執筆者にない効果を煽る意図があるとは思いがたい。他のサイトの有害な表現とは明らかに違う。
問題視したのはおそらく、消化されれば炭水化物は皆グルコースなどの単糖になるから機能を果たすはずがないという松永さんの思いこみが背景にあるように感じられる。
科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体FOOCOM.NET主催の松永さんなのだが、ちょっと勢いあまった感があるのだが。
追記:
しばらく前から、いわゆる似非科学批判の人たちが
・視野狭窄
・知識不足(専門外)
・自己過信
から、結果的にトンデモに荷担したり、自らがトンデモの発信をしている例を見てきた(一部に明確な御用もいるが)。また、同業者に対して差別/侮蔑的発言を繰り返して批判を受け、ついにツイッターにカギをかけてしまったものもいる。
似非科学批判を行う人たちの中には、自らが研究の現場にいない人がいるが、そういう人でも容赦なく【科学の論理】【既存のデータ】だけで他人の領域に踏み込んでいく。
その結果、既存のデータだけでは見えない何らかの意志に都合のいい方向に荷担する羽目になったり、似非科学な勢力を叩いているつもりが、被害者をトコトン傷つけて、どうかするとそのことに開き直ったりすらする。
権威を盲信することを諫めながら、自分の知りあいの間違った情報、意図的なバイアスに基づく情報をなんの疑いなく拡散したりする。特に科学でない領域になると、全くと言っていいほど科学的思考がぶっ飛んでしまう人がいる(容易に作為的な数字、統計にだまされる)。
単純な【科学VSニセ科学】という図式でしか考えられない視野狭窄も目につく。
ニセ科学の悪徳業者を相手しているだけならそれでもよかったのだが、人間の社会はそう単純ではない。
そう言うことを踏まえない幼稚な発想が目につくのが大変気になっている。
現実社会とのマッチングを無視する数学原理主義も同じようなものだが、ニセ科学批判に見られる科学原理主義も、科学的なつもりでどうかするとデータ不備に気付いておらず自らがニセ科学に陥りかねない問題がある。
今回取り上げた松永和紀さんの例は、自分の科学的思考・知識を過信した単純な思いこみの例と言うことができよう。
人間というのは思いこみをしやすく、そう簡単には科学的になりきれないものだ。ニセ科学批判をやっていると、その切れ味鋭いナイフに酔い、自分を万能であるかのように感じやすく、いつのまにか思いこみの色眼鏡でものを見てしまいやすい。
ニセ科学批判が陥りやすい愚である。
Posted at 2016/12/03 15:19:00 | |
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トンデモ | 日記