自分が20代の時の話ですが、当時は代車が2台しかなくなかなかローテーションが上手く行かなくて、お客様の職場にお車を引き取りに行ったり、納車に行ったりする事がありました。
ある日「やっと代車が帰って来たので、これからだと作業にお預かり出来るのですが?」とお客様に電話したら、その方が萩焼の職人さんで、「今は窯の温度を調整しているから職場から離れられないので、取りに来てもらえるのなら作業に預けられます。」という返事だったので、山の中の工房にお車を取りに行きました。
窯に火を入れると家にも帰らなくなって、夜中でも温度を何度も見ないといけないらしく、車に長時間乗る事も無いので、逆にその期間に作業に預けた方が助かるという事で、自分は萩焼の窯元がどんな所か興味があったので、代車に乗って行ってみたら、本当に周りに家が無い様な山の中に工房がありました。
そこは土産物用の萩焼ではなくて、茶会で使う様な高級な茶碗を作っている所で、お客様はお弟子さんで、自分が車を引き取りに行った時には師匠さんがおられました。
そしてお車をお預かりして帰ろうとした時に、後ろから『パカーン!』という甲高い音が聞こえて、びっくりして後ろを振り返ると、今焼いている窯とは別な窯から出した茶碗をコンクリとの床に叩きつけて割られているのでした!
テレビでそういったシーンを見た事がありますが、実際にその様子を見て、「売り物にならないのなら自分にくれたらいいのに。もったいないな。」と思いながら窯元を後にしました。
その後テレビで焼き物を作るシーンを見た時に、焼きむらなどで思う様な色が出なかった時は、自分の作品として世に出せないので、焼き上がりが悪かった時点で叩き割るという事を話されていて、「極めた物を作るという事は、そういうものなのか?」と思いながら見ていました。
それから30年の月日が経ち、自分はただの物売りから音楽を作る人に実際に会って、生の声や生の楽器の音を頼りに音造りに変わって来た時に、ネットワーク回路のコイルを何も無い空のボビンから巻いて行くという手法を取る様になりました。
ただし、何も巻いてない空のボビンという物が世の中には売られていなくて、市販のスピーカーに付属して来るネットワークのコイルを取って、そこから安い銅線をほどいて、一度空にしたところから一から巻いて行くという手法でコイルを作ってみました。
所が市販のネットワークのボビンは無駄にプラスチックが硬くて、音がスムーズでないために、どんなに巻き数を変えても理想の音色にはなりませんでした。
昭和の終わりにメーカーの人から聞いた話で、「コイルは信号が通ると超微弱な振動が起こり、それがボビンが硬すぎるとコイルに跳ね帰ってストレスを与えて、良いボビンは微弱振動を下に逃がすからスムーズな音色になる。」という事を知りました。
つまりボビンのプラスチックが硬すぎるとどんな純度の高い銅線を巻いても音色は良くならないという事で、あれこれと工業用のプラスチックボビンを探して、ちょうど硬さがよい物を入手して、加工してオーディオ用に使える様にしてコイルを巻いています。
そこで困ったのがこれまで手作業で一から巻いたコイルの数々で、捨てるには勿体無いけれど、お客様のお車に使う訳にも行かず、「どうしようか?」と考えていました。
その時に頭の中にひらめいたのが、自分が20代の時に萩焼の窯元で見た、お師匠さんが焼き色の悪い茶碗を床に叩きつけて割っていた場面で、「本当に優れた物を世に出すには、出来の悪い物を捨てる度胸が必要なんだ!」と思って、すべて廃棄する事にしました。
ボビンの話は極めて巻き数が少ないコイルの話でしたが、巻き数の多い機械巻で作られたコイルは、後からじわじわほどいて希望のインダクタンスに合わせて行きます。
ただいい材質のコイルだとインシュロックで縛っただけで値が変化して、このぐらいの値だと縛ったらこうなるという予測を立てながらほどいて行って、内周と外周を徐々にほどいて行って、最終的に目的の値に合わせるのでかなり微調整に時間がかかります。
20代の時には市販のネットワークをそのまま使用して、イコライザー調整などで逃げていた部分もあったので、今58歳になって、萩焼の師匠の中途半端な物は自分の名前で世に出せないという気持ちがよく理解出来る様になりました。
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