以前、BPD(境界性パーソナリティ障害)傾向の人に見込まれてずいぶん苦しい思いをしたが、その時代の精神医学では、BPDの人の、瞬間的に起こる記憶が共有された人格交代的な変化を記述する明確な診断名がなかった。
当時はdissociative disorder not otherwise specified (DDNOS)として取り扱われていた。要するに独立した診断名が存在せず、その他の解離性障害として扱われていた。
しかし、私が見ていたような、全面的人格交代が起こらないケースが臨床で非常に多いことから、WHOのICD-11において、部分的解離性同一性障害として定義されたのだった。
このあたりについては過去記事も参照のこと(みん友限定にしていたが、現在は一般公開に変更)。
ICD-11 で新設された部分的解離性同一性障害
https://minkara.carview.co.jp/userid/441462/blog/49166556/
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最近の精神医学では、解離の考え方がずいぶん変わってきているようだ。
解離というのは、何らかの原因で意識、記憶、感情がひとまとまりに保っておくことができず、切り離された状態のこと。MSDの解離症のページでは次のように記述されている。
多くの人が、ときに記憶、知覚、自己同一性、意識に隔たりができる小さな問題を経験することがあります。例えば、どこかをドライブしたとき、後になって運転していたときの状況を思い出せないのに気づくことがあります。それは、個人的な心配事にとらわれていたか、ラジオ番組や同乗者との会話に夢中になっていたか、ちょっと空想にふけっていたために思い出せないだけかもしれません。このような問題は正常解離と呼ばれ、通常は日常生活に混乱を招くことはありません。
これとは対照的に、解離症の人は数分間、数時間、ときにもっと長期間にわたって、自分が行った活動を完全に忘れることがあります。一定期間の記憶が欠落していることに本人が気づいている場合もあります。さらに、自分が自己(すなわち、記憶、知覚、自己同一性、思考、感情、身体、行動など)から切り離されている(解離している)ように感じることもあります。あるいは、周囲の世界から切り離されている(遊離している)ように感じることがあります。そのため、自己同一性(アイデンティティ)の感覚、記憶、意識などが断片化しています。
解離症には以下のものが含まれます。
自己または外界から切り離されたような感覚(離人感・現実感消失症)
重要な個人的情報(通常は心的外傷[トラウマ]やストレスと関連している情報)を思い出すことができない状態(解離性健忘)
自己同一性と記憶が断片化している感覚(解離性同一症)
以前のBPD傾向の人は、食事を一緒にしている最中でも急に、
「いま時間がとんだ」
「たまに時間が飛ぶときと、真っ白になる時がある」
と言っていた。精神科医なのに、解離という言葉を使わないのが不思議だった。
彼女の場合は、突然怒りの感情にとらわれることがあり、私の目の前でも一度経験したが、心の働きがつながらない、突然の憤怒の発生に戸惑った。人格が交替したのではないかと思われるほどの唐突で、前後がつながらない変化だった。
当時の解離性同一性障害(DID)の理解では、人格交代では記憶が共有されないことが多く、交代にも時間がかかるとされていたため、当てはまらないと考えられた。記憶が共有されて瞬間的に起こる変化は想定されていなかったのである。
その後、人格交代は瞬間から数秒、数十分と多様であること、全般的な人格交代ではなく、記憶が共有される部分的な交代が多いことが認められるようになり、部分的解離性同一性障害が定義されるようになったわけだ。
BPDではDIDが併存するケースが多いと言われてきたが、PTSD、複雑性PTSDなどと共に、解離性のスペクトラムとして扱われるようになってきている。
また、ANP/EPという心の構成要素によって理解する考え方も広がってきた。ANPとEPのどちらが意識の前面に現れるかによって、人格の変化や記憶の抑制などが説明できると考えられている。
この立場では、PTSD、複雑性PTSD、BPD、DIDは構造的解離の程度の違いとして理解される。
ANPとは、日常生活を送る人格で、通常はこのパートが支配的。普通の人はほとんどANPが主体で生きている。
一方、EPとは感情的人格で、トラウマ(心の傷)を負うと、心を守るためにANPからトラウマの記憶や感情を持った状態で切り離されると考えられている。EPは現在ではなく、受傷時の時間軸に縛られている。幼い子供のような意識状態として表れることが少なくない。
幼少期に長時間にわたり慢性的に虐待を経験した場合には、解離構造がより複雑になる。EPはまず、経験するEPとそれを観察するEPとに分離する。
さらに、さまざまな外傷体験に対応して、怒りの感情を持った攻撃的なEP、恐怖で凍りついたEP、母親にすがりつくEP、激しい痛みを体験して耐えているEPなどが、交代で現れる。
このように、一つのANPに対して複数のEPが交代で出現する解離が「第二次構造的解離」である。
複雑性PTSD、外傷に関連した境界性パーソナリティ障害がこれに当たる。
野間. 現代の解離症理解. 精神療法 47(1): 8-11, 2021.
BPD傾向の人に見た憤怒のEPはこの一つで、他にもいくつかのEPが見えていた。幼い子供のEPが表れることもあった。
このEPは受傷の度に切り離され、複雑化していくと考えられている。
上図で、PTSDでは1つのANPに対してトラウマを抱えるEPが一つあり、これが意識に登るのがフラッシュバックを起こした状態だ。
EPが多数になった状態が複雑性PTSDやBPD、ANPが複数生じているのがDIDと理解されるようになってきた。
耐えがたいほどのストレスやショックによって記憶ごとEPが切り離される状態が、解離性健忘ということになる。
解離症状が起こりやすい人は、生育歴になにか問題を抱えていることが多く、受傷によってEPの切り離しがおきやすいようだ。
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では、なぜ解離しやすい人とそうでない人がいるのか。
今日では愛着との関連も指摘される。
愛着理論とはイギリスの精神科医ジョン・ボウルビィが提唱した心理学の概念で、Wikipediaでは次のように記述されている。
愛着理論では、幼児の愛着行動は、ストレスのある状況で対象への親密さを求めるために行っていると考えられている。幼児は、生後6ヶ月頃より2歳頃までの期間、継続して幼児の養育者であり幼児と社会的相互作用を行い幼児に責任を持つような大人に対して愛着を示す。この時期の後半では、子供は、愛着の対象者(よく知っている大人)を安全基地として使うようになり、そこから探索行動を行い、またそこへ戻る。親の反応は、愛着行動の様式の発展を促す。そしてそれは、後年における内的作業モデルの形成を促し、個人の感情や、考えや、期待を作り上げる。離別への不安や、愛着の対象者が去った後の悲しみは、愛着行動を行う幼児にとって、正常で適応的な反応であると考えられている。こうした行動は、子供が生き延びる確率を高めるために生じたと考えられる。
Wikipedia 愛着理論
この愛着の概念は大人にも拡張されていった。一般にもよく取りあげられるようになった安定型、不安型、回避型、おそれ回避型の四つの愛着スタイルである。
愛着理論は、1980年代末に、Cindy Hazan とPhillip Shaver によって、大人のロマンチックな関係にも拡張された。大人においては、4つの愛着のパターンが確認された。すなわち、安心、不安、退去-回避、恐れ-回避の4つである。これは、幼児における4つの愛着パターン(安心、不安-両面感情、不安-回避、混乱)と対応している。
Wikipedia 愛着理論
親の養育態度に伴う愛着形成の問題や慢性的なトラウマ体験を背景として、解離を対処法として学習し、それが慢性化・構造化していくという考え方も提案されている。
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愛着形成の問題や慢性的なトラウマ体験を背景として、解離を対処法として学習し、それが慢性化・構造化していくという考え方も提案されている。
この図は、必ずしも本稿の説明とは一致しないが、愛着形成の問題や慢性的なトラウマ体験を背景として、解離が慢性化・構造化していくという考え方を模式的に示したものである。
Posted at 2026/07/27 02:55:37 | |
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