生物で化学合成細菌(亜硝酸菌、硝酸菌)を扱う度に少し話をするのが、火薬の生産だ。
火薬の材料には硝酸カリウム(天然に硝石として産出するものがよく利用された。チリ硝石が有名)を用いる。しかし、日本では湿潤の気候のために硝石が産出しない。火縄銃伝来以前からも日本では火薬が使われていたが、硝石は輸入に頼っていた。
しかし、硝酸カリウムは、意外なところで採れる。それは、人家の床下だ。
人家には汲み取り式便所があり、糞便が腐敗しアンモニアが発生する。アンモニアが周辺の土中にしみ出し、そこにいる亜硝酸菌によってエネルギー源として酸化利用され、亜硝酸が生じる。その亜硝酸が今度は硝酸菌に利用され硝酸が生じる。
この硝酸は、水に溶けた状態で硝酸イオンであるが、カリウムイオンと結びついて硝酸カリウムになる。これを利用したとか。
こんな話をかいつまんでしている。
この話を最初に知ったのは確か 学研の科学 5年生か学研のひみつシリーズのどれかと記憶している。
アンモニアがらみでは、化学でハーバー・ボッシュ法、オストワルト法(これらを合わせて空気中の窒素からアンモニアを合成し、硝酸を生産する)を扱うとき、第一次大戦時のドイツが空気から火薬を作り出すと恐れられたという話もする(同時に肥料にもなるという話もする)。この話も学研のひみつシリーズで扱っていたような気がする。
ただ、こんな話をしても生徒の知的レベルや興味の方向に依存するので、うけるかどうかは相手次第だ。進学校だと「テストに関係ない」とどうでもいいという顔をされがちで、非進学校だと授業をお笑い番組と勘違いしているので、教養的な話どころか授業の内容をそもそも聞く気がないのが大半だ。
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ちなみに、硝石が輸入できなかった鎖国時代の硝酸カリウムの製造法は、Wikipediaによれば次のようなものであったらしい。
厩肥、漆喰か木灰、藁などの有機物を混ぜ、およそ高さ1.5メートル、幅2メートル、長さ5メートルほどの塊を作る。覆いをして雨などで濡れるのを避けながら尿を掛け、分解を促進させるために度々かき混ぜる。およそ1年後に水で溶かして液状化する。その液体には様々な硝酸塩が含まれるが、木灰をカリウム源とし、硝酸カリウムが 温度による溶解度の変化が大きいことを利用し加熱後、冷却をすると 結晶化によって析出出来る。その後火薬原料として使用に供される。
(
Wikipedia 硝酸カリウム)
江戸時代の越中五箇山(現在の富山県南砺市)や飛騨白川村では、積極的に硝酸イオンを蓄積させた焔硝土を用いて硝石を生産していた。焔硝土を用いる硝石の生産方法は、1811年(文化8年)に加賀藩の命令によって五十嵐孫作が提出した「五ヶ山焔硝出来之次第書上申帳」に最も詳細に記されている。主としてこの文書によると、合掌家屋のイロリ近くの床下を掘り下げてヒエの茎・葉を敷き、その上に良質の畑土、蚕糞、麻の葉・タバコの茎など栽培植物の不要部分、ヨモギ・アカソ等の山草を積み重ね、その上に人尿を散布して焔硝土を調製する。焔硝土から水で硝酸イオンを抽出し、抽出液を木灰で処理し、濃縮した後冷却すると硝石が析出する。この方法は毎年の再生産が可能な優れた製造方法であった。
(
Wikipedia 火薬)
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Posted at
2014/06/28 21:37:18