2023年10月21日土曜日、奈良県吉野郡十津川村と和歌山県東牟婁郡北山村の境を流れる立合川の渓谷に残る立合川木馬道を再び探索してきました。今回の目的は、10月14日に引き返した地点から、さらに奥へと、できる限り木馬道の探索を進めることです。
前回(3)では、ここまで進んできました。
場所はこちら。

※地理院地図(電子国土Web)に加筆。
さて、巨岩の下を通って沢を渡っていきます。
道が抉れていますが、山側寄りに歩いて越えていきます。
植林地、自然林、植林地と目まぐるしく樹相が変化していきます。
こんな斜面は滑りやすいので、足場を確かめながら慎重に進みます。
ここも荒れた場所ですが、まあ何とか通過していきます。
場所はこちら。

※地理院地図(電子国土Web)に加筆。
細い踏み跡を進みます。
ワイヤーの束が落ちています。木馬を操作するのにワイヤーが使われたそうですが、これがそうなのでしょうか。それとも索道用のものなのか、それとも全然別の用途のものだったのか。
植林地の中を進んでいきます。
平場が現れました。
場所はこちら。

※地理院地図(電子国土Web)に加筆。
用途不明の金属製の鍋。鍋底辺りには中身を出すためのものなのか、細長い口が付けらています。
散乱する酒瓶。かつてはこの場所に飯場でも建っていたのでしょうか。こんな山奥では、仕事以外ですることと言えば、お酒を飲むくらいだったのでしょうかね。
索道のワイヤーに掛けて使用した滑車でしょうか。
「ここに活動拠点があるなら、もしかしたら奥へと向かう木馬道は一旦途切れているかも。」と心配しましたが、木馬道は整地されたりすることなく、ちゃんと奥へと続いていました。
けっこう危うい場所を進んでいきます。
そして間もなく道筋が途絶えてしまいました。真下まで10mくらい切り立った場所です。この先は桟道があったのでしょうか。
場所はこちら。

※地理院地図(電子国土Web)に加筆。
進めなければどうしようもないので、迂回するために沢まで下りてきました。
先ほど立っていた行き止まりの場所を見上げています。丸印を付けた場所です。
見えにくいですが、写真中央部の岩場に石垣があります。木馬道の続きです。
岩場にスプレーで丸印が付けられています。そしてその先に生えている木にも赤色のペイントがあります。ここが迂回路のルートであることを示すサインと思われるので、矢印のように入り込んでいきます。
斜面を見上げると、やはり石垣が続いています。目印を参考に、登りやすいルートを探しながら斜面を登ります。
無事に木馬道へと復帰しました。木々が生えていて、手がかりや足場の多い斜面で助かりました。
所々、岩場を切り取り工で削りつつ、石垣道は続いていきます。
また変な育ち方をした木に遭遇しました。なぜこんな育ち方をしたのか…。
ここの岩もきれいな断面をみせています。割ったり削ったりしようとすると、きれいに剥離しやすい岩なのでしょうか。
路面が崩れて、岩場に狭い足場だけが残っています。ほんの短い距離ですが、足の置き場、運び方をいちいち考えながら、岩壁に手を添えてバランスを崩さないように慎重に渡っていきます。
まだ、こんなガレ場の方が安心して歩いていけます。
狭い回廊のような崖道が続きます。
この木馬道を歩いていて、初めて岩盤を開削した切り通しに出会いました。
切り通しの先も崖道が続いているようです。
路面に段差ができています。左側は高い絶壁。注意しながら段差を上がります。
クランク状に木馬道が続いています。
直線の突き当りまで行き、そこでゆっくりと左方向へと体の向きを変えました。切り通しからそこまでは、多少はビクビクしながらもまだ大丈夫でした。
そして進行方向を見据えます。目に入ったのは、とても細く凸凹な路面。そして、何よりも底が見えない奈落…。ここで一気に恐怖心が湧いてきてしまいました…。
場所はこちら。

※地理院地図(電子国土Web)に加筆。
一度恐怖心が湧き上がると、もう冷静でいられません…。強烈な動揺が体を硬直させます。少しでも落ち着くために、背後の岩壁に背中をくっつけて体を固定します。
そんなことをしながらも、まだ「ダメか?いや、行けるかも。」と逡巡はしていました。もう少し「緩い」場所なら、時間をかけて何度も頭の中で通過のシミュレーションをしているうちに、多少なりとも心は落ち着けたかもしれません。
しかし、今立っている場所は、すでに危険な場所の只中です。そんな場所で恐怖心に捕らわれてしまいました。大げさな話かもしれませんが、この状態では進むどころか、ここから切り通しまで引き返すことすら怪しいです…。
進むべきか、戻るべきか、どうすれば落ち着くか等々、いろんな事をグルグルと考えていましたが、いつまで経っても動揺は全然落ち着きません。
出した結論は「四つん這いになってでも、とにかくこの場から引き返す。」。こうなれば、切り通しまで引き返すことだけに集中します。
すり足で切り通しがある方向へゆっくりと体を向き直します。あとは動揺する気持ちを何とか抑え、「大丈夫、大丈夫。」と自分に言い聞かせながら、一歩一歩慎重に戻っていきます。
ひとまずは安全圏内まで引き返すことができました…。
その場にいた時は5分くらいは経っていたと感じていましたが、撮影時刻で確認すると、切り通しから直線の突き当りまで歩き、立ち尽くして、そしてこの写真の場所まで引き返すという行動にかかった時間は、12時28分から12時30分までの、ほんの2分程度の出来事でした。
奥地まで踏破した方の記録によると、おそらくこの写真の先で、十字型の鉄梯子で岩壁の上方へと迂回するルートに遭遇するはずでした。さすがにそんな場面を通過できるだけの技量も経験も度胸もないので、そこが今回の探索の終点になると踏んでいましたが、結果的にはその場所にすら辿り着けませんでした…。
今までにも、こんな場面で引き返したことはいくらでもありました。気持ちとしては、想定した場所まで辿り着けなかったことは残念な事ですが、こういう時は、「安全第一、安全第一。命あっての物種だよね…。」というようなことをつぶやきながら帰ります。
まずは立合川橋まで無事に戻ってきました。
さらに有蔵トンネルを通過し、車まで戻ってきました。
前回引き返した地点から、今回引き返した地点までのルート図です。今回の総歩行距離は9km、6時間の探索でした。

※地理院地図(電子国土Web)に加筆。
さぁて、どうしたものか…。自分が決めた「終点」まで残した距離はおそらく50mから100m程度。その距離を再アタックするためだけに、車で片道4時間走行して、さらに片道4.5kmを歩かないといけません(笑)。
引き返した場所へ行ったとして、次はちゃんと「通過できる」とは限りませんから、徒労に終わることも想定しておかないと「精神的な疲労感」が半端ないことになります(笑)。まあ、またやる気が起きたら行ってみますかね。この木馬道の道中自体は楽しかったですから。