プリウスが相変わらず売れているようです。
その背景が、エコブームであったり、13年超のクルマの買い換え補助金であったり税制優遇であったりするのはご存じの通りです。
そのおかげで、古い時代のクルマ達が、燃費や文化的価値などとは無関係にスクラップと化す危機にあるというのもまたご存じの通りです。
さて、すこしここでこの政策について少し考えてみることにします。
13年前というと1996年、バブル崩壊から少し経った頃でしょうか。13年超のクルマというと、バブル時代と80年代のクルマ達が主なターゲットと言うことになるでしょうか。70年代以前のクルマのオーナーは、もはや多少のことでは手放すことはないでしょうからここでは考えません。
80年代といえば、クルマが大型化し性能を向上させた時代。ハイパワー化し、そうしたクルマでは、オイルショック以降とは言え現在のものと比べれば燃費的にはあまりいいとは言えない時代です。環境性能云々といわれると、たしかに厳しい面がありそうです。デザイン的にも用途的にも多様化したのは経済的余裕のなせるワザだったといえるでしょう。大量にそうしたクルマ達が購入された時代でした。
そのクルマ達は、性能の高さと丈夫さ故に、本来長く走り続けられるものでした。
さて、一方で現在のクルマの購買層を考えてみます。
20代はクルマに興味を持っていません。環境に対する悪いイメージやバブルイメージなどマイナスのものを持っているようです。現実にも少ない収入や携帯電話代のような固定的な支出が増え、購入可能性が低いこともあります。金太郎飴のようなクルマばかりであることも関心を引かない理由かも知れません。少子化で人口に占める割合の低さもあって、今後も主な購入層にはなり得ないでしょう。
40代以上はバブルを経験し、クルマに対する関心をある程度持っている層と言えそうです。しかし、その多くは家族を持ち、SUVなどの「便利なクルマ」に買い換えています。ただ、金太郎飴故か、それほどクルマへの執着は高くなくなっています。
60代以上は、リタイヤ後に趣味性の高いクルマを購入することもあるようです。しかし、年齢的に運転を続けにくくなっていくこともあり、むしろクルマを手放す方向にあります。
経済的な問題と、環境問題の意識化を背景に、周囲ではクルマを持たない、あるいはカーシェアリングなどで済ませたいとする人が増えています。マンションの駐車場は確実に空きが増えています。
全体に見て、経済の上向きがない限り、クルマを購入する意欲がかなり低い状態になっているのが見て取れます。クルマはもはや経済的にも環境意識からも積極的に購入したいものではなくなっています。燃料やクルマの購入や所有に税金ばかりかけられている中、一度所有しない方向になったものはもう戻ってこないかも知れません。
そう考えると、結局現状の政策は、13年超のまだ充分走れるクルマ達をスクラップにして環境負荷をかけることになる一方、その一部しか買い換え需要を生まないものになっているのではないでしょうか。
プリウスは売れていますが、他のクルマは売れていません。高級車を買いに来た層も、補助金・税制優遇の上に、体面上の環境意識を刺激されることもあいまって、インサイト対策でお買い得になっているプリウスに流れているそうです。値下げで儲けがうすいプリウスが売れても、トヨタはあまり儲からない状態にあります。
プリウスは、環境意識と補助金・税制優遇に支えられて一種のバブル的状態にありますが、現在の補助金の期限(来年3月末)が過ぎれば、大きく状況が変わるかもしれません。13年超のクルマからの買い換え需要と、ブームに乗り「エコ替え・ハイブリッド車所有」を一種のステータスととらえる層の需要が一巡してしまえば、また自動車販売は冷え込むことになるのかも知れません。
重くて燃費をよくするには条件を選び、廃棄時にはガソリン車より環境負荷が大きいプリウス自体が問題にされるかもしれません。
エコバブルはこうして崩壊するのかも知れません。
そのころには、一部の利益を守るというその場しのぎの対応のために、国が広く国民に借金を負わせたことが批判されるでしょう。
より環境意識が高まれば、自動車の所有から公共交通へとシフトして行くかも知れません。欧州のように路面電車が見直されれば、そこら中で路面軌道の建設ラッシュになるかも知れません。
結局、今のような、政府にごり押ししてなんとかしようとしている、自動車生産に傾斜した経済構造は、もう破綻してきているのではないかと思います。米国初金融バブル崩壊はそれを早めただけなのではないでしょうか。
やがて、クルマを所有することは極めて趣味性の高いことだと見なされるようになる時代が来るのかも知れません。そんな中で、歴史的・文化的価値があるクルマがなんとか生きながらえるのかもしれません。そうしたクルマは現役ばりばりで使われることもないでしょうから、そう目くじらを立てられることもないでしょう、たぶん。
個人的には、古いクルマ達を現代の環境技術で長らえさせることができればと思いますが、どう考えても現状ではゼロから作った方が安上がりになるでしょうし、メーカーはまずやらないでしょうね。
(追記7/15)
3代目プリウスがバックオーダーを抱えて、2代目プリウスの中古が売れているとか。しかもプレミア付きで。
(引用)-----------------------------------------------------------
プリウス異常事態 中古価格が新車上回る (J-CAST)
http://news.www.infoseek.co.jp/topics/business/n_toyota__20090715_12/story/20090714jcast2009245324
中古車情報サイトでも高値が多い
新車販売ランキングで1位を記録し、納車待ちが続いている3代目「プリウス」をめぐり、思わぬ現象が起きている。中には、値下げされた2代目の新車を上回る価格の2代目中古車も出ている。今注文しても、新車が手に入るのは2010年3月。「それなら、すぐ手に入る旧型の中古車の方がいい」という人も増えているのだという。
-----------------引用ここまで------------------------------
中古は補助金/減税が付かないですし、ハイブリッドは消耗したバッテリーの交換に相当な費用がかかる(使っていくうちに関連する装置の交換もあるかも知れない)ので、中古で新車よりも高く、補助金等なしで買うのはばかげています。
フィットなどの小型ガソリン車ならもっと走りやすく、コストも安く、実燃費も同等以上のはずです。
にも関わらず、高くてもプリウスとは、現状での希少性と「ハイブリッド」ステータスにだけ目を奪われていることの証左でしょうね。
来年の春に補助金が打ち切られれば、中古価格もがくんと下がるでしょうに。
人間は流行に踊らされ、目先にとらわれるものですねえ。
<付録>---------------------------------------------------
環境対応車への買い換え・購入に対する補助制度について
(申請受付開始後追補版)
平成2 1 年6 月1 9 日
経済産業省製造産業局自動車課
国土交通省自動車交通局総務課企画室
◇ 乗用車(登録車・軽自動車)及び重量車(トラック・バス等)について、以
下の対策を実施します。
① 経年車の廃車を伴う新車購入補助
最初の登録等から13年に達した古い車を廃車して、一定の環境性能
を有する新車を購入する者に対する補助。
2.補助対象車と補助金額について
古い車を廃車して一定の環境性能を有する車を購入する場合、また
は古い車の廃車を伴わなくとも環境性能に優れた車を購入する場合に
補助金が交付されます。
概要
1.制度の趣旨
環境性能の良い新車の買い換え・購入を促進することにより、環境
対策と景気対策を効果的に実現することを目指しています。
以下は下記アドレス参照
http://www.mlit.go.jp/common/000039166.pdf