メモ置き 転載2件
STAP細胞がES細胞である可能性についての、若山氏に渡された細胞がES細胞でEpiblast stem cell様の状態であったために胎盤分化能を持っていたのではないかという指摘。すこし興味深かったが、元のサイトのコメントでの議論のように、胎盤分化能があるのかどうかは不明。
結局以前の話のように、コメントにある「STAP細胞が胎盤に貢献したと言われているが、それがtrophblast系列である証拠は示されておらず、ICM、epiblastに由来するextraembyonic mesodermが光っているのであれば、ES細胞あるいはLIF存在下で形成したEBを用いてもFig. 1bの様な写真は取得可能だとの意見だと思います。」(胎盤に入り込んだ血管が光る件)なのか?
後半はEpiblast stem cellについて。
2つを転載。
なお、LIFは「マウスES細胞の分化抑制作用があるため、ES細胞の未分化状態を維持するために細胞培養時に用いられます。」(
和光純薬工業)
転載ここから
http://slashdot.jp/comments.pl?sid=626449&cid=2571312
解析、有り難うございました (スコア:0)
by Anonymous Coward on 2014年03月29日 7時21分 (#2571312)
kahoさん、素晴らしい解析を有り難うございました。私は最初、STAP細胞は桑実胚(Morula)を使った捏造実験ではないかと思っておりましたが(「球状」の形態、「胎児/胎盤の2方向性分化」からそう思いました)、小保方氏にその細工をするだけの技量があると思えず不思議に感じておりました。しかし、Kahoさんの解析により「STAP=ES」であることが強く示唆され、とても納得いたしました。
小保方氏が、若山教授に渡したマウスと異なる系統のマウスに由来する細胞塊をSTAP細胞と称して渡したことが判明した今でも、STAP細胞の存在を信じる声が残っていることには驚きます。さらに若山教授に対して不信感を抱く声まで出ていることを聞くと非常に残念な気持ちです。
若山教授へ不信感を示す声は、教授が「ES細胞キメラの胎盤はGFP陰性、STAP細胞キメラは胎盤がGFP陽性であった」「通常の方法でSTAP細胞のinjectionを何回も繰り返してもキメラは生まれなかったが、細胞をバラバラにせずに小塊に切り分けてinjectionしたらキメラが生まれた」と言われたことにあるようです。つまり、「STAP=ESならば最初からキメラが生まれたはずだし、胎盤でのGFP発現にESキメラとSTAPキメラで差があるという発言は出ないはずだ」ということから若山教授を非難しているようなのです。さらに丹羽氏が保有するES細胞の中には胎盤分化能を持つものもあるという話から(西川氏談)、丹羽氏が捏造に加担したような声まで聞こえてくるのは非常に残念です。
しかし、このことは以下のように考えれば説明ができます。小保方氏がES細胞をSTAP細胞と偽って渡す時には、ES細胞(接着細胞)をそのまま渡すことはできず、「浮遊細胞塊」つまりembryoid body(胚様体;EB)のようにして渡す必要があります(STAP細胞とはそもそも「浮遊した細胞塊」なので)。通常EBはLIFを除いた培地で作製しますが、この場合はLIF存在下で作製したはずです(STAP細胞の培地がLIFを含有するので)。このためEBほどには分化せず、未分化性がそこそこ保持されていたと考えられます。おそらくEpiblast stem cell(Epi-SC)のようになったのではないかと思われます。Epi-SCはキメラ形成能はありませんが、その理由はE-cadherinの発現がES細胞よりも低いためにICM(内部細胞塊)に取り込まれないからだとも言われています(丹羽氏の談)。つまりEpi-SCのようになった細胞浮遊塊(通称STAP細胞)をトリプシン処理により細胞をバラバラしてinjectionすればキメラは形成されなくても不思議ではありません。しかしトリプシン処理をせずに小塊に切り分けてinjectionすれば、トリプシン処理によるE-cadherinの切断が起きないためキメラ形成能が保持される可能性は十分にあります。さらに「マウスEpi-SC」が「ヒトES細胞」と酷似していることはよく知られています。そして、ヒトES細胞はマウスES細胞と異なり「胎盤に分化できる」ことも有名です(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17363553の論文のイントロをご参照下さい)。
つまり、マウスES細胞をLIF存在下で浮遊培養して作製したスフィア(小保方氏がSTAP細胞と呼ぶもの)は、(1)キメラ形成能を保持している、(2)しかしトリプシン処理によりキメラ形成能は消失する、(3)ヒトES細胞のように胎盤への分化能を持つ、と考えることはそれほど無理がないように思われます。
このように考えれば、若山教授はご自身が観察された実験事実を正しく伝えていらっしゃること、また必ずしも丹羽氏が持っている「胎盤に分化しやすい特別なマウスES細胞」を使わなくても今回のような事象が起き得るものと考えられます。つまり、今回の騒動は小保方氏個人の捏造事件と考えるのが一番無理がないと思います。
調査委員会の牛歩的対応には苛立を覚えておりますが、kahoさんの素晴らしい解析結果を基に、今回の事件が一刻も早く解決されることを心から願っております。http://slashdot.jp/comments.pl?sid=626449&cid=2571312
http://ameblo.jp/regenerative-kyoto/entry-10208106841.html
2009-03-13 00:00:00
エピブラストステムセルとヒトES細胞
テーマ:ES細胞
マウスES細胞とヒトES細胞は、名前は同じEmbryonic stem cell(胚性幹細胞)ではあるけれども、その性質には違う箇所が多々あるということが以前から知られています。
例えば、マウスES細胞は球状の盛り上がったコロニーを形成するのに対し、ヒトES細胞は扁平な単層のコロニーを形成する。
マウスES細胞の未分化性維持にはLIFおよびBMP4シグナリングが重要であることが知られているのに対し、ヒトES細胞の未分化性維持にはbFGFおよびActivin Aシグナリングが重要である。
マウスES細胞は一般的に用いられるトリプシンを用いた化学的な細胞乖離による継代に対する耐性を持つのに対し、ヒトES細胞ではトリプシンを用いて細胞を完全に単一な状態までばらばらにしてしまうと死んでしまうなどの違いがあります。
これらより、名前は同じでも違う細胞種であろうと考えられていました。
そんな中、2007年7月に、これらの違いの解明の手がかりとなるかもしれない研究成果が、ケンブリッジ大学のLudovic Vallierら、および、アメリカ国立衛生研究所(NIH)のRonald D. G. McKay、Paul J. Tesarらの2つのグループによって同時に報告されました。
Nature. 2007 Jul 12;448(7150):191-5. Epub 2007 Jun 27.
Derivation of pluripotent epiblast stem cells from mammalian embryos.
Brons IG, Smithers LE, Trotter MW, Rugg-Gunn P, Sun B, Chuva de Sousa Lopes SM, Howlett SK, Clarkson A, Ahrlund-Richter L, Pedersen RA, Vallier L.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17597762?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DiscoveryPanel.Pubmed_Discovery_RA&linkpos=1&log$=relatedarticles&logdbfrom=pubmed
Nature. 2007 Jul 12;448(7150):196-9. Epub 2007 Jun 27.
New cell lines from mouse epiblast share defining features with human embryonic stem cells.
Tesar PJ, Chenoweth JG, Brook FA, Davies TJ, Evans EP, Mack DL, Gardner RL, McKay RD.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17597760?ordinalpos=5&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum
これらの論文で報告されたエピブラストステムセル(Epiblast stem cells, EpiSCs, EpiS細胞)と名付けられた新しい細胞株は、マウスおよびラットの着床後胚の後期エピブラストから樹立された細胞株であり、その性質にはヒトES細胞との共通点が多く見られるということが分かったのです。
Vallierらは、5.75 dpcのマウス胚もしくは7.5 dpcのラット胚から取り出したエピブラストを、bFGF、Activin A存在下で培養することで、Oct4, Nanog, SSEA1ポジティブで、扁平なコロニーを形成する細胞株を樹立し、この細胞株は、トリプシンなどで単一細胞まで乖離すると大部分が細胞死を起こし、LIF, BMP4存在下では樹立できず、activin受容体阻害剤であるSB431542で処理することで分化することを示しました。
また、Oct4, NanogはES細胞より高レベル、Sox2はES細胞と同レベルで発現している一方、ICMやES細胞マーカーであるRex1(Zfp42)やGbx2の発現は見られないもしくは弱く、代わりにエピブラストマーカーであるFGF5, Nodalが高発現しており、グローバルな遺伝子発現もICMやES細胞よりもエピブラストに近いことも示しました。
多能性の検証のため、テラトーマ形成および胚様体形成を行ったところ、三胚葉形成能を持つことが分かり、また、ヒトES細胞のように、BMP4の添加により、原始内胚葉および栄養外胚葉への分化能を持つことも示された一方、ほとんどキメラに寄与できず(2/385)、ジャームライントランスミッションできないことも示されました。
McKay、Tesarらは、E5.5のマウス胚由来のエピブラストをMEFフィーダー細胞上にまくと、Oct4, Nanogを発現する上皮様のコロニーを形成するが、マウスES細胞の培養条件下では増殖できない一方、ヒトES細胞の培養条件下では増殖できることを見出しました。
この細胞は、ヒトES細胞のように、単層で大きなコロニーを形成し、グローバルな遺伝子発現も、マウスES細胞やICMよりもエピブラストに近いことが示されました。
また、ChIP on Chipにより、ES細胞と同様の、Oct4のNanog, Sox2, Oct4の発現制御領域への結合パターンを持つ一方、遠位エンハンサーによってOct4の発現制御を受けるICMやES細胞とは異なり、エピブラストと同様、近位エンハンサーによってOct4の発現制御を受けることが示されました。
テラトーマ形成および胚様体形成により、三胚葉形成能を持つことが示された一方、キメラには寄与できないことが示されましたが、BMP4で処理することにより、Blimp1とStella(Dppa3)が発現上昇することが分かり、生殖細胞に分化できることが示唆されました。
さらに、Oct4, Nanog, Sox2はES細胞と同レベルで発現しているものの、ICMやES細胞で発現しているPecam1, Tbx3, Gbx2, Dax1(Nr0b1), Stella, Piwil2, Stra8, Dazlの発現は見られないもしくは弱く、エピブラストで発現しているOtx2, Eomes, Foxa2, brachyury(T), Gata6, Sox17, Cer1が高発現しており、これらのEpiSCsで発現している遺伝子はヒトES細胞でも発現が見られることを示しました。
また、マウスES細胞、EpiSCs、ヒトES細胞において、Stella, Otx2, Nanogの転写開始地点周辺のH3K4およびH3K27のメチル化を調べたところ、このパターンもEpiSCsはマウスES細胞と異なり、ヒトES細胞と一致することが示されました。
この他、EpiSCsは、Oct4の標的遺伝子も、マウスES細胞と比べて7倍ヒトES細胞とオーバーラップしており、また、ヒトES細胞のように、JAK阻害剤によりLIFシグナリングを阻害しても未分化状態を維持でき、ALK阻害剤によりactivin経路を阻害すると分化することも示しました。
これらの報告に続き、ハーバード大学のNiels Geijsenらのグループによって、EpiSCsやヒトES細胞の培養条件と似た条件(bFGF, Activin A, BIO)で培養することにより、マウスの胚盤胞期胚から、ES細胞ともEpiSCsとも異なる新種の細胞株、FAB-SCsを樹立したという論文が発表されました。
Cell. 2008 Oct 31;135(3):449-61.
The growth factor environment defines distinct pluripotent ground states in novel blastocyst-derived stem cells.
Chou YF, Chen HH, Eijpe M, Yabuuchi A, Chenoweth JG, Tesar P, Lu J, McKay RD, Geijsen N.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18984157?ordinalpos=3&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum
Geijsenらはまず、マウス胚盤胞期胚をマトリゲルコート上にまき、bFGF, Activin A, BIO存在下で培養しても細胞株は得られないが、MEFフィーダー上にまき、bFGF, Activin A, BIOおよび(MEFから分泌されるLIFの効果を抑制するために)抗LIF抗体の存在下で培養すると、新しい特性を持った細胞株が得られることを見出し、この細胞株をFAB-SCsと名付けました。
おもしろいことに、マウスES細胞を樹立する際は、胚盤胞をまいてからICMが増殖し始めるまで結構時間がかかるのに対し、FAB-SCコンディションで培養した場合は、まいてから2日以内にICMの増殖が見られることも分かりました。
これは、ES細胞はICM中の少数の集団に由来するのに対し、FAB-SCコンディションはICM全体を増殖させることができる、もしくは、ES細胞の樹立にはエピジェネティックなリプログラミングが必要であり、そのために遅れるのではないかと考察しています。
樹立したFAB-SCsのコロニー形態は、マウスES細胞のようなタイトでてかった三次元コロニーではなく、EpiSCs様の単層のコロニーであり、Oct4, Sox2, Nanog, SSEA1を発現しており、ゼラチンもしくはマトリゲルコート上でも、血清およびLIF・BMP4なしで維持できることも分かりました。
次に、miRNAおよびグローバルな遺伝子発現をFAB-SCs、ES細胞、EpiSCsで比べたところ、EpiSCsでは発現量が少ない、miR-290クラスターなどのES細胞特異的なmiRNAや、miR-18a, miR-19a, miR-20aなどのES細胞において高発現しているmiRNAが、FAB-SCsでは発現していること、FAB-SCsは、EpiSCsよりもエピブラストマーカーの発現が低く、Stella, Blimp1, DazlなどのマウスES細胞では発現している生殖細胞分化関連遺伝子の多くも発現しておらず、EpiSCsともES細胞とも異なる遺伝子発現のパターンを持つことが示されました。
次に、FAB-SCsの多能性を検証したところ、胚様体は形成できるが大きくなれず、また、テラトーマも形成できないことが分かりました。
しかし、FAB-SCsを、LIFおよびBMP4の存在下で1週間培養すると、三胚葉全てに由来するテラトーマを形成できるように変わることが見出され、また、このLIF/BMP4で刺激したFAB-SCsは、FAB-SCコンディションに戻し、さらに1週間培養しても、テラトーマ形成能を保持し続けることも分かりました。
また、FAB-SCsはキメラに寄与できないのに対し、LIF/BMP4で刺激したFAB-SCsはキメラに寄与でき、ジャームライントランスミッションできるようにもなることが分かり、このLIF/BMP4刺激は48時間だけでも効果があること、FAB-SCコンディションに戻し、さらに1週間培養しても、キメラ形成能を保持し続けることも分かりました。
次に、LIF/BMP4刺激の前後で、Cdh1(E-cadherin)の発現が4-6倍も上昇することが分かったので、LIF/BMP4で刺激したFAB-SCsにおいてE-cadherinの発現をノックダウンしたところ、急速に分化することが示され、また、FAB-SCsにおいてE-cadherinを強制発現させてみたところ、三胚葉全てに由来するテラトーマを形成できるように変わることが分かり、LIF/BMP4刺激の重要なターゲットはE-cadherinの発現上昇であることが示唆されました。
最後に、ES細胞においてE-cadherinの発現をノックダウンすると、形態がFAB-SCs様に変化し、そのまま増殖するが、形成される胚様体・テラトーマのサイズが減少し、また、Oct4およびSox2の発現は維持されるのに対してNanogの発現が低下することも示しています。
このように、従来の分け方とは異なる、新しい分類の多能性幹細胞株の報告が相次いでいるのです。
2009年の2月には、ケンブリッジ大学のAustin Smithらのグループにより、エピブラストステムセル(EpiSCs)にKlf4を導入し、Mek/Erk、GSK3阻害剤存在下で培養することでiPS細胞を誘導したという報告がありました。
再生医療には関係ない(不妊治療には関係あるかも)のですが、キメラを作ってジャームに載せることに興味がある人にとっては重要になってくると思われます。
Development. 2009 Feb 18. [Epub ahead of print]
Klf4 reverts developmentally programmed restriction of ground state pluripotency.
Guo G, Yang J, Nichols J, Hall JS, Eyres I, Mansfield W, Smith A.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19224983?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_DefaultReportPanel.Pubmed_RVDocSum
由来する組織が違うES細胞とEpiSCsは、どちらもコア多能性遺伝子であるOct4, Sox2, Nanogを発現しており三胚葉分化能を持つのにも関わらず、前者はキメラに寄与できるのに後者はキメラに寄与できません。
そこで、Smithらは、これら二つの細胞種間の相互変換が可能であるかについて調べました。
まず、Oct4-GFP-IRES-puro r マウスのE5.75胚からOct4-GFPレポーターを発現するEpiSCsを樹立し、Oct4, Nanogを発現するが、Stella(Dppa3)を発現せず、着床後マーカーであるFgf5, T(brachyry), Leftyが発現していることを確認しました。
また、雌雄両方のEpiSCsを樹立し、雌のラインでのX染色体不活化を、H3K27のメチル化を指標に確認しました。
さらに、胚盤胞にインジェクションしても急速なOct4-GFPの発現低下が起こりICMに寄与できないこと、ES細胞の培養条件下で培養するとOct4発現を失い分化することも確認しました。
そこで、「ES細胞における自己複製の基底状態 」、「シグナル阻害によるiPS細胞樹立法の改善 」で紹介したように、以前からSmithらのグループによって報告されている、Mek/ErkシグナリングおよびGSK3の阻害とLIFの組み合わせによる血清フリーの培養条件(2i/Lif)を試してみました。
すると、EpiSCsは、2i/Lif培地中で培養すると大部分が分化し、Oct4-GFPを発現する細胞が3日以内に無くなってしまうことが分かりました。(129系統のEpiSCsでも同様)
一方、ES細胞とEpiSCsはそれぞれ初期と後期のエピブラスト由来なので、ES細胞は容易にEpiSCsに変化できるのではと考えました。
実際、ES細胞はEpiSCsの培養条件下で培養しても増殖でき、継代後には比較的均一なEpiSCs様の形態を示すようになり、Oct4の発現を維持しつつ、Nanogの発現低下およびRex1(Zfp42), Nr0b1, Klf4の抑制といったEpiSCs様の遺伝子発現を示すようになることが分かりました。
さらに、雌のラインでは、Oct4の発現とX染色体の不活化が同時に見られるようになることも確認しました。
(ちなみに、この後、2i/Lifコンディションに戻すと、時々はES細胞様コロニーが得られるが、EpiSCs培養条件下で4回以上継代するとリカバリーできなくなることも示しています)
次に、ES細胞からEpiSCsへの分化の間に顕著な発現抑制が見られる遺伝子の1つであるKlf4に注目しました。
まず、Klf4はES細胞においてはLif/Stat3シグナリングにより発現誘導を受けましたが、EpiSCsでは受けないことを示しました。
また、ES細胞においてKlf4を強制発現させると、以前の報告と同じく、Lif依存性が極端に低下することを確認した上で、EpiSCsの培養条件下で培養してみました。
すると、通常のES細胞で見られる反応と同様に、単層で増殖するようになり、Oct4の発現を維持したままES細胞特異的マーカーが抑制されることが分かり、Klf4の強制発現だけではEpiSCsへの変化を抑制できないことが示唆されました。
ただ、EpiSCs培養条件下で10回以上継代培養を行っても、2i/Lif培地に移すと、低い効率ではあるものの、ES細胞様コロニーが得られることも分かったことから、Klf4は、少数の未分化ES細胞の長期持続を許容するか、EpiSCsの一部を脱分化しES細胞様に戻す能力を持つことが示唆されました。
そこで、どちらが正しいのかを調べるために、piggyBac(PB)ベクターを用いてEpiSCsにKlf4を導入し、ES細胞様に戻るかどうか調べました。
この際、CAGプロモーターによって発現制御を受けるDsRed-IRES-Hygro r およびKlf4をloxP配列で挟み、PBベクターにサブクロしたベクターを使用しています。
Klf4/DsRed発現EpiSCsは、EpiSCs培養条件下では、ES細胞特異的マーカーが活性化せず、X染色体も不活化されたまま維持されていたことから、Klf4の発現だけではリプログラミングできないことが分かりました。
そこで、遺伝子導入後、48もしくは72時間で2i/Lif培地に移したところ、通常のEpiSCsと同様に、分化し、細胞が死んでしまいました。
しかし、2i/Lifで培養して4日経つと、ES細胞様のOct4-GFPポジティブコロニーが複数現れ、その効率は0.1-0.2%であることが分かりました。
また、遺伝子導入後、直接2i/Lif培地に移すと、~1%の効率でES細胞様コロニーが得られることも分かりました。
2i/Lifで培養してから72時間後に、出現したコロニーを12個ピックアップしたところ、10個が未分化形態とOct4-GFPの安定な発現を維持したまま増殖できました。
これらの細胞株(Epi-iPS細胞と命名)は、Stella, Klf2などのES細胞マーカーを発現し、Fgf5, brachyryの発現およびX染色体の不活化が失われていることが確認され、キメラ形成に寄与でき、ジャームライントランスミッションすることも確認されました。
また、PBベクターの挿入コピー数を調べたところ、1-3個であることが分かりました。
次に、Klf4がEpi-iPS細胞の維持に必要なのか調べるために、DsRedポジティブクローンにCre発現ベクターを導入し、DsRedネガティブ細胞を単離して、Klf4が除去されたEpi-iPS細胞を樹立しました。
この細胞は、ES細胞様の形態、Oct4-GFP発現、ES細胞マーカー遺伝子の発現を維持しており、X染色体の不活化も見られず、キメラ形成能、ジャームライントランスミッション能も維持していることが示されたことから、Epi-iPS細胞ではリプログラミングが完了しており、継続的な外来遺伝子発現や挿入変異に依存しているものではないことが示されました。
このように、今後、ICM様のES細胞と、エピブラスト様のEpiSCsの間で、自由に行き来できるような技術が開発され、その時々の目的にあった細胞を調整することが可能になるのではないかと考えています。
また、これらの細胞種の関係を解明していくことで、多能性とはなんぞや?リプログラミングとはなんぞや?という謎の解明にも繋がっていくのではないかと考えています。