山賊の娘ローニャというアニメ作品が現在NHK BSプレミアムで放送されている。
放送開始時に、まったく予備知識なく1話を少しだけ見たが、
・3DCGだけど、人物や動物の動きの表現力は随分上がっているなあ。ぱっと見はセルアニメっぽくよくできてる。しかし……。
・わー、3DCGで子どものキャラを描くと、動きや表情がなんか無機質でものすごく不自然。
・頑張ってはいるけどやはりセルアニメ風処理は違和感が強い。
・話が間延びしているし、絵のせいもあるのかキャラクターに親近感を感じない。
・子ども向けアニメに山賊って、ありなのかなあ。
・見ているのがつらいなー。
等々と思い、1話見きることなくやめてしまった作品。まあ1話で切ったからと言ってその作品が悪いとは限らない。SAOも、実は1話の途中でつらくなってやめている。1話見きればぐいぐい引かれていただろうが。
しかし、この作品についてはどうにもよい評価を聴かない。
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その後知ったところでは、宮崎吾朗監督作品だとのこと。宮崎駿の息子にして、「ゲド戦記」で監督デビューし、宮崎駿脚本参加で「コクリコ坂から」を送り出してきた吾朗氏であるが。
今回のローニャも含め全て原作もの。しかし、ゲド戦記は評判が悪く,内容改変で原作者からもクレームが付く始末。コクリコ坂はそれなりの成功作になっているようだ。
アニメーションとしては三作目になるローニャは、今回ジブリ外で監督を務める彼にとって重要な作品になるはずだが、どうも評判が悪い。先ほど最新話を見てみたが、やっぱりつらい。
原作は「長くつ下のピッピ」等で知られる児童文学作家アストリッド・リンドグレーン。ちゃんとつくればそれなりになるはずの作品。それをかなり原作に忠実になぞっているらしい。
ならば、見せ方を間違っているのだろう。なんといっても3DCGが不自然に感じる。
リアル方向にフルほど不気味の谷に落ち込むが、セル画調にすると、工夫を重ねないと自由度の高い絵表現のあるセル画との違和感がつきまとう。
ローニャのそれは、たとえて言うなら、目が全く動かず表情がない着ぐるみのリカちゃんを見るような感覚なのだ。もちろんそれよりは遙かに巧みに作り込まれているのだが、よく言っても大根役者が指導されずに演技をしているかのような見ていられなさがある。
背景は完全に2次元なのに、3Dでモデリングされたキャラクターは動くほどに立体物に見える。紙の背景の前で人形を動かしている感があり、これは違和感の原因の一つだろう。
同じフル3DCGでも、あくまで無機質に見せていた「シドニアの騎士」は3DCGの特性を逆手に取っていたように見えるし、「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」は色使いのうまさ、動きへのこだわり、アップやぼかしなど様々な手法で動画から3Dモデルらしさを消し、セルアニメ的魅力を作り出している。
セルアニメ風に処理しているにもかかわらずそういうこだわりや工夫がローニャにはあまり感じられない。それだけにいくら動きがよくても違和感が目立つ。
3Dでやるなら徹底的にセルアニメに似せるか(既にかなり技術がある)、セルアニメとは縁を切り、もっと大胆に造形を変化させて3DCGならではのやり方を目指さないとダメなのだ。米ピクサーはこの点よく分かっているのだろう。
それにもかかわらず、ローニャではストーリー展開が妙に遅く、その分3DCGでキャラクターが動く様子ばかりやたらに見せられる。そこが見ていられない部分だけに、ついて行けない。
背景はすばらしく、普通にセルアニメでやればもっとキャラクターが生きただろう。
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何で無理のある企画が通ってしまったのだろう。
セルアニメ調3DCGが適している作品とも思いにくい。
また、原作に忠実にやることになっているらしく、2クールでやるほどの中身が原作にはないので間延びになってしまうらしい。
厳しい条件で、そこを面白く惹きつけるものに仕上げるには絵コンテ段階でかなり頑張らねばならないだろう。しかし、その力量は吾朗氏にはなさそうだ。
吾朗氏は担ぎ上げられてアニメ業界に入った。アニメ業界でたたき上げてきたわけではない吾朗氏にアニメ監督は酷な気もするし、企画の問題は吾朗氏の責任ではないかも知れない。しかし、絵コンテを描いているのは彼のはずで、見るのがつらいアニメにしてしまっている責任は確実に彼にあるだろう。
宮崎駿の息子として、年齢が上がってから経験もなく同じアニメ世界へ担ぎ込まれ、様々なプレッシャーと批判にさらされ続ける吾朗氏は気の毒には思う。しかしそれも結局は彼の選択だから、何とかやっていくしかないのだろう。
それにしても、なぜ困難の多い企画の監督をやることになってしまったのだろう。「ジブリを出て武者修行」と言われているらしいが、経験の積み方がおかしくはないか。もう少しライトな企画を多くこなしていけばよいのに。
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ところで、最近のアニメでは3DCDは当たり前に使われるようになっている。メカ類を中心とした使われ方からどんどん広がっていて、フル3DCGも制作されるようになってきた。アニメ製作における3DCGは制作費削減の決め手で、もはや止まらない方向性らしい。
3DCGでも伝統的なセルアニメのように見せる技術力はますます高まるだろう。
ただ。それがコストダウンのために進んでいる方向であるので、創作物としての出来とは関係がなく、むしろ低コストで乱造される方向がますます強まるのかも知れない。
ラノベ原作の、1クール尻切れトンボみたいなアニメばかり量産されても仕方がない。
アニメの製作のあり方を変えていかないと、海外の作品に押されてどんどん尻つぼみになっていきそうだ。