放射線による差別(区別)が起きるという問題提起は群馬大の早川由起夫教授が早くからしているが、それに対する感情的な中傷も起きている。しかし、氏の指摘は本質的であり重要であると考える。
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そもそも放射線は、被曝すれば、本人だけでなくその子、孫等に影響を与えかねないと考えられるものである。その影響度は弱いほど明らかでない。
人は、この類のことに非常に敏感である。流行性の病気でなくても「うつるのではないか」「結婚したら子供に影響が出るのではないか」と心配をする。そして、差別は営々と行われ続けてきた。
たとえば、ハンセン病による顔面等の変形を目にして、完治後であっても隔離を続け、断種さえ行われた。
それは、至上命題として子孫を残そうとする生物の本能レベルの問題なのだろう。
放射線の影響についても、すでに区別なり差別が行われている。
放射線の影響のある地域からの食品、物品に対する拒否、人に対する差別的な扱いが多少なりとも起きている。これは国内でも起きているし、海外から日本に対しても起きている。差別している人が、同じ視点で差別されていることでもある。
見えないもの、影響が将来現れるかも知れないものへの不安であるために、なおさら排除しようとする動きは強まりやすい。
おそらく、将来高放射線量が観測された地域の出身であるが故に結婚を反対されるケースも出てこよう。そもそも以前から原発周辺地域出身であるだけで反対されるケースがあったという話も聞く。
そして、高放射線量が観測されている以上、影響がないなどと断言できるはずもなく、この点で差別だと断じることが難しい問題でもある。
それ故に早川氏は退避を言ってきたし、放射線量がそれなりに高いが政府が退避を決めない地域については、将来のために自ら退避するべきと発言している。
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しかし、こうした発言への反発が強い。
・生活があるから、金銭的に、等々の理由ですぐに引っ越せるわけがない。
・早川氏の発言は差別である。
しかし、それは筋が違う。
将来起こりうる健康被害、子孫への影響、あるいはそれが起こるにしても起こらないにしても発生する原発事故後の居住地による差別から自分や自分の子供を守るためには、政府が何を言おうと自分で判断して行動しなくてはいけない状態になっていると早川氏は言っているのだ。
そうした差別が起こること自体を批判したところで、放射線被曝という事実は変わらないし、その影響は低放射線量であっても想定できるからこそ、ICRPは「
公衆の放射線被曝許容量は1年間に1mSv」と厳しく設定しているのだ(これでもまだ緩いとするものもいる)。つまり、被曝が事実であるなら内容によっては差別とは言えない状況にある。
放射線の影響をふまえて学校・校庭の利用基準(年間換算5.2mSv)があるのに、その基準を緩和して使用させていることそのほかに
日弁連が抗議をしている状況にすらある。
事故が起き、放射線による被害が起きた責任は東電にあるし、
原子力政策を続けてきた歴代政府、原子力導入に積極的に関わった読売新聞/日本テレビ放送網にもある。
当然現政府の対応責任は大きい。
しかし、今は責任を問うたところで今まさに受けている被害が消えるわけではない。
今は、放射線の影響が強い地域に住んでいるのなら、万難排して可能な限り放射線の影響が少ないところへ自主的にでも動かなくてはならない。
簡単には動けないのだから引っ越せというなと言うのは、問題のとらえどころを間違っている。降りかかる災難があるのに、災難から逃げろという人を批判しても失うところはあっても得るところはないのではないか。
早川氏の述べていることを私なりに言い直すと以上のようになる。
(なお、「フクシマの被曝は避けようと思えば、避けられる。方法は簡単。引っ越すだけでいい。」との早川氏の発言の「簡単」が反感を呼んでいる部分もある。曰く「簡単には引っ越しできない」。反感を持つ側は意味をとらえ間違っているが、私自身tweetを見たとき「簡単」が誤解されるだろうと感じた。こうした言い方は避けた方がよかったと思う)
追記
動くべき状況にあっても簡単に動けないのが現実。大都市となればなおさら難しい。
ではどうするか。
・あまんじて放射線の影響や将来の差別を受けるのか。
・影響を受けつつ、東電や政府に補償を求めて終わりにするのか。
・何らかの方法(逃げる、生活の上で自衛する)で影響をなるべく受けないようにするのか。
比較的低放射線量地域であれば、統計的にも影響は明確に現れないかも知れない。
それ故に現実的な選択として政府はこれまでの基準を緩和しているものと考える。
放射線量が比較的低ければ現実的な影響はほとんど無いのかも知れない。
しかし、それでも子孫への影響を懸念する感覚はあるだろう。結婚問題は消すことが難しい。
差別問題は子孫を残そうとする本能に根ざした問題。根が深いだけに難しい。
放射線問題はとても難しい。
追記おわり
追記
私は原発に対して疑問を感じ続けていたし、「電力の3分の1はもう原子力です」という、原子力が既成事実化したことをアナウンスする電力会社のCFに反感を感じ続けていた。原子力発電所が不十分なリスク評価の状態にあることも知っていたし、それを大きな地震がある度に授業で子供たちに伝えても来た。1年前のチリ地震の時にもこのブログでも原発の危険性に触れた。
原発の状況
チリ地震と津波とリュウグウノツカイ
今回冷却手段の喪失を聞いてその後起こるであろう放射性物質による被害や風評被害、しきい値問題まで思い浮かべていた。
通りがかりの人は何も知らずに思いつきで勝手なこと言うが、事故があるまで無批判な享受者であったと言うことは全くないと思う。
追記終わり
Posted at 2011/04/26 11:47:36 | |
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