前シリーズのお客様の質問にお答えしては2年ちょっと前に19話で終わった様な気がしますが、新シリーズはまあまあのテンポで進んでいて、今回で14回目となりました。
この新シリーズになった理由と、今回のご質問の内容は繋がっている部分があるので、自分が意識していない部分を再確認する事が出来ました。
そのご質問は、「ここ2年ぐらいでサウンドピュアディオさんの音って、急に良くなっていますよね?」という事です。
この急に良くなった理由は二つあって、もうこれは日頃からここで書いている内容で、国産車のオーディオがナビ一体化が急激に増えて来て、多くのお客様から「前の車の時はもっと音が良かった。」と言われる事が多くなって、そのベースのクオリティーの低い部分から以前と同じレベルの音表現をしようと思うと、取り付ける製品のクオリティーをこれまで以上の物にして行かないと満足して頂けないという、『今まではこの手法で満足して頂けていた』が通用しなくなったという事です。
2つ目の理由はかなりの数のお客様はご存じの、2019年の10月に37年間やめていたアマチュア無線を再開したという事です。
これは自分の技術力を上げるつもりで始めた訳ではなくて、その年の9月の千葉の大規模な台風被害を見て、スマホも電話もパソコンも使えないという、全く通信手段が無くなる事の怖さを知って、災害時のために1台無線機を持っておこうから始まりました。
しかしハンディートランシーバーを1台買って家に置いたものの、ほぼ何も電波が聞こえて来ず、「昔はもっと交信している人が多かったのに?」とあれこれとアンテナを工夫して遠くに飛ばないかとやっていたら、結局コイルやコンデンサーの組み合わせで格闘する事になって、「そういえば中学生の時にドイツのWISIのアンテナを使っている社会人がいて、自分の自転車に付けた国産のアンテナでノイズだらけの信号が、WISIだとバッチリ聞こえていたな。」と思い出しました。
そのWISIのアンテナは自転車に付けるには色々と条件が合わなかったので、自分のアンテナのコイルを自分で巻き替えて、WISIみたいな性能に出来ないかと中学2年から高校3年までの5年間もコイルの研究をしていました。
そんな昔懐かしいWISIのアンテナが福岡の無線機屋さんで売っていたので、コイルを巻く部屋に置いて、学生時代に夢中になってコイルを巻いて、出来が悪かったらほどいて巻き替えてを、何百回も繰り返した事を思い出して、当時の『WISIの様なQ値の高いコイルを巻く!』という、何がそんなに面白かったのかは分かりませんが、無心になった時の事を思い出しながら仕事をしていました。
実際にはAF10の構造は太いステンレスの棒を機械で時間をかけてじわじわ丸めているので、絶対に真似が出来ないのですが、その構造でQという値が高くて、コイルの性能のインダクタンスは同じで、動作する周波数は同じでも、そのQの差で電波の飛びや受信感度が上がるので、田舎の工業高校の図書館で、放課後にコイルのQに関する書籍を読み漁っていました。
ただそのコイルに関する書籍はだれも呼んだ形跡がなくて、そんな普通はどうでもよい事に熱を上げた学生時代でした。
それから10数年が経って、自分がカーオーディオの仕事を始めてしばらくすると、カーオーディオ業界でちょっとだけ自作のネットワークブームが来て、日本で10店か20店ぐらいのネットワークを作るショップが出て来て、カーオーディオの雑誌を賑わしていました。
ただ自分は真っ当なLC回路を作ったり、コイルを巻き替えたりする大変さを知っていたので、「うちのお店はマルチアンプで音造りをします。」とブームに乗ろうとはしていませんでした。
しかしカーオーディオのイベントで関西の当時名人と呼ばれていた人のネットワーク付きの車の音を聴いたお客様から、「井川さんもコイルを巻き替えてネットワークを作らないと!」と半分以上お叱りの言葉を受けて、しかたなく嫌々コイルを巻き替えていました。
ただこの手の事をしだすと止まらなくなるのは自分の性分で、やり始めたらとんでもはまってしまい、最後には自分が名人と呼ばれる様になりましたが、残念ながら業界は自作ネットワークのトレンドが終わり、自分が以前推し進めていたマルチアンプと、プラスしてタイムアライメントの時代に入って、どちらかというとダサい部類に入る事になりました。
そうこうしているうちに自動車メーカーがプレミアムサウンドに力を入れ始めて、将来的にはナビ一体化オーディオプラス特殊なインピーダンスの専用設計のオーディオになるという話が出て来ました。
もう20年以上前の話なので時効という事で過去込みますと、90年代の終わりに自動車メーカーは将来カーオーディオの売り上げをアフターマーケットに任せるのではなくて、異形パネルや特殊インピーダンスでメーカー側が主導権を握る様に動いていて、自動車メーカーが自動車雑誌の編集部に「どこかカーオーディオで特殊な技術を持っている店はないか?」と聞いたところ、「山口県にあるオーディオボックスが優れています。」という話が出て、半年のずれはありますが、某自動車メーカー2社からデモカーを聴かせて欲しいとわざわざ山口まで来社がありました。
色々とメーカーの方と話をしていましたが、自分のやり方がいくら良くても量産してメーカーの希望の利益を出す事が無理だったので途中で話は消えて、でも自動車メーカーは将来的にこういう方向にオーディオを持って来て、アフターマーケットを縮小させて来るという事はハッキリと分かり、2001年に店名をオーディオボックスからサウンドピュアディオに変えて、オーディオメーカーの商品に依存するのではなくて、将来的に異形パネルのナビが増えて、インピーダンスが特殊なスピーカーやアンプになる事を前提のピュアディオブランドをスタートさせました。
ただ焦ってスタートした割にはオーディオレス車が世の中には多く走っていて、それなりにのんびりしていたのが、ここ2年ぐらいで急激に純正オーディオが変わって来て、そういう製品に対応するピュアコンの開発が急務になりました。
そのためにピュアコンの精度を上げる事が必要となり、製作業務に関わる社員を自分プラス1人から2人増やして、合計4人のチームを作って対応しようとしていたのですが・・
ホームオーディオも自作ネットワークのパーツも段々無くなって来て、何も無い空のボビンに一から銅線を巻き上げるという作業が必要になって、社員に何度コイルを巻き替えさせてもこのレベルのコイルしか出来て来ません。
自分が巻き替えるとビシッとこんな感じで密に巻けるのですが・・
同じ長さの銅線を巻いてもこんなに長さが余ってしまい、仮に同じインダクタンスが取れてもQ値が違うので、同じ音にはなりません。
やっぱり自分が巻くとこうなり、「自分には出来ません。」と1人2人と辞めて行って、今はその後から入って来た女性の社員がきちんとした下ごしらえと後処理をしてくれています。
おそらく学生の時には綺麗なコイルを巻いたら将来の職業に役に立つなどの気持ちは無くて、無欲に「良い値のコイルを巻きたい!」という気持ちだけで巻いていたのが、まさか60前になってこんなに役に立つとは思っていませんでした。
他にはハンダ付けも重要な作業で、高校生の時は無線機のマイクの手前に付けるマイクアンプの基盤のハンダ付けをいかに綺麗にするか、パーツに熱を加えずにいかに綺麗な音にするかに明け暮れていて、そんなバカみたいな事が今の音造りに役立っていて、2019年の10月以降は仕事以外の時間にコイルやコンデンサやハンダと格闘していて、無線とオーディオはインピーダンスが10分の1で、コイルやコンデンサの値はちょうど1000倍で、学生時代のお金も高度な測定器も無かったのが、大人になって当時は絶対に買えなかったレベルの測定器が買えて、その共通点を極めて行ったら自然とオーディオの音も良くなって来たという感じです。
普通は1個のネットワークで済ますところをピュアディオではとんでも無い数のユニットとコイルの組み合わせでマッチングを取っていて、こういう組み合わせだめなら次はこの組み合わせという切り替えが、これまで暖簾分けしていた店では絶対に分からず、「いやいやこういう組み合わせは無いだろう。」という適当な組み合わせになるのが、元々のインピーダンスの整合性を合わせるという理論が解っていない人間が適当に勘でやっても本当の所に合わず、最低でも3級の無線工学が理解出来て、そこから桁を変えて変換しないと分からないと思います。
夏に4級の無線工学の講習を社員に行いましたが、なかなか理解が難しいものの、ピュアディオ製品の根源になっている原理原則が沢山出て来ました。
多くのお客様から、「井川さんは無線をまた始めてから音が良くなりましたね。」と言われるが多くありますが、これまでは1970年代の第2級の無線工学をベースにしてピュアディオ製品が作られていましたが、30年以上の間にこれまで無かった波長の合わせ方が見いだされて、そこをべースにして製品をリファインしているので、これまであと一歩出せなかったレベルの音が出せる様になりました。
最後になりましたが、最近のブログに付いての質問があったので追加させて頂きます。
数日前に最新のピュアコンはAモデルという井川が最初から最後まで全て組み立てている物があると書き込みましたが、逆にJU60用や特殊なインピーダンス用などの以前から自分が全て作っていた物にはAの記載がありません。
ちょっと誤解を招いたのでみんカラブログは直ぐに書き足しましたが、他はそのままにしてあったので、ここで訂正させて頂きます。
今の純正オーディオに制約が多くて、自由度が効かない分を、自分が精度の高さを持って製作する事でリカバーしていて、その状態をデッキやナビが変えられる車に取り付けると、これまで以上にクオリティーが高い音になっているという事です。