
今回のブログは「三菱ランエボ・ワゴンの試乗記と雑感」の総集編です。
◎(その1/接客編)は →
こちら。
◎(その2/走行性)は →
こちら。
◎(その3/積載性)は →
こちら。
◎(その4/見積編)は →
こちら。
【結論】
ズバリ、「
エボとしての走りの性能には納得できるが、
ワゴンとしての機能には不満が残る」。この一言に尽きる。
以下、その結論に至るまでの過程について、順を追って説明する。
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まず最初に、今回の試乗を通して確認できたことをまとめてみよう。すでにお伝えしている通り、グレードはGT(6MT)で、感想はあくまで私的なものである。なお、ここに触れられていないこと(例:ブレーキフィールなど)は可もなく不可もなく、別段特記することはなかったと捉(とら)えていただきたい。
【静的評価】
<良い点>
◎インパネフードが低く抑えられており、前方視界が良い
(デザインが古いという声もあるが)。
◎リヤのシートベルトが長いため、ISO-FIX
未対応 のチャイルドシート
やベビーシートでも、容易に固定が可能(他車種の中にはシートベルトが
短く、ベビーシートをうまく固定できない(長さが足りない)モデルもある)。
<要改善点>
◎シフトの中立がやや甘め。ストロークはもう少し短い方が節度感が出る。
◎ゲート入りしたあとの1速位置がやや遠い。
【動的評価】
<良い点>
◎フル乗車でも、2000rpm以上であればどのギヤからでも即座に加速開始する
フレキシビリティをもっている(いわゆるトルクバンドが広い)。
◎乗り心地は良い。市街地でもサスペンションの硬さは感じなかった。
<要改善点>
◎3400~3500rpm以下の加速は(アクセルの反応に対する食い付きは早いが)
際だったものではない。これは、6MTで1500kg という車重に起因しているかも。
ちなみに、BP型レガシィワゴン・tuned by STI (ブレンボ付き)はMT車で1450kg、
AT車で1480kgだ(ランエボ・ワゴンのAT車は1540kg)。
・レガシィ tuned by STI 諸元 →
こちら。 ・ランエボワゴン諸元 →
こちら。
◎4000rpm以上の領域での加速には、実用上不満はない。
◎リヤシートの人からは、排気音がうるさいとの声があった。
(運転席の私は気にならなかったが。)
【積載性評価】
<良い点>
◎未使用時はトノカバーを床下に収納できる。
◎フロアボードが3分割になっており、積載状況に応じて開閉できる。
<要改善点>
◎コンビニフックなどの工夫がない(オプションでは、ユーティリティフックの設定がある)。
◎小物収納スペースが限られている(場所がウォッシャータンクなどに占められている)。
◎切り立ったテールゲートのデザインの割には、リヤウィンドウ付近の天井高さは
それほど高く感じられなかった。
【その他】
<良い点>
◎この手のクルマにしては、オプションパーツが豊富。特に良いな、と思ったのは
「重量調整式シフトノブ」。何と、内蔵するウェイトの量を任意に調整することで、
ノブ重量を 92g~170g の範囲で可変できるのだ。操作性とシフトフィールの両立
に役立つアイテムになるだろう。
【私見】
「セダンと同等の
走り」 に重点を置く人に向いている。つまり、普段は荷物を積んで走ることは無いが、イザとなったら、かさばる荷物も積むことができる
ポテンシャル を
心の余裕 として持っておきたい客層にジャストフィットする。積載性を重視する(実際に普段から荷物を積んで走るような)客層には、走りの部分での不満は出ないだろうが、ワゴンとしての使い勝手には多少の不満が出るかもしれない。
エボとして見ると不満は少なく、ワゴンとして見ると煮詰めの甘さが出る ということだ。ワゴンのヘビー(ベビーではない)ユーザーには向かないかも。
「荷物も積めるランエボ(ワゴンボディを身にまとったランエボ)」ととらえるか、「エボ的な走りもできるワゴン(セダン同様の走りが期待できるワゴン)」ととらえるかによって、評価は真っ二つに分かれると思う。前者ととらえた者は(動力性能に大きな不満が出ないだろうから)納得のいくクルマだと評価し、後者ととらえた者は(ワゴンの使い勝手に小さな不満が残るだろうから)購入を躊躇するかもしれない。その意味では、ランエボ・ワゴンは「エボありき」のワゴンであった(ワゴンとしての仕様を改善する余地はまだ残っている)。
【雑感】
ランエボ・ワゴンの開発を担当した三菱自動車・岩田プロジェクトマネージャーは、日経産業新聞の取材に対して次のように述べている(情報ソース:2005年9月8日付け同紙より)。
<ランエボ・ワゴン誕生までの背景>
・「ランエボでワゴン」の構想は、実は2001年に一度あった。
・しかし、当時は時期尚早との判断でお蔵入りしてしまった。
・ところがリコール問題で苦況に陥った2004年5月ころ、
「限られた資源の中で造れる新車はないか」の議論が出た。
・そこでエボワゴンの再提案に対し、「絶対に赤字を出さない」
という条件付きでゴーサインが出た。
<赤字を出さないためのクルマ造り>
・「ランサーからランサーワゴン」を開発した時に較べ、
開発費を3割に抑制。
・ランエボやランサーワゴンとの
部品共用化率を95%以上 とした。
<開発にあたって>
・「ランエボの走りの部分については妥協しなかった。」
・「ワゴン車ではなく、ランエボのワゴン型ということを強調したい。」
ここまで読んだ読者はハッと気がついたことだろう。再建途上にある三菱は、イチから丸々の新型車を起こすだけの企業体力が無かったのだ。リコール問題は、開発部門にもそれほど深刻な陰を落としていたのだ。とは言え、企業が
競争社会で生き残る ためには新型車の開発が必要だ。となると、
「限られた資源の中で造れる新車はないか」という議論 になるのは
至極当然 の至りだ。そう、
短期間でコストをかけずに造れるもの・・・ランエボ・ワゴンの
正体 は、まさしくこれだったのだ!だが、経営陣のこうした判断は会社を存続させるためには正しいと私は思っている。私が「良くやった!三菱」と応援する所以(ゆえん)である。
三菱が「持てる力の全てを注ぎ」ながら、しかし、「時間やコストの制約に縛られて」苦悩の上に生み出されたクルマ。コストの制約さえ無かったら、三菱自身ももっと
ワゴンとしての品質 を造り込みたかったに違いない。その点で「ランエボ・ワゴン」は
悲運なクルマ だ。私が冒頭の 【結論】 で述べた、「エボとしての走りの性能には納得できるが、ワゴンとしての機能には不満が残る」 とは、そういう意味なのだ。そしてその結論は、上記で紹介したプロジェクトマネージャーの発言:「ランエボの走りの部分については妥協しなかった。ワゴン車ではなく、ランエボのワゴン型ということを強調したい。」という言葉によって、密かに裏打ちされている。
このランエボ・ワゴンは、国内では12月末までの2500台限定販売とされている。その理由は、三菱自動車・益子社長によると「プレミアム感を出したいから」だそうだ。その割には、9月7日の記者会見で社長は「英国などの欧州やアジア諸国への輸出を検討している」とも述べた。国内で限定販売としておきながら、輸出で台数を稼ぐとは、いかがなものか。「台数が少なければプレミアム」とする考えは、私に言わせれば旧態依然の思考回路だ。ユーザーはそのような市場操作に安易に乗ってはいけない。
だが、誤解してもらっては困る。ランエボ・ワゴンそのものは良いクルマだ。ワゴンのヘビーユーザーではない限り、その機能に不満を抱くことは少ないだろう。そして多くの人々は、そのオールマイティな性能に舌を巻くことだろう。ランエボ・ワゴンは、多様性を内に秘めた、紛れもない「ランサー・エボリューション」の進化形であることに変わりはないのだ。
以上、ランエボ・ワゴンの総括でした。私の一連のブログが、何らかの形で皆さんの参考になれば幸いです。
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【あとがき】
私は試乗記のいちばん最初に、
> なにぶん
素人 の試乗記と雑感ですので、「そうした物の見方をする
> 人もいるのだ、という軽い気持ちで読み流していただければ幸いです。
と述べたが、連続4回(今回の総括編を含めると5回)に渡る試乗記を読んで下さった方々の中には、「調布市のKAZって何者?」と疑問に思われた方々もいらっしゃるかもしれない。
だが、私は私であって私以外の何者でもない。人よりちょっとだけ苦労した人生を送っているかもしれないが、単なるクルマ好きの一青年である。クリスマスには愛車を前にして、
こんな衣装 で
こんなポーズ を決めながら記念撮影を断行するような者だ。あるいは
ゲゲゲの鬼太郎ネタ を書くこともある。「調布市のKAZ」の中に、一体、何人の「調布市のKAZ」が潜んでいるのかは、実は誰にも不明である。
ということで、今後もヨロシクです>ALL。