アゴラの記事から。
減少する熟練の技能…千葉の大停電、もうひとつの構造問題
2019年09月16日 08:00
酒井 直樹
(略)
東電は持ち合わせない現場工事のスキル
一方で、実はもう一つ重大な問題が、ここまで長引く停電復旧の根本原因が隠されているのではないかと私は思うのです。それは、東京電力のみならず、日本中の問題です。一言で言うと日本人がみんなホワイトな仕事につきたがって、現場がスカスカになっているということです。
私はもはや東電内部の人間ではないので断定はできませんが、折れた電柱を立て直したり、倒れかかってきた樹木や飛来物を撤去したり、寸断された電線を引き直したり、電柱に乗っている変圧器を交換したりしている写真や動画に映る「東電作業員」の多くは「東電社員」ではないと思います。
もちろん東電社員も寝食を忘れて献身的に作業をしているとは思いますが、彼らの多くは電柱の建て替えなどの現場工事のスキルをもはや持ち合わせていないので、その工事を行う協力会社の請負の現場監督や作業スタッフを手配したり企画・管理する役割を担うことが多いと思われます。
昔はこうではありませんでした。戦争直後の昭和20年代に入社した東電社員が、関東各地の各事業所の中核であった昭和40年半ばごろまでは、東電社員が自ら電柱を立て工事をしていました。彼らの多くは、当時金の卵と言われた地方から出てきた中学卒でした。
しかし、高度成長で業務量が飛躍的に増加したこともあり、次第に現場の工事作業の多くをいわゆる協力会社に委託・請負発注をするようになり、昭和55年頃には、社員は工事計画や設計、工事監理に当たるようになっていきました。
その受け皿になったのが職人や技能労働者です。例えば100mを超える高圧送電鉄塔に電線を引くスーパー鳶職がいて、そのスーパーな技能で全国の電力会社の現場を渡り歩いていました。彼らは尊敬され、高い収入を得ていました。又電柱の建て替えを担っていた作業員のかなりの部分は東北地方からの出稼ぎ労働者でした。
彼らは農業と電気工事のスキルを併せ持った熟練の職人でした。彼らは、どこかの会社に雇用される従業員ではなく、プロジェクトごとに集まり、仕事をし、報酬を得て去っていくインディペンデント・コントラクターでした。菅原文太と愛川欽也主演の東映映画トラック野郎や、渥美清主演の松竹映画男はつらいよの大ヒットに象徴されるような、独立自営業者に憧れる時代の空気が昭和50年代には確実にあったのです。
しかし、昭和60年代から平成バブルを迎える頃に、その空気が一変します。「危険・汚い・きつい3K」という言葉が流行し、現業職業を避け、技能労働を軽んじる風潮が生まれます。大学進学率がグングン伸び始め、大学全入時代に至るトレンドとはコインの裏表です。
新卒一括採用・終身雇用・年功序列という日本型雇用慣行がこの時期に完成して、「いい大学を出て、いい会社に入ってホワイトな机上仕事に就くことが唯一の人生の勝ちパターン」という物語を1億人が共有したわけです。
しかし、まともに考えれば、一階に技能を必要とする現場作業があって、二階に技術を必要とするホワイト職場があったときに、全員が二階に登ってしまったら社会は回らなくなるのは自明です。
私はNTT東日本と行った、マンションのイーサネット設計でひどい目に遭わされた、NTTの若造社員はすべて下請けに丸投げで、自ら責任を持とうともしない。工事日程に調整なども平気で何ヶ月もほったらかしにし、こちらで作った詳細な資料に目を通しもしない。問題が起こるとすべて下請けのせいにし、下請けに一筆書かせて責任を取らせる。無責任なこと甚だしい。
NTTの社員がすべてこうではなく、きちんと責任を持って遂行するものもいたが、無責任な丸投げ社員が一人ではなかった。おかげでサービスインが数年遅れ、サービスに大きな穴が開いてしまった。
現場のことが分からない、右から左に情報や仕事を回すばかりで自分が陣頭指揮に当たらず、なにかと責任回避を図る社員が増えがちなのは、恐らく東電も同じなのだろうとは察しがつく。
下請け業者は大概どこも低賃金で人手不足だ。無責任な元請け大企業社員がその何倍もの給与をせしめている。
技術継承は、すでに就職氷河期で採用抑制したおかげで困難になっている。さらに人が取れない状況だ。
こういう構造では、社会が回るはずがない。
エレベーターの保守の仕事は、日本では底辺のような給与だが、アメリカでは日本のサラリーマンの倍は得られると聞いた。
今回の停電復旧の遅れは、本社の現場状況把握が不十分であったり、最初から不可能な復旧予想数字のアナウンスをしたりしている部分に問題が大きいように見える。現場を知らない本社社員ばかりになり、問題把握もできず、事業組織として劣化してしまっているのかもしれない。
現場は倒木が多かったり、広範であったり、ごく限られたルートでしか給電されていないためにパワーグリッドが構築されていなかったり、電柱建て替えのための資材や要因が大幅に削られていたり、保守要員がもともと十分確保されていなかったりと、様々な要因が絡んではいるようではあるが。
しかし明らかなことが一つある。
技術や技能をリスペクトせず、搾取するばかりの日本社会がこのままもつはずがない。
Posted at 2019/09/18 10:23:02 | |
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