こんな類のものがしばらく前にネット上で随分流れていた。
http://netgeek.biz/archives/89232
池上彰の冠番組においてグラフで印象操作をしていたというものだ。
ネットでの主張によれば、億万長者の収入が増え続けてアメリカ同様の格差が日本でも起きているかのような印象を与え、日本の貧困を強調しているという。
こうしたものをまとめて記事にしたnetgeekでは「日本の貧困層はひどくなっていると結論ありきで訴えるために捏造された見せ方だ」と言っている。
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グラフの縦軸を揃えないと比較は難しい。しかし……
確かに、この場面を見てみると、日米の上位1%よ下位90%の推移を比較しているように見える。
比較するなら、縦軸を揃えないと、批判にあるような印象操作になりかねない。
だが、番組を見てみたが、番組構成の中で2つの比較し、日本の上位1%がアメリカ同様に莫大な収入を得ているなどと言及したことは一度も無い。
池上彰緊急スペシャル 2016年12月16日
格差はなぜ世界からなくならないのか
https://www.youtube.com/watch?v=hyvtfMc5tlw
問題のグラフ並示があるのは1:42以降。
番組の構成では次のように話が進んだ。
・アメリカの収入格差のグラフを示してから、収入が増え続けるアメリカの億万長者の実態を紹介。
・「このままだと日本はますます貧しい人が貧しくなる」と次のコーナーへ。
・アメリカのグラフを示したまま日本のグラフを見せ、日本も上位1%はアメリカと似ているが、下位90%はアメリカでは下位が横ばい少し下がっている程度なのに対して日本では下位が下がりっぱなしと紹介。
・日本は、貧しい人が更に貧しくなって格差が広がっていると言明。

この後でバブル崩壊に触れ、富裕層もがくんと下がっているが、『持ち直す』と言っている。決してアメリカのように富裕層の収入がふくれ続けるなどとは言っていない。
バブル崩壊後、下位90%の収入が減り続けて貧困が広がったと指摘している。
なお、
アメリカでは1980年から上下10%の変動でほぼ横ばい、リーマンショック後下げているが、日本では上下20%に及び、バブル時のピークから33%も収入が一貫して減りつづけている。収入が2/3になっているのだ。
極めて単純に言えば、300万円の収入だった仕事はは200万円に、210万円だった仕事は140万円と言うことになる。
netgeekはこれを余り差がないと言ってのけている。
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netgeekでも取りあげられている同じスケールのグラフで見ても、下位90%(netgeekは何が何でも番組が貧困層を誇張していることにしたいらしく、『貧困層』と書き間違っている)の傾向の違いは明らかで、日本は収入変化が大きく、バブル崩壊以降収入の減少に歯止めがかからなかったことが見て取れる。上位1%はバブル時に大きく伸びた収入を維持したが更に拡大はできていないことが解る。
番組では、ごく一般的なことを紹介しているに過ぎない。
断じて日米の格差の拡大が同じように起きているのだと言うことは言っていない。アメリカは富裕層の収入増加で、日本は下位90%の収入減少で格差が拡大していると明言している。
ところが、貧困女子高生をネット民が叩いた事例を挙げたこともあるのか、一部のネット民達は
やってもいない2つのグラフの比較による日本の上位層の収入拡大という印象操作を、番組の一コマを切り取った画像を紹介してやったと強弁し、縦軸操作だと話をすり替え、あたかも貧困の拡大をなかったかのように印象づけている。
もし印象操作をやりたいのなら、バブル崩壊以降をグラフにするだろう。これなら日本の下位90%はひたすら収入が減っているように見せられるし上位1%もひたすら増え続けているように見せられる。バブル前後をあえて入れているのは、当然日本の経済にとってバブルが重要な意味を持っていたからに他ならない。バブルについては番組中でも言及されている。
要するに、貧困女子高生叩きを正当化するために、番組の趣旨を無視し、やってもいない印象操作をやったと言いつのっているのである。
netgeekでは
事実誤認で叩いていたことを無視し、女子高生には浪費癖があるから生活保護はおかしいなどと、生活保護の趣旨を無視したことを主張している。
本当にどうしようもない。
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なお、ネットで主張されている
・日本では上位1%も拡大しているという印象操作
・グラフによって貧困がひどくなっているという印象操作
というこの2つが矛盾していることを、誰も指摘していないが、気付いているのだろうか。気付かずに鵜呑みにしているのだろうか。
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まとめ
番組を見れば、グラフによる印象操作などなかったことは明確だ。
ところが、このようなグラフの並列部分だけに注目して、縦軸が違うものを並べるのは印象操作だという話だけがネットで拡散している。
たしかにそう言うことをやったならば問題があるが、実際には話の展開の中で並べているだけで両者を比較し日本の上位層の収入がアメリカ同様に拡大し続けているということはまったく触れていない。アメリカの格差拡大の理由は富裕層の収入が増え続けているため、日本の格差拡大は下位90%の収入が減り続けているためと示したに過ぎない。
完全にデマ、風説の流布になっている。
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グラフによる印象操作は多いが、印象操作とするデマも増えている
先日の東京新聞の伸び率比較による予算のグラフと同様、自分で原典にあたったり、データを分析したりせずに、ネット情報を鵜呑みにしてたたく分析能力のない人間をあぶり出す試金石になっている。
ざっとみただけでも天羽優子、永江一石、佐々木俊尚が引っかかっている。
天羽氏は似非科学批判で有名でグラフによる印象操作をよく知っているだけに、政治的な右寄り傾向と予算配分では性質上一般的なデータ処理と異なる見方が必要であることを理解していないためと思われる。
この問題が少々高度なのは、
・グラフの操作による印象操作はあちこちでよく行われていること
・池上彰のものは、本当に比較していたらアウトであること
・予算に関しては一般的なデータと予算では見方が違うことに多くの人が気付いていないこと
が挙げられる。
予算について言えば、先日取りあげたように、
・額が極端に違う予算については伸び率を比較するしかないこと(もちろん絶対額も示す必要がある)。
・そもそも予算は恣意的に決定されるものであり、それをあらわすのが伸び率の変化であること。
を認識する必要がある。
今回のものでは理系のデータ処理に長けた人間も批判に回っている。これは誤差というノイズを無視してトレンドをみるということに慣れているからである。
毎年の予算額の変化は
多くても1~2%であり、その程度の増減は一般的なデータ処理であれば誤差の範囲である。データ毎のに現れる誤差を無視し、全体の変化を見る。
ところが、
予算の方は全体の変化を決めているのが毎年の増減である。これはノイズではないのだ。その増減を決めるのが政府であるから、伸び率を比較すればその政権の考え方が表れるのである。
絶対額の差が莫大なものを絶対額で比較しろという議論が無意味なのもよく分かるだろう。それこそ問題の本質をすり替える印象操作にしかならない。
ちなみに、文教・科学振興費は前年度比でマイナスになっている。何かの予算が削られたのだ。これも東京新聞を叩いている天羽優子氏を始めとする理系研究者諸君は誤差範囲と認めなければならないことになる。
Posted at 2016/12/31 10:43:20 | |
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トンデモ | 日記