
少し古いネタで恐縮だが、今年行われたショパンコンクールで、今回はじめて公式ピアノになったイタリアのピアノメーカーFAZIOLIを演奏したDaniil Trifonovが3位に入賞した。
ピアノメーカーとしてのFAZIOLIは1981年に誕生した新参のメーカーであるが、Steinwayを超えるピアノ作りをめざし、その楽器としての実力は高く評価されてきた。今年はついにショパンコンクールの公式ピアノとしても採用された。
このピアノ、実は私にとっては非常に縁深いピアノである。
というのも、私は千葉市美浜区につくられた公共音楽ホールの設立に関与し、そのホールに日本で2台目(東日本では最初)のFazioliを入れることに奔走した張本人であるからである。
日本のクラッシックの世界において、ホールのピアノはほぼSteinwayが独占し、そのサブピアノとしてヤマハが入っている状況であり、この2つ以外はなかなか認められない状況であった。ピアニストもその二つ以外は拒否反応を示すことも珍しくない※。
音楽ホールに入れるとするなら当然Steinwayとなるところである。だが、そんなどこにでもあるピアノを入れても面白くない。他と全く異なるコンセプトでつくられる街に相応しい、新しいコンセプトを持ったピアノを導入したいと考えた。
そんな中、全く日本では知られていないがやがて頂点に上り詰めるであろうFazioliを紹介し、導入への働きかけを開始した。
誰も知らないピアノだけに当然反対も根強かったが、海外での評価やまったくFazioliと関係のない(むしろヤマハと関係の強い)有名ピアニストの賛辞などを紹介しつつ、バブル崩壊後でほとんどない予算を逆手にとった。都合よく新古品が購入可能であることをあげ、楽器としても予算面からも賛同を得た。
定価1500万円に対して行政側の予算がわずか120万円しかないという圧倒的予算不足から、われわれ市民自身による募金とコンサート運営でまかない導入にこぎ着けた。
そんな苦労の末に、千葉市の幕張ベイタウン・コアにFAZIOLIはある。
音楽ホールと言えばバブル時代の箱物行政の悪しき象徴ともなっているが、コアは市民がコンセプトをつくり設計者と共に創り上げ、ピアノも市民自身が選び、購入し、管理するFAZIOLIが導入されている極めて特殊な事例である。
幼稚園児から第一線のプロまでが弾いている。
このピアノの調律を担当するのは越智晃氏。まだ若いが、冒頭のショパンコンクールのFAZIOLIの調律を任された、100万人に一人の逸材とFAZIOLIの社長パオロ・ファツィオリ氏に認められているその人である。
FAZIOLIを通じて縁深かった今回のショパンコンクールは、自分にとってこれまでとは全く違うコンクールであった。
※ バイオリンなどと違いピアノは持ち運ぶのが困難であるため、各ホールのピアノを演奏をすることになる。個体差や管理の善し悪しは存在するが、慣れているピアノであればそれほど違和感なく弾くことができるため、ピアニストとしては弾きなれているSteinwayが良いのは当然とも言える。また、Steinwayは技術がなくてもある程度きれいに音を出すので、ボロ隠し的な面もないとはいえない。
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2010/11/14 21:59:39