![[MPV・ターボ] 試乗記&雑感(その3・快適性、安全性) [MPV・ターボ] 試乗記&雑感(その3・快適性、安全性)](https://cdn.snsimg.carview.co.jp/carlife/images/UserDiary/1917899/p1m.jpg?ct=a032cee5a4a0)
BGレガシィの乗り換え候補として、
マツダの新型MPV(ターボ)に試乗してきたので、
その様子を 5回に分けて報告する。
今回は (その3・快適性、安全性) である。
◎参考;
[MPV・ターボ] 試乗記&雑感(その1・接客編) は →
こちら。
[MPV・ターボ] 試乗記&雑感(その2・走行性) は →
こちら。
いわゆるミニバンの設計は、矛盾だらけで難しいと思う。あちらを立てればこちらが立たず。互いに相反する性能をどこでバランスさせるかは、そのメーカーの思想や技術力によって決まってくる。メーカーの思想により、何かの機能を生かすために別の機能を切り捨てることもあるだろう。あるいは技術力のあるメーカーならば、相反する性能であっても高いレベルで両立させることも可能かもしれない。クルマには、そうしたメーカー側の思想や技術力や各種制約などを背景に、結果として様々なキャラクターが与えられることになる。果たして MPV からは、どんなメッセージが読み取れるであろうか。
一般に、ミニバンのパッケージングに対する要求性能は、乗降性・各座席へのアクセスのしやすさ、座り心地・広い室内・開放感、乗車人数に応じたシートアレンジ・積載性確保、安全性などが挙げられると思う。以下、全くの私見だが、そういった視点から新型 MPV について評価してみようと思う。
■乗降性、各座席へのアクセスのしやすさ
後席左右のドアはスライド式で、開口幅も 785[mm] と大きめであることから、乗降性は優れている。このようなスライドドアは、もはやミニバンには必須だろう。セカンドシートやサードシートが3人がけとなるモデルでは、必然的に車幅も 1700[mm] (つまり3ナンバー枠) を超えることになるだろうから、ファミレスやコンビニなどの狭い駐車場で子供や荷物を乗せ降ろしするシーンを考えてみると、スライドドアドアの恩恵は計り知れないものがある。ついでに言うと、自車のドアが となりのクルマにドアパンチを喰らわせてしまう恐れもない。
ただ、セカンドシートが後ろに下がったままの状態 (リラックスモード) では、サードシートに直接乗り込みにくい。これは MPV に限ったことではないが、サードシートの乗降性改善のため、スライドドアの開口幅 (ストローク) をもっと伸ばしても良いのではないか。
現状では、各社ともスライドドアをめいっぱいに開けた状態であっても、なぜかドア後端がリヤバンパー後端よりもハミ出ないように設計している。つまり、開けたスライドドアがクルマの全長 (=車体の後端) を超えないように納めている。これは業界の自主規制によるものなのだろうか? もしも自主規制、あるいは社内基準だとしたなら、そのような規制・基準は無意味だと思う。なぜなら、もともとスライドドアではないノーマルドア (前ヒンジの後ろ開き方式) の場合、ドアを開けるとその後端は確実に車幅を超えて横にハミ出るし、またワゴン車の場合、テールゲートを開けるとゲート後端の軌跡はリヤバンパーの後ろをハミ出るように開口するからだ。つまりスライドドアであっても、開けた際のドア後端位置を ボディ後端以内に納めておく必然性は低いと考える。
だからサードシート専用ドアを備えていない (6ドアとか7ドアのクルマではない) 限り、乗降性を考慮したミニバンだと
謳う ならば、スライドドア後端の位置に縛られずに開口ストロークをもっと大きく取っても良いと思うのだ (マツダは現状でも、開口ストロークは広いと自慢しているようであるが)。・・・ただ、MPV のフロア高はそれほど高くないため、サードシートへアクセスする際も 「乗り上がる」 という印象はなかったことを付け加えておこう。
■シートの座り心地や開放感について
まず運転席に座ってみての感想。立体感を持たせた 3D ブラックアウトメーターは見やすいが、単にメーターに奥行きが感じられるだけであり、文字や目盛りそのものが立体的に見えるワケではないので、実用性という点ではあまり訴求力が感じられなかった。単にバーチャルなだけである。カタログにも 「バーチャルなグラフィックを投影」 とあるので、それ以上のものは期待しない方が良いと思う。
シートについては、運転席や助手席を含め、各席ともサイズは大きめである。サードシートの大人 3人がけはキツイが、2名までならば、大柄な人が乗っても座り心地に不満は出ないと思う。強いて指摘するならば、ゆったり感を出すためであろう、サイドサポート性が希薄な点が挙げられる。だがサイドサポート性の高いシートにしてしまうと、それと引き替えにウォークスルー後の着座性や 3人がけの際のゆったり感などとのトレードオフになってしまう。セカンドシートではアームレストを使用すれば (走行中、コーナリングで身体を左右に振られた際の) ホールド性は補えるので、サイドサポート性は別段問題にはならないと考える。
セカンドシートやサードシートでの視界は広い。アイポイントが高めなこともあって、窓ガラス越しに外の風景がよく見える。当初私は、「フロアが低床構造となっているぶん、相対的にシート高も低くなり、結果としてアイポイントも低めに抑えられることになるのかな?」 と思っていたが、実際には低床構造を謳う割にはアイポイントが高めだと感じた。これは、フロアからシート座面までの高さをムリに詰めることなく、乗員が着座後にも自然な姿勢を取って快適性を損なわないよう配慮した結果なのかもしれない。
ルーフサイドには後席用の空調吹き出し口 (配管とダクト) があるが、それによる天井の圧迫感 (ヘッドクリアランスの閉塞感) は感じられないない。サードシートのシートベルトも、未使用時はタング(差し込み金具)がブラブラしないよう固定できるなど細かい配慮がある点も美点である(画像参照)。総じて言うと、開放感はある方だ。なお、試乗車のセカンドシートにはオットマン(足乗せ台)が備わっていたが、果たして車体が前後左右に揺れ動く走行中にも有効性を体感できるアイテムかどうかは、私には不明だ。道の駅や高速道路のサービスエリアなど、クルマを駐めた状態で休憩・仮眠する際にはありがたい装備であるが・・・(注:走行中にオットマンを使用できるシート構造になっているかどうかは未確認)。
■シートアレンジについて
乗車定員を 8人 として製造認可を受けた MPV (※→ 後述の 「気になったこと」 参照)は、
カタログ上の シートアレンジ自体は
多彩 だ。しかしユーザーが
実際に 使用しようとすると、そのシートアレンジには
制約 が出てくる。以下、その具体的な例を紹介しよう。
実は今回の試乗の際、私はあらかじめ
チャイルドシートとベビーシートを持参 し、その
取り付け性も確認 させていただいたのだ! いわゆるミニバンは、スキーやレジャーなど仲間 (つまり大人) だけでの移動ばかりでなく、子供や赤ん坊を乗せる機会もあるだろう。実家に帰省した際には、親戚の年配者 (つまり、足腰の弱いお年寄り) を乗せることもあるだろう。そうした
ファミリー用途 で MPV を使用することを想定したとき、
チャイルドシートやベビーシートが一体どのシートに取り付けできるのか/できないのか、あるいは女性でも
容易に取り付けできるか否か。そういったことも非常に重要になってくるので、ぜひともチェックしておこうと事前に計画していたのである。
結論から言うと、
ISO-FIX チャイルドシートはセカンドシートにしか取り付けできない。固定用の金具(コの字型のフック)は、セカンドシートにしか内蔵されていないためだ。だから、「体格のある大人をセカンドシートに、小柄な子供をサードシートに」 乗せようとしても、それは事実上不可能だ。サードシートには所定の方法で ISO-FIX チャイルドシートを固定できないことが判った。
もしもチャイルドシートを必要とする子供が 2人以上いる家庭 (夫婦と子供で 4人以上になる家族) では、セカンドシートの左右それぞれを チャイルドシートで占めることになる。つまりこの状態では、運転手以外の
大人は助手席かサードシートにしか乗れず、上記で述べたスライドドアからの乗降性の面からも非常に不便である。「せっかくのスーパーリラックスシート(オットマン付き)にチャイルドシートを乗せて、大人はサードシートに乗り込む。」・・・これが 現状の MPV であるが、他社のミニバンも同様なのだろうか?
次に、ISO-FIX 方式ではないベビーシートの場合はどうか?
ここで念のために書いておくと、ベビーシートにも取扱説明書で明示された所定の固定方法がある。ブレーキングの際に前方に飛び出ないよう、車両のベルトをベビーシートの筐体を包み込むように前方から沿わせた上で、そのベルトを両脇のフックに通して固定するのだ(画像参照)。そのため、一般にベビーシートを固定するためには、車両側には十分に長さのあるシートベルトが必要である。換言すれば、リヤシートに
2点式 のシートベルトしか備わっていない場合はもちろん、たとえ ELR式 3点式シートベルトを備えていても
ベルトの長さが足りなければ、ベビーシートは
固定できない ワケである。
実は MPV のセカンドシートにベビーシートを載せようとしたところ、当初は車両シートベルトの長さが足りずに固定できなかった。原因は、セカンドシート用のシートベルトは C ピラーの付け根から伸びているため、セカンドシートを前方にスライドさせているとベルトから遠ざかってしまい、ベルトが届かなく (長さが足りなく) なってしまうからであった。対策としては、セカンドシートを後方に下げ、
シートを C ピラーに近づけてやる必要 がある。つまりベビーシートをセカンドシートに固定させる場合は、セカンドシートを思いっきり後ろに下げる必要があるため、そのぶんだけ
サードシートの足元のスペースは圧迫される ことになる。この状態でサードシートに大人(母親など)が乗るのはツライと思う。
■積載性について
荷室の容積が問題となるのは、サードシート使用時である。乗員がセカンドシートまでしか使わないときは、単にサードシートを折りたためば荷室容積が拡大するので、ここでは問題にしない。さてその肝心のサードシート使用時の荷室容積であるが、個人的な感想を述べると、この車体寸法を考慮すれば、大変優秀だと思う。理由は以下の 2点が大きい。
・サードシートのシートバック(背もたれ)から、バックドア(テールゲート)までの距離が
あるため、荷室の前後長が稼げている。一連の他社 1BOX カーとは雲泥の違いだ。
・荷室のフロアが深底である。つまり長尺物のみならず、日常の荷物 (洗車&非常用具、
スーパーで買い物をしたあとの袋、その他カバンなど)を余裕を持って積むことができる。
(※BOSE のスーパーウーハー装着モデルを除く。)
実は他メーカー製のミニバンの荷室容積には不満を持っていたのだが、MPV に限っては、なかなか容積が広く(特に深さ方向)、そのパッケージングを実現できた理由を不思議に思っていた。が、今回の試乗でその理由が分かった。荷室フロアを深底にできた理由は、「
スペアタイヤを標準装備していない」 からであった。つまり希望する者のみへのオプション扱いになっていた。あの荷室の深さは、スペアタイヤを収納しないことで実現していたのだ! ここでは良い悪いは論議せず、メーカーが思想としてそのように判断したのだということをお伝えして、この項を終わることにする。
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■その他、気になったこと(シートの可否、認可について)
マツダが MPV を
8人乗り 乗用車として認証申請したことは、私に言わせれば
反則 だ。なぜかって? あのキャプテン式 (セパレートタイプの) セカンドシートで 3人がけは無いだろう! 国土交通省も、よくまぁ、こうした仕様のシートによる乗車定員 8名の製造認可を出したものだ。半分あきれるよ。以下、その理由について順に述べる。
まず、MPV のセカンドシートは前後のみならず、左右にもスライドする。ベンチシート風にもキャプテンシート風にもアレンジでき、シートの中央を開けることでウォークスルーも可能としている。この点は大変すばらしい。
だがよく見てくれ。左右に分かれたセカンドシートをくっつけたとしても、一体
どこにセカンドシート中央席の背もたれ (シートバック) があるのだ? 左右のセカンドシートの脇からちょこんと生えている ”ヒジかけ” が、中央席用の背もたれ なのか? この細っこい四角柱状の物体 2本が、か? これでは全然 「面」 を形成していないではないか。さらに言うと、ヘッドレストも無いではないか。・・・座り心地は別として、まともな背もたれの無いシートの
安全性は確保されているのか、甚(はなは)だ疑問に感じる。たとえ補助的なものだとしても。
マツダはこうした一連のセカンドシートを 「からくりシート」 などと呼んで他社と差別化を図っている。「からくりシート」 自体のアイディアに独創性は感じられないが、現実にそれを実装した点は高く評価すべきで、例えば同じマツダのプレマシーでは、セカンドシート中央席は、収納可能なリトラクタブル式の補助席ながらも しっかりとした造りの座面と背もたれが装備されている(画像参照)。あくまで私見だが、プレマシーのセカンドシート中央席はシートとして認められるが、
MPV のセカンドシート中央席はイスとして認めるべきではない と思う。こんなシートもどきに座っていて事故に遭ったなら、どんなケガをするか分からない。「乗車定員 8人」 が
反則 だと言った理由は、そこにある。今回後席に試乗した知人も同様の意見であった。
もちろんユーザーの立場からすれば、シート形状が変わらないなら、乗車定員が 7人よりも 8人の方がありがたい。それも合法的なお墨付きであるなら、なおさらだ。だが、
人命を乗せる自動車を製造する社会的メーカー として、そのようなシートを 「是(ぜ)」 とする思想をマツダが持っているなら、私は
賛同できない のだ。話が少々それるが、反対に、軽量化のため何も考えずに標準装備のシートを安易に取り払うユーザーがいたなら、その行為も決して誉められたものではない (詳細はこちら →
リヤシート外しに見る法律のグレーゾーン(その3))。
果たしてシートの構造要件には、一体どんな規定があるのだろうか? 背もたれが無くても座面さえあれば、現行法ではシートとして認められるのか? もちろんシートとして必要な幅は確保しなければならないだろう。ここで改めて MPV のシートを見てみると、後輪のタイヤハウス間際で室内横幅に制約のあるサードシートまでもが 3人がけとして国土交通省の製造認可を受けている。カタログのスペック表によると、このサードシートの有効幅は 1165[mm]。とすると、一人あたりの座面の有効幅は 1165÷3≒388[mm]。何と、400[mm] に満たなくてもシートとして認められるのか! セカンドシートの座面有効幅は 1200[mm] なので、一人あたりの有効幅はギリギリ 400[mm] を確保しているが、背もたれが無くてもシートとして認可されるのであろうか? 何とも不可解だ。シートの構造要件が こんなザル法ならば、個人が 5人乗りワゴン車を改造して 7人乗りにでもできそうだぞ(別途シートベルトの要件を満たす必要があるが)。いや実際、レガシィを 7人乗りに改造した例を私は知っているのだが。
話を元に戻すと、安全上の理由により、私は MPV のセカンドシートが 3人がけ(トータルで 8人乗り)だとは、とうてい容認できるものではないと主張する。たとえユーザーの立場からは便宜的なものだとしても。
[MPV・ターボ] 試乗記&雑感(その4・見積編) に続く。