生物進化の歴史を扱う上で、過去のことはかなり推論によってしまう問題がある。
生物誕生のプロセスなど全く分からないし、化石に残っていない生物のことも全く分からない。
化石が残っていても分からないことはいくらでもある。
1990年代から、中国の遼寧省で様々な恐竜化石が見つかり、度肝を抜かれるような新発見が相次いだ。羽毛恐竜の存在が明らかになり、恐竜のイメージが大きく変化すると同時に、鳥が恐竜の生き残りと位置づけられるようになった。
東京書籍の4単位の生物の教科書では、コラム扱いで、羽毛恐竜と鳥について扱っている。あまり深い記述はないが、ジュラ紀の共通祖先から羽毛をもつティラノサウルスの系統と風切羽をもつ始祖鳥、4脚に翼を持つミクロラプトルの系統、孔子鳥の系統、現生鳥類の系統に分かれた簡単な系統図が示されている。
ジュラ紀や白亜紀には多系統で様々な翼を持つものが存在し、これまでのように始祖鳥を鳥類に含める積極的理由はなくなったとしている。
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始祖鳥は長く鳥の祖先として扱われてきたが、羽毛恐竜が多数見つかったことでその地位は揺らいできた。2005年の論文(Science 310, 1483-1486, 2005)で足の特徴が恐竜と同じであることがわかり、鳥類ではなく恐竜類にいれることが提唱され、比較的受け入れられてきた。上記の教科書も時期的にその影響を強く受けている可能性がある。
2013年には始祖鳥より早い時期のより恐竜に近い鳥類化石とするものが発見されている。
始祖鳥はやはり鳥類であるという議論が再燃したりもしているらしい。
このあたりは、じつは鳥類の定義の問題であり、始祖鳥の位置づけは曖昧さがある。
このあたりの事情はWikipediaにも書かれている。
系統学的には通常、鳥類は現生鳥類と始祖鳥 (Archaeopteryx) の最も近い共通祖先 (MRCA) の子孫のすべてであると定義されている[19]。始祖鳥(1億5,000万年ごろのジュラ紀後期[10])は、この定義のもとで最も古い既知の鳥である。一方、ジャック・ゴーティエやフィロコード (PhyloCode) システムの支持者たちは、鳥綱を現生鳥類だけを含むクラウン生物群として定義している。これは、化石のみで知られるほとんどのグループを鳥綱(鳥類)から除外し、代わって、鳥類およびそれらを 鳥群 (Avialae、「鳥の仲間」[20])に位置づけることがなされている[21]。これはひとつには、伝統的に獣脚類恐竜と考えられている動物との関連における、始祖鳥の位置づけについての不確かさを回避するためである。
Wikipedia 鳥類
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B3%A5%E9%A1%9E
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鳥類は恐竜である獣脚類の生き残りであり、その点ではハ虫類の一派と言える。しかし、鳥類を別に定義しているので、現状、鳥類をハ虫類とするのも困難がある。
始祖鳥は現生鳥類の直接の祖先ではないし、白亜紀に現れた現生鳥類は同じく白亜紀にいた孔子鳥とも系統が異なる。ジュラ紀から白亜紀にかけて、さまざま翼を持つ種や系統が現れ、そのいずれかが現生鳥類につながったと考えられる。
始祖鳥も含め、ジュラ紀の初期の翼を持った種は後脚にも翼を持っていたらしいことが分かってきている。そのうち前肢のみを翼として発達させたグループが孔子鳥のグループや現生鳥類のグループになっていったらしい。四肢に翼を持つ白亜紀のものとしてはミクロラプトル・グイがよく知られる。もちろんこうした系統は中生代の大絶滅を乗り切っていない。

ミクロラプトル・グイ
http://www.dd-lib.net/sort/kobetsu.cgi?sn=1233574963_537590628
化石でしか存在しない、現生鳥類とは別系統の翼を持つ仲間を現生鳥類とは区別するのがもっとも分かりやすいが、それに近い分類として、鳥類を古鳥類と真鳥類とに分けることも行われているようだ。
上はWikipediaのテンプレートとして登録されているもの。Avesとは鳥綱(いわゆる鳥類のこと)。Avesの定義では鳥類に始祖鳥を含むことになっている。この伝統的な分類ではかならず始祖鳥が含まれるのであって、始祖鳥が鳥類か獣脚類かという議論そのものが存在しないことになる。
始祖鳥はどうも羽ばたいて飛ぶほどの風切り羽の強度をもっていなかったようだし、風切り羽の重なり方も羽ばたきには向かない構造。関節が翼を充分に上げられない構造の上、羽ばたきに十分な筋肉をもっておらず、羽ばたきによる飛行は樹分できなかったらしい。ただし化石のCTスキャニングで大きな脳を持つことがわかり、飛ぶための処理はできたとも言われている。
始祖鳥が鳥と言えるかどうか議論があるし、伝統的な鳥類の定義で始祖鳥を入れてしまっていることが、始祖鳥に近い様々な羽毛恐竜たちが獣脚類なのか鳥類なのかについて大いに混乱することになる。4つの翼を持つミクロラプトル・グイは獣脚類であるが、おそらく空を滑空ないし羽ばたき飛行することが出来、始祖鳥よりあとに出てきているのだ。
一方、鳥群
(Avialae)という分類も提唱されている。これは恐竜の中の分類で、デイノニクス(Deinonychus)より鳥類に近い獣脚類との定義が一部では受け入れられているようだ。
上もWikipedia 鳥群からの転載。
この定義では翼を持つ化石鳥類たちは恐竜の中に置かれ、鳥類(Aves)は、現生鳥類とその子孫すべての共通の祖先とするという定義になった。
この定義では始祖鳥(
Archaeopteryx)は鳥群であるが、鳥類から外れることになった。
更に、始祖鳥はAvialaeからも外れるという研究が2011年に出ている。ここではデイノニコサウルス類に分類されている。
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しかしながら、鳥類は明らかにハ虫類の一派であると考えられているので、ハ虫類の中に入れてしまう提案も当然出ている。
http://natural-history.main.jp/Algae_Column/Etcetra/Bird/Bird.html
から引用
この分類が定着するか否かは分からないが、分岐学の立場に立てば妥当だとしか言いようがない。
現生鳥類の系統を鳥類としてしまうか、ハ虫類の中に組み込むかいずれかに収斂していくものと思われる。
すくなくとも始祖鳥を鳥類の定義にいれているようでは、混乱するばかりであろう。
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生物 | 日記
Posted at
2016/05/28 19:33:43