最近は話題に上らないのでよく分からないが、以前は現場の研究者から非常にきらわれていた、元村有希子毎日新聞記者(現 東京本社編集編成局デジタル報道センター編集委員 兼 副センター長)。
ゲーム脳というトンデモを新聞記事を介して広めたことでよく知られる。文系出身で自称高校まで理系。研究経験もなく、サイエンスの基本を分からないまま科学環境部の記者になったらしい。その状態で科学予算関連の委員なんかやるので、研究者からかなり嫌われていた。サイエンスが理解できておらずトンデモ記事を平気で書く人間なのに、メディアにいるだけで本質とは違う評価がついて回る。そんなのに重要な予算を左右されてはたまらないと言うわけだ。
たまたまググっていて、気になるものに出会ってしまったのでこのエントリーを書いている。
http://mainichimediacafe.jp/eventarc/7/
(以下引用)
いま話題のSTAP細胞ですが、記者として興味があるのは、「STAP細胞があるか、ないのか」。大きな可能性を秘めた発見が、論文の作法を守らなかったばかりにつぶされてしまうのは残念です。小保方さんのように「コピペのどこがいけないんですか」という科学者を見ると、こうしたケースは氷山の一角ではないか、と思うのが記者の性分。かつて「ヒトクローン胚ES細胞作製」を捏造した韓国の大学教授がいました。iPS細胞から心筋を作って患者に移植したと発表した森口さんは、山中伸弥教授に対抗意識を感じていたようです。研究者には牧歌的なイメージがありますが、現実は違う。大学教授ポストなんて狭き門で、不正が起こりやすい素地はあるんです。
「どうして見破れなかったのか」と聞かれますが、有名雑誌に投稿された論文の審査は、性善説に立ちます。だから、意図的にだまそうと書かれた論文のウソを見抜くのは難しい。我々は、その研究が本当かどうか検証できないので、有名な雑誌に載ることを一つの判断基準にしてきましたが、今回のことは教訓を残しました。論文を読んだ専門家がみんな、「内容がすごい」「共著者もすごい」と絶賛していたことも補強材料になりました。
(引用ここまで)
2014年4月時点でサイエンスライターを名乗る者がこの認識はあり得ない。そもそも日本のサイエンスライターを名乗る人は、報道出身の人が多く、研究歴のない人が多い。欧米とは専門性のレベルが全く違う。
さて、1月30日のSTAP細胞の発表後、さほど時を置かずして様々な論文上の疑義が指摘された。また、簡易な手段で作成できることが売りだったはずが、多くの追試によって実験に再現性がないことが明確になってきていた。
指導教官のバカンティも、以前からうさんくさい人物として知られていた。
3/5に、再現性を高めるための実験手順を理研が発表した際、その中で、論文の根本的なSTAP現象の根拠であるはずのTCRの再構成が明確に否定されていた。根本的に論文が成り立たない状況であったわけだ。
しかし、理研としては何とか論文の修正で逃げようという姿勢が強かった。データレベルで論文が成り立たない(STAP細胞が存在しない)ことを認めようとしない理研上層部に業を煮やした理研:遠藤高帆氏によって小保方サイドが提出しているDNAシーケンスデータに重大な問題があることが公表されて、根本的な問題が多くの人の目に触れるものになった。
更に、3/10にはTCR再構成を理研自身が否定したことで若山氏が論文の取り下げを共同著者に呼びかけている。
4月は、分子生物学以外も含めサイエンスクラスタが、撤回をせず、無駄な再現実験をして税金を無駄にし、問題を曖昧にしようとする理研を強く批判していたころだ。
この時点で
「記者として興味があるのは、「STAP細胞があるか、ないのか」。大きな可能性を秘めた発見が、論文の作法を守らなかったばかりにつぶされてしまうのは残念です。」
とはピントがずれすぎだ。既に1ヶ月以上前に、根本的に研究が成り立たないことが明白だった。このころ作法の問題だと思っていたのは、科学が分からない人たちだけだった。元村氏も同様だったことになる。
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「「コピペのどこがいけないんですか」という科学者」というのは一体誰のことだろう。こんなことを真顔で主張していたのは、自らの利益のためにトンデモ発言/トンデモ著作を続ける武田邦彦しか知らない。
それをまともに受け取っていたとすれば、根本的にものが見えていない。
小保方氏もコピペのどこがいけないのかという発言はしていなかったはずだ。
コピペ容認論は主に文系の学者等に広く見られた。彼らの世界では当たり前のことなのかも知れない。少なくともサイエンスの世界では御法度。容認などあり得ない。
「大学教授ポストなんて狭き門で、不正が起こりやすい素地はあるんです」
これは事実。ただ、それは早稲田等で次々と明らかになった捏造・盗用問題とは別次元の問題。指導側自体に大きな問題を抱えていた。開き直って何がいけないのかと主張している例は知らない。
毎日はその後、STAP細胞についてかなり真に迫ろうという取材と報道をしていった。私のブログの引用記事(例によって毎日のサイトでは既に読めない)では「八田浩輔、須田桃子」の署名がある。この時、元村氏は科学環境部には在籍していない。
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見破れなかったことについては、おおよそ元村氏の言う通りだ。だが、3月に入ってすぐ、STAP細胞は実在しないことを多くのサイエンスクラスタは確信していた。ES細胞であることもデータから明らかだった。
4月時点であの発言では、まったく関心を持っていなかったとしか言いようがない。科学環境部を離れていたからというのであれば、そもそも発言することに問題がある。
科学を語るに相応しい人かどうか、内容を見ればよく分かる。彼女の視点はあくまで文系の記者のそれにしか見えない。
STAP細胞論文のネイチャー掲載を疑いなく掲載したことを大いに反省した日経サイエンス古田氏らが精力的に取材し、2014/6月のものを皮切り、何度も誌上に優れた検証記事を書いている。ツイッターでも精力的に発言していた。
http://www.nikkei-science.com/?tag=stap%E7%B4%B0%E8%83%9E
元村氏はその後小保方氏を批判する発言をテレビ番組などでしていたようだが、詳細は分からない。
以下の記事を見るとSTAP細胞の件を追いかけた須田氏と元村氏がSTAP細胞の件について喋っているが、やはり科学の裏付けがない元村氏の発言は軽い。
http://mainichi.jp/premier/business/entry/index.html
そもそも、元村氏は科学環境部を希望したのではないらしい。
科学の素人をして科学を伝えさせる。
素人視点で書けば、素人に分かりやすいものができると人事サイドは考えたのだろうか。
だが、往々にして科学への理解の浅さが根本的な間違いを含む報道につながる。
新聞というメディアがその程度でよいのであれば、それでいいのかもしれない。彼女に個人名で本を書かせるのなら構わない。だが、新聞というメディアにいる以上、社会的影響が大きすぎる。元村氏は科学を知る記者としてあちこちに引っ張り出されている。彼女の間違ったとらえ方が肯定されてしまうのだ。
彼女は、安易な人事を行った会社の犠牲者と言うことなのかも知れない。
新聞社というのは、(非正規社員を除けば)記者のミスに寛容である。どんなに社会的に負の影響が大きかろうが、それで死人が出ようが、会社によって保護される。周産期医療を崩壊させようが、話題になれば賞すら与える。外部から非難をされれば配転で雲隠れさせる。
営業的利益が生じればすぐれた記事とされる。
およそ信じ難い世界と感じる。
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STAP細胞以外の部分に、信じ難いものがあった。
原発事故の件である。
12日午後に1号機が水素爆発した時、建屋から煙が上がるのを見て、私たちは「これがベント(炉内の圧力を抜く作業)」と思いました。が、実は爆発だったんです。 |
私はこの頃ツイッターを通じてサイエンスクラスタ等から多くの情報を得ながら、ほぼリアルタイムで状況を確認していたが、映像を見て明確な水素爆発としか捉えていなかった。以前から水素爆発の可能性は示唆されていたのだ。
衝撃波が生じているのを見て、ベントだなんて思えるのは頭がおかしい。
報道の人たちの認識の甘さは一体何なのだろうか。当時の報道のお粗末さはどうしようもないものだった。記事を書いている人間が何も分かっていないから、ただ誰かの発言を垂れ流す。間違っているかどうかの裏をとる努力をしたのかどうかもあやしいものが散見された。
科学リテラシーと情報リテラシーを持っているものだけが、事態を把握できていた。
報道にはそう言う人間がいなかったと言うことだろう。