例年、地元のジュニア合唱団の定期演奏会のお手伝いをしているが、ちょっと前から音響だけでなく照明関係も手掛けている。
今回、賑やかな演出をしたいとか、ディ×ニーを取り上げるので○ッ○キーのシルエットを投影したいとか、いろいろな要求があった。
照明は、お金さえあればいくらでも派手で複雑な演出ができるが、残念ながら予算はたったの1万円。機器のレンタルすらできない。
地元ホールは生音重視で作った関係で照明に関しては最低限である。吊りのスポットが36基あるが、2灯同時制御であるため細かな制御ができない。ホリゾント幕もなく、ホリゾントライトによる演出なんかも当然できない。
そして、舞台には80人が乗り、センターのソロあり、下手のナレーターあり、フルコンサートグランドFAZIOLIを使うだけでなくパーカッションやギターキーボードなどのバンドがいるので、照明を当てる対象が客席部分にまではみ出してしまう。これらに光を当てるだけで精一杯で、色を使って何かするような演出はとても組めない。おまけに7灯は電球が切れていて、千葉市にはそれを交換する予算がないという悲惨な状況。
そこは知恵で乗り切るしかない。
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貧乏人が音響や照明に手を出すなら、成田のサウンドハウスのお世話になることになる。いろいろな機材が揃えられ、結構安い。
今回は、ホールがそこそこの大きさであることから少し大きめの40cmのミラーボールとモーターを購入。
そこにモーターを吊るための金具関係や電源関係を加え、すでに1万円を少々突破。
赤・青のスポットを当てて、ここ一発にはそれなりに派手な雰囲気は作れそうだ。
しかし、照明効果が一種類というのはあまりに寂しい。
プロジェクターを使った投影も考えたが、強力なプロジェクターはないので舞台のベタ照明に負けてしまい、効果が薄い。DLPではないので暗くすると舞台の壁が四角くうす明るくなってしまって興ざめである。DLPは目を動かすと虹色が見えてしまうので気分悪いし。
そこで、スポットにゴボ(投影用の型)を仕込むことを考えた。
通常、ゴボはステンレスやガラスを使って製作される。業者はいくつもあり、オーダーメイドできるが、万単位である。そんな予算は当然無い。
だが、「俺はやるぜ」と心に決めた。
照明に組み込むので、熱線カットできるダイクロイックミラーを使った照明でも耐熱材料でなければならず、金属板しか選べない。
低予算で何とかするには、ホームセンターや100円ショップで安く手に入れられる材料を用い、加工するしかない。
アルミ板をくりぬけば単純な模様は作れるが、直径5~6cmの型が拡大投影されるので相当精緻な作業が必要となる。手作業では直線で構成された単純な模様を作るのがせいぜいだ。
レーザー加工に出せば精密な加工ができるがそんな予算はない。ポケットマネーで出せるほど余裕もないしそこまでの義理もない。
金属板なら、溶かせばいい。
真ちゅう板は有害な銅イオンが出るのでやはりここはアルミ板である。アルミニウムイオンは鉄イオン同様普遍的に土壌中にも大量に存在する。
そこで、PC上で模様をデザインし、カッティングプロッターで塩ビシートをカットしてマスクにし、塩酸で溶かすことにした。塩酸も、約10%の溶液であるサンポールの類なら容易に入手できる。
しかし、アルミ板は表面をアルマイト加工されているので、簡単には塩酸に溶けない。サンダーで表面を削ってもまだうまくいかないほど結構厚みがある。酸化アルミニウムは透明な膜で、ルビーサファイヤと同じである。モース硬度9でダイヤモンドに次ぐ硬度。加工には実に邪魔な存在なのだ。
プリント基板でおなじみのエッチング液(塩化第二鉄溶液)を使えば溶かすのは容易かも知れないが、コストの問題と廃液の後始末(銅を溶かさなければ神経質になる必要はなさそうだが)を考えるとやりたくない。
ならば、電気の力を借りることにした。酸化アルミニウムも電子を与えれば還元されてアルミニウムに戻る。
電解液に金属板を2つ入れ、電源につなぐと、陽極の側の金属は電子を奪われ、イオンとなって溶けていく。
これでいくとみるみる溶けていった。
しかし、金属板全体が均一には溶けない。ムラが出る。溶けやすいところはマスクをするなどしてうまく管理しないと部分的に溶けすぎてしまう。広い面積は溶かしにくい。広い面積部分は輪郭のみを溶かすなどの工夫も必要になる。
複雑すぎる模様はうまくいかない。デザインを変え、何度かトライ。せっかく作った偽シンデレラ城とガラスの靴のデザインはボツにした。
短い時間の中で作業上の問題をそれなりに克服し、ようやく何とか実用になるものができた。

ミッ○ーマ○スのシルエット? いやいやこれはあくまで水分子だ。誰が何と言おうが水分子だ。
模様が多くなるほどきれいに抜くのは難しいが、なかでも文字はかなり難しい。溶けムラも出るし、厚みを溶かしきる前に広がって溶かしてしまったりするので、管理を相当厳密にやらないとならない。本番はちょっと溶かしすぎてしまった。かなり慎重にやった文字のみのテスト版の方がきれいに抜けた。材料費の問題で何度も作り直せないので、納得いかないながらも最後の修正をかける程度で、これで行くことにした。
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切れている照明については、我々がコンサートを通じて稼いだ予算を使って電球を買い寄付をすることで千葉市の了解が取れた(音楽ホールを千葉県から受け取っていながら管理することもできず最低限の予算もつけないクセに、何故寄付を受けることすら拒むのか?)。
今日、ホール吊り照明の切れた7個の電球の交換作業と一緒に、ソースフォーというゴボを組み込めるスポットライトに入れてテストをしてみた。
拡大されるのであらは見えるがきれいに投影できることが確認できた。
熱で変形することもなく、何とか本番も乗り切れそうだった。
業者に出せばウン万円を、わずかな時間だけで、材料費数百円でやったのだから、多少粗くてもやむを得ない。
ネットでも、自分で複雑なゴボを製作した例というのは見かけないので、そんなことにトライする人は少ないのだろう。金属板を電気分解で加工して抜いた例もほとんど見かけない。エッチング液を使って表札や印鑑を作る例は多いのだが、今回のような精度を要求される加工は見かけない。
何もかも手探りの状態で、わずかな時間でここまできたのだからまあいい方だろう。
本番では1曲わずか数分投影するだけだが、巨大なシルエットの投影効果は充分ありそうだ。
まさか予算1万円少々でここまでの演出をやっているとは思わないだろう。
少し楽しみになってきた。
追記:
このページが参照されているようだが、最近は塩化第二鉄によるエッチングでゴボを製作している。プリント基板の製作などを参考にするとよい。
(追記ここまで)