私はこの報道表現が嫌いだ。
土砂から掘り出されたときにはすでに死亡していたと考えられるが、「救出」としている。
きゅう‐しゅつ〔キウ‐〕【救出】 の解説
[名](スル)危険な状態から救い出すこと。「人質を救出する」
出典 デジタル大辞泉
すくい‐だ・す
すくひ‥【救出】
〘他サ五(四)〙
危難を免れさせる。困ったり苦しんだりしている状態から
助け出す。
※
経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉前「牢中に在る有志者以斯明等を救ひ出さんと」
出典
精選版 日本国語大辞典
救う以上、生きていることが前提の日本語だ。
何故こんな表現をするかと言えば、死亡を判定できるのは法律上医師に限られるからだ。
搬送先の病院で死亡が確認されても、掘り出されたときにはまだ生きていた可能性もある。土砂から掘り出されたときには法律上死亡が確定していないから、【生きている】前提の扱いをしているようだ。
類似の表現で、【心肺停止状態】、【重体】がある。
心肺停止は文字通り自発呼吸も血液循環も止まっている状態で、日本のマスコミ報道では事故や災害で死亡しているが、医師による死亡確認がされていない状態を指す。もちろん現実には心肺停止であっても蘇生するケースはあるが、マスコミ報道では「死亡」を意味する。
重体は「脳や内臓などに大きな損傷がある、生命の危機状態」である。これは死亡していなくてもかなり危険な状態と言えるが、この時点では生存していることが医師によって確認されていると言うことになる。
しかし、「救出」というと、あたかも生命に別状がないかのように感じる。もう少しマシな表現があるだろうに。
法律上の死亡確定は、災害・事故による死亡事実とは関係ない。このケースでは搬送先で死亡が確認されたとあるから、現場では既に死亡していたものと思われる(少なくとも救急隊員は生存サインを確認できなかったのだろう)。
どう考えても、死亡が確定していて、因果関係が明かなケースで、時系列にこだわって「救出」はそぐわない。
事故報道は警察発表をそのまま垂れ流すことが多く、「バールのような物」同様に警察発表で常用されているのかもしれない。しかし、それが報道に乗るとき、適切な表現に置き換えるのも報道の仕事だろうに。
社会部記者は警察記者クラブを通じて自分を警察と同一視するような感覚を身につけやすいと言われる。政治部なら政治家にだ。業界の隠語をそのまま使っていたりする。
そのうち露出狂が出たら「センターポールを出して…」とかと報道するようになるのだろうか。
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Posted at
2020/02/06 11:59:13