正月に実家へ行き、DNA関係の研究者である兄と会ったが、そこでごく最近、革命的な新しい遺伝子編集技術が登場しているという話を聞いた。これまでの遺伝子組換えとは異なる方法で、それだけに法的規制の想定外でもあるらしい。
ググってみて、おそらくこのあたりの話だろうというのが分かった。細菌の持つ免疫系を応用し簡単に多様な遺伝子の編集ができるようになる。これまでの制限を超えたまさに革命的技術で、応用への期待がなされている反面、当然倫理的な問題、法的な問題などが存在することになる。
ごくたまにしか見に行っていなかった科学ニュースの森から。
2013年12月31日
サイエンス誌が選ぶ2013年の10大ニュースその2
遺伝子操作の新技術(Genetic Microsurgery for the Masses)
1920年代に顕微鏡が手術室に持ち込まれるようになると、手術の手法に革命的な変化が起こり、医者は耳や血管などの細かい部分をとても簡単に治すことができるようになった。現在、ゲノムの手術でも同様の技術革命が起こりつつある。Cas9と呼ばれるタンパク質は目的のDNAに対応したRNAと組み合わさることで、遺伝子の活性、不活性、改変などを容易に行うことができる。
CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)と呼ばれるこの技術は、2013年にとてもホットなトピックとなり10ヶ月の間に50以上の論文が発表され、CRISPRの利用法を解説するウェブサイトは1日に900人もの研究者が訪れている。1月以降10以上の研究チームによって、マウス、ラット、細菌、真菌、ゼブラフィッシュ、線虫、ショウジョウバエ、植物、ヒト細胞株などのゲノムが操作されてきた。
このような研究によって、様々な遺伝子がどのように機能するのかが観察され、病気の治療法開発などに応用されることが期待される。あるチームは、HIVがT細胞に隠れられないようにすることにも成功した。またCRISPRは同時に複数の遺伝子を操作できる可能性も秘めているため、成功すれば病気のマウスモデル作成にとても大きな貢献をすることになる。
このようなゲノム操作は10年前には夢のような方法であった。当時は、ゲノム操作を行うときに、ゲノムの目的の部位への遺伝子挿入をコントロールすることはできなかった。しかし約10年前、目的のDNAを切り取ることができるジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)と呼ばれるタンパク質が紹介され、多くの研究者の注目を集めることとなった。
しかしZFNは作成が難しいことが分かり技術の発達が下火になってきたころ、植物の病原菌を基にした新たな技術が登場した。TALENs(Transcription Activator-Like Effector Nucleases)と呼ばれる技術の発展は著しく、2012年の大きな科学ニュースの1つとしてサイエンス誌上で紹介された。
そしてCRISPRはゲノム操作技術を次なるレベルへと引き上げることになる。CRISPRは細菌がバクテリオファージと呼ばれるウイルスから身を守るための、獲得免疫系として進化させたシステムを利用している。細菌はCas9と呼ばれるタンパク質をウイルスのゲノムに対応したRNAと組み合わせ、その複合体が目的のDNAを切り取り不活性化させる。
CRISPRは2012年に初登場し、研究者によって試験管内でのゲノム操作が示された。その後、多くの研究者によってCRISPRの可能性が認められた。ZFNやTALENsでは、目的のDNAに対して特有のタンパク質を合成しなければならないが、CRISPRは目的のDNAに対してタンパク質より合成が簡単なRNAが利用される。
CRISPR技術は様々な発展をとげ、例えばDNAを切り取るのではなく傷をつけるだけという操作が可能になり、Cas9複合体の構造解析も行われている。またCas9よりも効果的に機能する他のCasタンパク質の探索も行われている。
CRISPRの基礎研究は、不活性な遺伝子や有害な遺伝子を治すといった医療技術への応用が可能であるが、そのためにはCas9が目的の部位以外はまったくターゲットにしないことが示されなければならない。現時点での技術では、Cas9は目的のDNA配列と完璧に対応しない部分にも結合してしまうことがある。この問題を解決すべく研究は行われており、もうすでに特異性を向上させる様々な方法が発見されている。
CRISPRやTALENsは共にゲノム操作以外の基礎研究から予想外に生まれた成果であるため、今後CRISPRが他のゲノム操作技術に取って代わられることは十分に考えられる。しかし現時点では、毎週のように新たな研究成果が発表され、CRISPRはゲノム操作技術の中心にある。
補足:
去年の10大ニュースでTALENsが紹介されており、CRISPRについても言及されていました。またCRISPRの元になった研究についても記事にしていたので、興味のある方はどうぞ。
サイエンス誌の選ぶ2012年の10大ニュース‐遺伝子操作の新技術
細菌の免疫系とその利用
Posted at 2014/01/02 09:24:59 | |
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